第420話 首になるとしても最善を尽くす

「指揮下の艦艇、空母と航空巡洋艦はどうなっている? 稼働機は?」


 コンスティテューションに戻ったモフェットは現状確認のため部下に尋ねた。


「艦は応急修理完了、中部甲板と上部甲板が使用可能で、発着艦出来ます。しかし、コンステレーションは本国へ回航させました。航空巡洋艦は健在なのが三隻のみ。稼働機は五〇機ほどです。明朝までに輸送船に乗せていた予備機を含め、七〇機まで上げる事が出来ます」


「もっと航空機があるだろう」


 輸送船にはアルヘンティーナで陸揚げして使う予定の航空機が分解して乗せられていた。

 今下ろせば、明朝までに飛行可能になるはずだ。

 だが幕僚は首を横に振って答える。


「この辺りに航空施設はありませんでした。牧場か草原でもあれば離陸出来ますが、ヤシ林ばかりで滑走スペースがありません」


「空母と航空巡洋艦から飛ばすだけで精一杯か」


「はい」


 モフェットは少し考えてから、命じた。


「直ちに出港準備、外洋に出て環礁に停泊する艦隊の上空援護だ。夜明け前までに全機発進させて上空援護だ」


「敵が来ると」


「制空権は向こうが掌握している。私なら、攻撃のチャンスだ」


「何を使って攻撃するのですか?」


「分からん。だが、敵はあの二宮忠弥だ。航空機を開発し、今も最先端を行く航空機の第一人者だ。我々が予想しない兵器を持っている可能性がある。もしかしたら航空魚雷を完成させている可能性もある」


「まさか、それなら先の海戦で使用していると思いますが」


「そうだな。確かにその通りだ。だが、嫌な予感がする。何時も予想外の事を行ってくる」


 航空機に関わってからモフェットは航空機について学んだ。

 そしてどの教科書にも必ず、忠弥の名前が出てくる。

 航空機運用上の問題が出ても、その解決策は忠弥が出していた。

 それもモフェットが予想しなかった方法で。

 忠弥が、何かするのではないかと気が気ではなかった。


「常に最悪の事態を想定しろ、現実はその斜め上を行く」


 これまで航空機に関わった、忠弥の事を調べたモフェットの偽りならぬ感想だった。


「攻撃を仕掛けてくると」


「ああ、私なら、奇襲に最適な夜明けを狙う。もしかしたら夜間に攻撃を仕掛けてくる可能性があるがな」


 夜間飛行を研究している忠弥の事だ。

 夜に攻撃してくる事も十分に考えられた。


「だが、やり方は流石に分からないし、そのための装備も我々は持っていない。ならば、出来る範囲で出来る事をするだけだ」


「もし、夜間に攻撃されたら」


「その時は私の首が切られるだけだ。心配するな、私は既に敗残の提督だ。この戦いが終われば責任を追及され、解任されるだろう」


 最悪の場合、海軍を追放される可能性も高い。


「だが、今はこの部隊の指揮官だ。可能な限り、最善の行動を行い義務を果たす。諸君らにはご苦労だが、頑張って貰うぞ。艦隊を敵の航空戦力から守り切るんだ」


「了解しました!」


 大損害と敗北に打ちのめされていた彼らだったが、モフェットの闘志を見てやる気を取り戻した。

 すぐに出港準備を整え、外洋に出て行くと敵が攻撃すると予想される夜明けを狙い、戦闘機隊の発艦を準備していた。


「モフェット司令官、報告があります」


「どうした通信参謀」


「はい、通信員が不審な電波を探知しました」


「どこだ」


「ここから南、およそ百海里の位置です」


「味方の艦艇ではないか?」


「それにしては遠すぎます。哨戒ラインは環礁寄りの四〇海里以内ですから」


 確かにおかしい。

 モフェットは、嫌な予感がした。


「全機直ちに発艦だ」


「予定より一時間早いですが」


「ああ、敵の動きが速そうだ。半数を早めに上空へ上げて警戒しろ。残り半分は予定通りに出すんだ。そして交代で下ろして、燃料補給を終えたら上空へ出せ。決して防空網を途切れさせるな」


「了解しました」

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