第350話 包囲下の混乱 昴の行動

「第四九連隊敵の猛攻を受けつつあり! 救援を求めております」

「司令部に余剰兵力は無い! 死守させろ!」

「第五七連隊負傷者続出! 戦闘力低下!」

「医薬品を送って部隊で治すようにいえ! 負傷者を後送する余裕も場所もない! 野戦病院は既に満員だ」

「第三連隊正面の敵に動きあり! 攻撃破砕砲撃を求めています」

「他の連隊の支援で砲兵は回せない! 手持ちの火力で対処させろ!」

「第一連隊! 弾薬欠乏す! 二定数分至急送られたし!」

「弾薬は少ない! 一定数分だけ送れ! 無駄玉は最早ないと伝えろ!」


 司令部の中にいると緊迫した状況が伝わってきて昴は震えた。

 それに彼らの敵意は昴に向けられつつある。


「第四九連隊が後退許可を求めております!」

「防衛線を後退させる事は出来ない! 死守させろ! 後退も許さん!」


 幕僚は怒鳴り返して部下を黙らせると昴を睨み付けた。

 本当は後退させてやりたい。

 戦線を縮小すれば、多少は余剰兵力出来てマシになるし、守りやすい地形がある。

 だが空軍の要請、前線飛行場の安全を確保するために現状維持を求められた。

 正規の命令ではなく拒絶することも出来たが、どういうわけか連合軍最高司令部にねじ込み、正式な命令になってしまった。

 命令を受けたからには遂行しなければならない。

 部下の命を投げつけてでも。

 出た損害、苦戦する部下達の事を思うと命令を下した空軍、保護している空軍のパイロットである昴に怒りが向けられる。

 勿論無意識であり、彼らに悪気はない。

 しかし、彼らから向けられる憎悪が混じった視線に昴は傷ついていた。


(何でこんなことに)


 空で戦っていた方がマシだった。

 だが飛ばせる戦闘機はない。

 司令部に残っているしかなかった。

 その時明るいニュースが入ってきた。


「空軍から支援部隊が来ます!」

「本当か!」

「はい、飛行場周辺の敵を攻撃するそうです。攻撃目標の指示を求めています」

「空軍は分からないのか」

「乱戦で、敵味方の識別が難しく、下手をすれば同士討ちになるそうです」

「なら私が」


 幕僚の話しに昴が割り込んだ。


「私が前線に出て進出してきた部隊に指示を出します。幸い、愛機から取り出した通信機が残っていますし」


 機体は炎上したが、消火したとき、後方の通信機は無事だった。

 何かに使えると思い、回収して貰ったのだ。


「しかし、あなたが行くのでは」


 幕僚は躊躇った。

 憎らしい視線を向けたが昴は、皇国の有名人である。

 戦死したら、非難が集中する。


「ここで何もしないのは申し訳ありません」


 司令部で非難の視線を浴びるのはもうゴメンだった。

 昴は何か役に立ちたいと志願した。


「……分かりました。我々も、航空隊への支援の方法など知らないのでやってもらえるのらなありがたい」

「ありがとうございます」


 昴はすぐさま手伝いの兵士を付けられ、通信機を持たせて、最前線へ向かった。

 激しい砲撃が降り注ぐ部隊の元へ駆け込んだ。


「敵の位置は分かりますか」


 部隊司令部のある掩体壕に入った昴は尋ねた。


「我々の正面に砲列を敷いている。味方の砲兵は他に回されていて無理だ。空軍の連中は、空で踊ってばかりで、叩いてくれない」


 昴は空を見た。

 味方の初風と敵のプラッツDr1が激しい空中戦を行っている。

 帝国軍もカルヴァドスが重要と判断し戦力を投入していた。

 だが、数が多い初風が徐々に増えていった。

 制空権を連合軍が確保しつつあったのだ。

 昴は通信機を組み立て、通信を聞いた。


『こちら制空隊! 帝国軍を押しのけたぞ! 攻撃隊! 行くんだ!』

『分かった。だが何処に落とせばいいんだ』

「私が指示する!」


 昴は通信に割り込んだ


「こちらは皇国空軍少佐島津昴よ。爆撃を誘導する」

『了解しました。お願いします』


 昴は有名人であり、空軍の中で知らない人間はいない。

 ラジオ放送で空軍の宣伝や隊員募集を行っていたこともあり尚更だ。

 特に実戦部隊の間で知らない人間はモグリだ。

 新人でさえ、飛行機の情報を集めていて昴の声を聞いて空軍入隊を決めた人間が多いし、士官学校での講演を全員聴いている。

 聞き間違えるハズがなかった。


『了解しました。誘導をお願いします』

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