第172話 南東領空中戦

「行かせるか!」


 ベルケが時間を稼いでいる間に補給を終えたエーペンシュタイン率いる九機が迫ってくる忠弥の攻撃隊の前に立ち塞がる。

 だが攻撃隊を守る護衛隊一二機が立ち塞がり激しい格闘戦となった。

 エーペンシュタインの部隊は足止めされ、その隙に攻撃隊はカルタゴニア級飛行船へ接近し、攻撃を仕掛けようとしていた。

 三隻は互いに防御陣形を整え、対空砲かを挙げて弾幕を張り、接近を阻止しようとする。

 だが攻撃隊は弾幕の中を掻い潜り、艦尾から接近して攻撃しようとする。


「うおりゃああっ」


 護衛隊の攻撃からすり抜けたエーペンシュタインが攻撃隊に射撃する。

 味方に撃たれる事も覚悟でカルタゴニア級飛行船の弾幕の中に入ってきたのだ。弾幕の中に入ることで護衛隊を振り切る事に成功し、攻撃隊を迎撃する。

 更にエーペンシュタインの僚機も危険を冒してエーペンシュタインに追随し攻撃隊を撃破していった。

 弾幕の他、エーペンシュタインの攻撃もあって攻撃隊は混乱し、照準が狂い発射のタイミングはズレてしまい、放たれたロケット弾は全て空を切った。


「守り抜いた」


 攻撃隊の全機がロケット弾を無駄撃ちしたことを確認したエーペンシュタインはやり遂げた事に満足していた。

 カルタゴニア級飛行船は全艦無事で悠々と飛んでいる。

 だが、その進路上に新たな機体が六機ある事にエーペンシュタインは気が付いた。




「貰ったわ」


 ロケット弾を翼下に搭載した昴は目の前に広がる敵、カルタゴニア級飛行船の一隻に照準を合わせた。

 飛天型飛行船は一個中隊一四機に予備として二機、連絡偵察用に復座機二機を搭載している。

 そのうち予備の二機も忠弥は発艦させ、昴に託し、密かに迂回させカルタゴニア級飛行船の前に回り込ませていた。

 ベルケは皇国空軍戦闘機部隊の編成を知っており、一四機ずつの編隊で来たなら、全力出撃と判断するだろう。

 そこへ更に新手の攻撃機を送り込めば奇襲できると忠弥は考えていた。

 作戦は図に当たり、攻撃隊にカルタゴニア級飛行船が意識を向けていたこともあって、昴達は一発も撃たれる事無く射程内に入り込むことが出来た。


「食らえ!」


 昴が引き金を引くとロケットは盛大な白煙を上げながら飛び出していった。

 各機四発ずつ、二四発のロケット弾はその半数以上が一隻の飛行船、カルタゴニア級飛行船二番艦イフリキアに命中した。

 前部船体に命中したロケット弾は気嚢内部を貫通し、骨組みに命中爆発する。

 大穴から空気が侵入したことにより酸素と混ざった水素が大炎上を起こし始める。

 火の手は一瞬にして飛行船全体を包み込み、船体を高熱にする。

 予備の水素ボンベ、ガソリンタンクが加熱され発火点を容易く突破させ新たな葛西源となり炎上を更に大きくする。

 最早、救出は絶望的と悟った艦長は、脱出命令と不時着を命令、乗員を少しでも助けようと試みる。

 だが、火の手はあまりにも早すぎた。

 艦内は高熱となり、耐えきれなくなった乗員は火の手から逃れようと飛び降りたが、まだ着地していない――例え着地しても大炎上している船体上部は高すぎるため、墜落死した。

 そのような混乱の中でも艦長が冷静な指揮を行ったことは賞賛に値した。

 不時着寸前まで船体の水平を保ちつつ、全てのハッチを開放させ脱出口を確保させる。

 そして地上と接触するとき、バラストタンクの水を全て放出させ、落下の勢いを僅かに残った浮力で抑える事に成功、比較的小さな衝撃で着地に成功した。


「逃げろっ!」


 たった一言の単純な命令がスピーカーから最後の音声として流れ乗員は一斉にカルタゴニア大陸の大地に降りて自分の飛行船から逃れるべく駆け抜ける。

 乗員の半数が死亡したが、逆に言えば半数が生き残る事に成功した。

 だが、この戦いにおいて重要な戦力であるカルタゴニア級飛行船の一隻が失われたことに変わりなく、その後の戦局を大きく左右することになる。




「やった」


 飛行船を一隻撃墜したことに昴は満足した。

 出来れば、三隻全て撃沈したいところだったが、確実に一隻を撃墜する事を忠弥が求めたため、六機で集中攻撃した。

 おかげで確実に撃墜できたが、残りを仕留められず須原は少し不満だ。


「機銃で落とせないかしら」


 昴は攻撃の機会を探ったが、昴達に気が付いた残り二隻とエーペンシュタインの戦闘機隊が駆けつけてきたため、攻撃できなかった。

 昴は撤退命令を出して、飛天に向かって飛び去っていった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る