第419話 艦隊司令長官リチャードソン大将

「君には失望したよモフェット」


 戦艦ワシントンの艦橋でメイフラワー合衆国艦隊司令長官リチャードソン大将は、来艦したモフェットを叱責した。

 艦隊の補給拠点となるマホ環礁に入り、損傷艦の応急修理と補給を行う。

 モフェットの空母部隊も環礁に入り、状況報告のためモフェットがリチャードソンの前に赴いた後のことだ。


「申し訳ありません」


 失敗は事実のためモフェットは素直に謝った。


「皇国の航空戦力は予想以上に強力でした。制空権を確保出来ず申し訳ありません」


「そんな事はどうでもよい」


「は?」


「そのようなモノがなくても戦艦は、航空機に対して無敵だ」


 リチャードソンは、落ち着いた口調で語る。


「あのようなカトンボに強固な装甲を持つ強力な戦艦を撃破出来る能力など無い」


 リチャードソンは根っからの大艦巨砲主義者で戦艦一筋だ。

 若い頃から戦艦に乗艦しており、戦艦が全てを決定すると信じていた。

 航空機の将来性など認めていない、いや理解していなかった。


「……今は、偵察能力しかありませんが、いずれ、いや間もなく戦艦をも撃破出来る装備が出来るでしょう」


「モフェット、もういい加減にしたまえ」


 リチャードソンは首を振りながらモフェットを諭すように言う。


「君は優秀だが、どうも航空機に肩入れしすぎている。確かに弾着観測に有効だが、それ以上の能力はない。君の言う制空権を確保する為に、戦艦の上空を守る為、敵艦隊を発見するために航空戦力を増強した。しかし、航空戦力は戦艦の補助戦力でしかない」


「今は偵察しか出来ませんが、いずれ戦艦を撃破出来るでしょう」


「モフェット、もう良いだろう」


 リチャードソンは席を立ってモフェットに語りかける。


「航空機に入れ込みすぎだ。戦艦に戻れ。今なら何処かの戦艦戦隊の司令官になれる。降格されたと見なされるが、お前ならまだ十分に昇進のチャンスはある」


 戦艦出身で幾度かモフェットの上官として勤務したことがあるリチャードソンは、モフェットを部下ではなく弟のように見ていた。

 航空機の有効性、着弾観測と、敵が観測出来ないように追い払う戦闘機の有効性はリチャードソンも認める所だが、それ以上の発展の余地はないと考えていた。

 モフェットは優秀で完璧主義のため、やり過ぎるところがある。

 空母や航空巡洋艦を多数建造したのはやり過ぎだと思うが、同時にこれだけの規模の部隊を作り上げた手腕を評価している。

 しかし、これ以上航空機に入れ込んでも将来性はないためモフェットは大きくなれない。

 それはモフェット自身のためにも、メイフラワー合衆国海軍の為にもならないとリチャードソンは考えていた。


「戻ってこい、モフェット。戦艦が海軍の主力だ」


 モフェットを主流である戦艦に戻すことで、更なる飛躍が出来る、いずれ自分の後継者になり戦艦をより強くしてくれるとリチャードソンは考えていた。

 全くの温情、愛情からの説得だった。

 しかし、モフェットは自身の信念に基づいて、首を横に振った。


「いいえ、航空機こそ、将来の海軍の主力です。戦艦はいずれ、航空機によって葬り去られるでしょう」


「……分かった」


 リチャードソンは、説得を諦めた。


「ならば、お別れだな。いずれ今回の損害の責任を追及することになるだろう」


「構いません。それだけの損害を出しました。むしろ敗因を追及するため、航空機を上手く拡張出来なかった原因を探るために行うべきです。しかし、私はまだ、航空部隊の司令官です。最後まで任務を遂行させていただきます」


「何をするんだ」


「艦隊を敵の航空機から守らせて貰います。敵は航空機を知り尽くしております。微力ながら、我が艦隊を敵の航空機から守る為に制空権を可能な限り確保いたします」

「分かった。好きにすると良い」


 モフェットはリチャードソンに敬礼すると、ワシントンを離れ、コンスティテューションへ戻っていった。


「これでモフェットは終わりだな。損害の責任を追及される。救いたかったのだがな」


 リチャードソンはモフェットが立っていた場所を見て残念そうに呟いた。

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