第418話 メイフラワー合衆国艦隊本隊到着

「何だ!」


 突然現れた水柱に天城の艦橋は混乱する。

 名雲も、大きく動揺した。

 僚艦の砲撃ではない、一二インチとは比べものにならないくらい大きな水柱、倍くらいの大きさはあった。


「水平線上に発砲炎を確認! 籠形のマスト、メイフラワー合衆国のワシントン級戦艦二隻です!」


 見張りの報告で、すぐに名雲達は双眼鏡で相手を確認する。

 鉄の糸で編み上げたような外見を持つ籠形マスト。

 これを持つのはメイフラワー合衆国だけであり間違いは無かった。

 鉄管を編み上げ、同じ強度で軽量になると言われており、メイフラワー合衆国は好んで自身の戦艦に籠形マストを装備させていた。

 見間違うハズがない。


「敵の本隊がやって来たか」


 メイフラワー合衆国の戦艦は二一ノットと足が遅い。

 それでも戦闘が長引いたため到達されてしまったようだ。


「直ちに撤退だ」

「しかし、長官」

「本艦の装甲では敵戦艦の一六インチ砲に対抗出来ない」


 敵のワシントン級は一六インチ連装砲を四基積んでいる。

 巡洋戦艦の装甲は巡洋艦の八インチ砲に対抗出来れば良いとされ、戦艦に比べ非常に薄い。

 天城自身が装備する一二インチ主砲にも耐えられない。

 それより大きい一六インチを装備する戦艦ワシントン以下の戦艦の攻撃に天城級航空巡洋戦艦は耐えられない。

 下手をすれば一撃で轟沈する可能性がある。


「取舵一杯一八〇度反転! 全艦直ちに離脱せよ! かかれ!」

「はっ」


 名雲の命令は直ちに伝えられ、全艦が反転し、離脱していった。

 三〇ノットの高速を出せるように設計されており、メイフラワー合衆国戦艦の二三ノットより早く動けるため、皇国艦隊は離脱する事に成功した。




「メイフラワー合衆国の本隊が来てしまったわね」


 桜城に着艦した昴が溜息交じりに忠弥に言う。

 航空偵察戦隊は索敵のため皇国艦隊より前方に出たので、敵艦隊主力に遭遇してしまった。

 装甲の薄い航空巡洋戦艦など敵戦艦に撃破されて仕舞う。

 敵戦艦を仕留めるのは味方戦艦に任せるしかない。

 だが撤退は適切だが、敵空母を逃してしまった。


「まあ艦載機を半数近く撃破出来たから大丈夫でしょう」


 敵の戦闘機が少なくなれば制空権の確保は容易だと忠弥は考えており、それほど悲観はしていなかった。


「だとしてもこの後どうするの? 私達だけだと敵戦艦なんて撃破出来ないけど」


 残念な事に忠弥達は戦艦を撃破出来るような装備は持っていない。

 装備の開発が遅れているし、航空機の性能もまだまだだ。

 艦載機部隊では勝てない。


「大丈夫、とっておきのものを用意しているから。僕たちで撃破するよ。相原大佐、敵艦隊の位置は?」


 昴を安心させるように言うと相原に敵艦隊の事を尋ねる。

 予め、偵察機を送ってメイフラワー艦隊の動きを監視させていた。


「はい、予想通り、後続の輸送船団と共にマホ環礁へ行き、停泊しています」


 マホ環礁はアルヘンティーナから三〇〇キロほど離れた珊瑚礁で囲まれた広大な海域で、大規模な船団が停泊出来る場所だ。

 もしメイフラワー合衆国が、アルヘンティーナへの進撃を考えているなら、補給や修理のために、この環礁を拠点にすることは予想されていた。


「なら、計画通りにいけますね。天候は?」


「気象班の報告では早朝にかけて晴れ渡り、波も穏やかだと言うことです」


「よし、計画通り、明朝攻撃を行う」


「でも、戦艦を撃破出来ないんでしょう」


「大丈夫、撃破出来る装備を持ち込めば良いんだから」


 子供のようにとっておきの玩具を見せびらかすような笑みを浮かべた忠弥を見て昴はまたとんでもないものを用意しているな、と感じた。

 しかし、忠弥のことだ。

 敵艦隊を撃破出来る、新たな装備を用意していると思い、黙って作戦計画に乗ることにした。

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