第325話 襲撃作戦成功

「忠弥! 大丈夫!」


 戻ってきたカッターに昴は駆け寄った。


「無事だよ」


 カッターに救助された忠弥は、先に回収された昴を見て安堵し、無事をアピールした。

 洋上に不時着後、救助され王国駆逐艦の甲板に忠弥が降り立つと昴は安堵し、そして怒った。


「もう、心配掛けないでよ」

「仕方ないだろう。空母が被弾して発着艦不能なんだから」


 空母は爆弾一発を受けて着艦不能になりこうして洋上に不時着させた。

 これが一番安全だ。

 また横滑り着艦をするより遙かに安全だ。

 あんな曲芸をもう一回するなんて不可能だ。


「で? 作戦は上手くいったの?」

「何とか成功だ」


 駆逐艦上空を占領地域沿岸へ向かう爆撃機を見ながら忠弥は呟いた。

 全ての奇襲部隊が撤退し終えたら、海上部隊への追撃を避けるため、強行着陸に使った飛行場の滑走路を爆撃し使用不能にする仕上げの部隊。

 彼らが行くのであれば作戦は終わったのだ。

 戦果確認を行う偵察機からの報告を待つ必要があるが、上空から見た限りでは全ての目標を破壊あるいは達成した。

 帝国潜水艦が出撃する水路は閉塞船で完全に塞ぎ、ブンカーは完全に破壊。

 潜水艦基地としての機能は完全に破壊した。

 洋上に出ている潜水艦があるが、いずれ燃料と魚雷を撃ち尽くし、活動不能になるだろう。

 目的は達成されたと言って過言ではなかった。

 一方、これだけの成果を上げながら空から襲撃する奇襲効果もあって人員の損害は非常に軽微だ。

 航空母艦の龍飛が被弾、発着艦不能になっているが、沈没の恐れは無く、ドックで飛行甲板を修理すればまた使えるようになる。

 ひとまず安心だった。


「ただ、実戦使用は難しいな。一発の爆弾を飛行甲板に喰らっただけで発着艦不能になるのは」


 実戦だと敵側の攻撃がある。たとえ一発の爆弾でも投下し命中させるチャンスは相手にもある。

 そんな状況で一発の爆弾が命中して戦力喪失となるのは兵器として大きな欠点だ。

 早急に解決しなければ、と忠弥は考えた。


「二宮将軍」


 ゆっくりしていると駆逐艦の艦長が話しかけてきた。


「憎き潜水艦基地破壊ありがとうございます。お陰で王国は救われます」


 最大の戦果は帝国による通商破壊が不可能になった事だ。

 王国へ食料や工業製品の原材料を運ぶ輸送船が沈むことがなくなれば最早、王国が飢えに苦しむことはない。


「貴方は王国の英雄です」

「ありがとう」


 称賛を受けるのは素直に嬉しかった。

 苦労して立てた作戦が上手くいくのは嬉しい。


「これで、帝国が講和に赴いてくれれば良いのだが」


 国際的非難を無視してまで行った無制限潜水艦作戦の根幹である潜水艦基地破壊により、帝国は連合国に対する対抗手段が無くなり、講和の可能性も見えてくる。

 これ以上の交戦は勝利の見込みは無く、帝国を破滅に導くだろう。

 それは避けて欲しいと忠弥は思った。




「損害は?」


 飛行場に降り立ったベルケは、各所の被害報告を纏めにいったエーペンシュタインに尋ねた。


「……甚大です」


 少し躊躇った後、エーペンシュタインは報告した。


「飛行場は格納庫などが破壊され、撤退間際にも滑走路を破壊されて航空機の出撃は不可能です」

「飛行場はいい! 潜水艦基地は?」


 ベルケは無意識に遠回しに言うエーペンシュタインに聞きたいことを尋ねた。

 飛行場の損害は、飛行隊の隊長として非常に辛い。

 だが、ブルッヘ周辺に多数の飛行場を造った目的は、潜水艦基地を敵襲から守るためだ。

 守る相手がどうなったか、ベルケは指揮官として把握しなければ、いや結果を聞く義務があると考えていた。


「……壊滅です」


 静かにエーペンシュタインは答えた。


「基礎部分が爆破、破壊され、ブンカーは完全に崩落しました。一部、崩落を免れた部分もありましたが、内部の機械はあらかた破壊され、潜水艦への支援能力を失いました」

「……そうか」


 ブンカーが破壊されては潜水艦を防御できない。

 特に支援の為の機器が破壊されたことは痛い。

 精密機械を使う潜水艦では整備のための機材が必要なのは、同じく飛行機という機械を使うベルケには痛いほど理解できる。

 適切な整備、支援を受けられなければ、出撃不能になる。

 替えの効かない機材が破壊されては潜水艦の活動は停止状態になるだろう。


「ブンカーの他にも出撃のための水路を閉塞船が埋めています。航行可能なように撤去するには時間が掛かります」


 さらにブンカーへ向かう水路にわざと船を沈めたため潜水艦が通れなくなっている。

 二重の意味で基地は使用不能になった。


「現在、後方の母港で整備を行う予定ですが、母港の設備をブルッヘに移設したため、母港の機材も不足しています。活動は不活発になるでしょう」


 他にもブルッヘと比べて母港は作戦海域まで遠い。

 効率が悪化するだろう。


「まさか、強行着陸して歩兵が出てくるとは」


 予想外の使用方法にベルケは戸惑いと恐怖がこみ上げてきた。

 自分と忠弥では全く発想力が違う。


「このままでは拙いな……」


 危機感をベルケは募らせた。

 これ以上は戦えないだろう。戦っても、更に上を行かれる。

 だが、戦争を続けるとなれば、再び戦う事になる。

 その時何をするべきか、ベルケは苦しみつつ覚悟を決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る