第173話 飛行船撃墜
「一隻撃墜か」
戦場となった空から格闘戦の最中に炎上墜落していく飛行船を見て忠弥は満足した。
撃沈と言うべきか迷ったが空だから撃墜で良いと考えた。
無理をすれば更に二隻を撃破出来たかもしれないが、三隻とも逃がしてしまう可能性を考えて確実に一隻は撃墜できるよう昴に集中攻撃を命じていた。
あとは、数の少なくなったベルケを圧倒的な数の差で撃破するだけだった。
「帰還する!」
忠弥は全機に指示して飛天に向かって帰って行く。
「激しい空戦だったな」
数の差はあったが互いに技量が伯仲していたこともあり、格闘戦となったため、意外と撃墜数は少ない。
互いに動き回るため、撃墜のチャンスが少ないからだ。
それでも忠弥は三機を撃墜していたし、編隊を見ると、穴の空いた部分が目立つ。
双方共に損害が出ている。
それでも、忠弥の方は出撃機四八機の内、撃墜されたのは四機ほどだろう。
被弾して使用不能になる機体も出てくるだろうが、それでも四〇機はいるし予備の機体もまだある。
ベルケは一隻を失って一二機は失っている。残りは予備も含めて三〇機程だし、発艦速度が低いため忠弥の方が優位だ。
やがて飛天型飛行船三隻が見えてきた。
「しかし酷い編隊だな」
穴が空き、崩れた編隊を見て忠弥は呟いた。
大乱戦で疲労しているのか、編隊が前後に間延びして後ろが見えにくい。
「うん? あれは」
その時後方から見慣れない機体を発見した。
いや、見覚えはあった。帝国軍のアルバトロス戦闘機だ。
編隊の真ん中を爆弾を積んだアルバトロス戦闘機が駆け抜け、飛天に向かって突入した。
「しまった!」
忠弥は急いでスロットルを開き、追いかける。
味方だと思っているのか、味方うちを恐れているのか飛天からの防御射撃はない。
忠弥はアルバトロス戦闘機に追いつくと射撃を行い撃墜した。
すぐに火を吹き、バランスを崩して地上へ墜落していく。
それを観てようやく敵襲に気が付いた飛行船から弾幕射撃が行われるが、その時には残りの一機が越天に向けて爆弾を投下していた。
爆弾を投下したパイロット、ウーデット中尉の腕は良かった。
エンジニアの息子で少年時代は不良だったが、忠弥の初飛行と大洋横断に刺激され、自力でグライダーを製作している。製作した機体は飛ぶことは出来なかったが、彼の空への憧れは更に高まり、帝国に出来たばかりの飛行倶楽部とその民間パイロット養成所へ入り訓練を経てパイロットとなった。
大戦が始まると身長が低いため徴兵されなかったが、パイロットとして志願し従軍。
その時いくらかの功績を挙げて、ベルケに見いだされベルケの飛行隊へ入った。
ベルケに引き抜かれただけあって、戦闘機パイロットとしての素質は優れていた。
だが、ウーデットの才能の中で一番光っていたのは、地上攻撃だった。
狙った陣地に――僅かな隙間から大砲や銃を出す機関銃の掩蔽壕の開放口へ正確に爆弾を落とす技術は、ベルケの飛行隊の中でも一番輝いていた。
地上攻撃が主となる今回の作戦に抜擢されたのも当然であり、隠された物資集積所や飛行機に爆弾を落とし、作戦を成功に導いた功労者だ。
その腕を見込まれ、ウーデットはベルケから今回の攻撃を任された。
ウーデット中尉はベルケの期待に応えた。
彼は素早く越天の上空に出ると攻撃針路にはいる。
僅か数秒で狙いを付けると爆弾を投下。
放った爆弾は至近距離だったこともあり、臨時艦長草鹿中佐の指揮もむなしく越天の前部にある中心線、最上部を通る骨組みに命中し爆発した。
爆発によって骨組みが破壊され、周辺二つの気嚢に穴が空き、内部の水素を燃焼させた。
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