第171話 大混乱

「なんてことをしてくれたんだ!」


 宣戦布告とフォルベック将軍の行動を聞かされた忠弥は珍しく叫き散らした。

 周到に準備していた包囲網が状況に盲目的なルシタニアによって瓦解したのだ。


「司令、ルシタニアの現地軍から通信が」

「あのあほ共が何を今更」

「司令」


 飛天の艦長草鹿中佐が忠弥に落ち着くよう声を掛けた。


「彼らも本国の突然の宣戦布告に混乱しているのでしょう。今後フォルベック将軍の部隊はルシタニア領を暴れ回ることが予想されます。今後の作戦を考える上でも彼らと意思疎通を図るべきでしょう」

「う、うん」


 艦長に指摘されて忠弥は落ち着きを取り戻した。

 確かに今後味方になるのだから、役に立つにしても脚を引っ張るにしても、相手の話を聞いておく必要がある。


「それで何をして欲しいと」

「フォルベック将軍の部隊の進撃を阻止して欲しいとの事です」

「自分で何とかして欲しいが、出来ないだろう」


 弱小な植民地軍では一万に増えたフォルベック将軍の軍隊を止めることは無理だ。


「それと、領土上空を飛ぶ飛行船を何とかして欲しいと」

「味方の飛行船は飛んでいないはずだが」


 そこまで言って忠弥は気が付いた。

 味方で無ければ敵であると。 




「非常に幸運だな」


 ベルケはルシタニア領を進撃しながら上機嫌に言う。

 本国からの状況を無視した命令に呆然とした。

 事態を打開するため、損害を最小限に抑えるために、ルシタニア領を通過して攻撃する作戦を考えた。

 航空機が発明されてからまだ僅かしか経っておらず領空という概念が無いため、ギリギリ条約を回避可能と考え、領空を通過していった。

 だが、ルシタニア領土に入って暫くしてから宣戦布告の通達を聞き、最早制限は無くなったベルケは遠慮会釈無く、行動する事を決めてフォルベック将軍の援護に向かった。


「全機発艦用意!」


 ベルケは命じた。

 三隻のカルタゴニア級飛行船に乗せた各一二機合計三六機の戦闘機全てを出して連合軍の航空基地を攻撃。出来れば進撃路を破壊することも狙っていた。

 狭い渓谷沿いにあるため、通行可能な道路と橋、トンネルは少ない。そこを攻撃し通行不能に出来れば追撃を止める事が出来る。

 フォルベック将軍達はより長く戦えるだろう。


「エンジン始動!」


 アルバトロス戦闘機のエンジンが軽快に周り始める。

 アームの先端に移動すると、下部のハッチが開き地上が流れていく。

 アームが降りて飛行船の外へ行くとロックが外され、ベルケの機体は飛び出した。

 残りの機体も発進し進撃を開始する。

 発艦の間隔を考えて六機ずつ、二波に分かれての攻撃となった。

 それでも三隻合計一八機による空襲が行われた。

 航空機の無いはずのフォルベック軍、それもルシタニア領の方からの攻撃に連合軍は完全に虚を突かれ、ベルケの襲来に備えて待機していた、航空機は次々と撃破された。

 滑走路周辺に隠されていた機体や物資も、隠匿作業に慣れていたベルケの部下達にはお見通しで、全て破壊された。

 僅か数分で攻撃は終了し、地上航空戦力は壊滅した。

 第二波は攻撃目標が無い事を知ると、渓谷沿いにある橋やトンネル、道路上方の崖を狙って攻撃、破壊もしくは崖崩れを起こし通行不能にすることを狙った。

 さすがに爆弾が小さすぎて橋は破壊できなかったが、崖崩れによる封鎖と土砂の排除で連合軍は時間を浪費することになった。


「燃料補給を急いでくれ!」


 着艦したベルケは整備員に命じた。


「すぐに忠弥さん達が来る。第二波が戻るまでに最低三機は発艦させたい」

「了解しました!」


 収容しつつ燃料補給を行うことになった整備員はてんやわんやとなったが、ベルケの要求に応えて、最初に着艦した三機が出撃準備を整えた。


「発艦!」


 予定通り第二波が戻ってきた時、遠方から向かってくる機体が見えた。


「やはり来ましたね忠弥さん」


 見間違える事は無かった。何度も交戦している連合軍戦闘機疾鷹だ。

 数は四二機。

 連合軍は一四機の一個中隊が空中空母航空隊の基本編成だから三個中隊、三隻の空中空母がいる。

 一方ベルケ達が発艦できたのは九機のみ。

 四倍以上の相手をしなければならない。


「敵の方が数も多いし、滞空時間も長い。カルタゴニアが離脱するまで何とか守り切るんだ!」


 だが攻撃を成功させたベルケは後は逃げるだけだった。

 カルタゴニアを守り切れば勝ちである。

 一方の忠弥もそれは理解しており、執拗に追撃してくる。

 先頭にいる一四機が突進してくる。


「制空隊か」


 ベルケ達護衛を牽制し攻撃隊が通過出来るようにするための部隊だ。


「突破して攻撃隊を撃破するぞ!」


 ベルケ達は飛行船を一撃で撃沈し得るロケット弾を持った後方の疾鷹に向かって突進する。

 そうはさせましと忠弥が上空から覆い被さるようにベルケに襲い掛かってきて、戦闘に突入した。

 突破しようとするベルケと、防ごうとする忠弥。

 互いに優位な位置を占めようと激しい格闘戦が起こる。

 上下左右に旋回し、後ろを取ろうとする。時にそう見せかけて攻撃隊に向かうなどの駆け引きも行われる。

 それでも忠弥の航空隊の方が機数が多く、攻撃隊はベルケの防空網を突破してカルタゴニアへ向かう。


 

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