第289話 戦争の因果

「しかし、因果な事です」


 電話越しにケーニッヒ艦長はベルケに呟いた。


「本来なら、合衆国との貿易が戦争継続に役に立つのに」

「全くだな」


 潜水商船として戦略物資を合衆国から輸送するのがマインライヒの役目だった。

 だが無制限潜水艦作戦のために合衆国が参戦。

 帝国を滅ぼそうと大軍を船団で輸送している。

 マインライヒは行き場を失い、無制限潜水艦作戦――帝国攻略に向かう合衆国船団襲撃をする潜水艦、彼らを支援する飛行船部隊への燃料補給の任務にあたっている。

 もし、無制限潜水艦作戦が無ければ、マインライヒはより多くの物資を運び込むことが出来たはずだ。

 しかし、連合国を締め上げるはずだった無制限潜水艦作戦のために中立国の船、合衆国の船を沈めたために反感を買って合衆国を参戦させてしまった。

 いや、中立国のくせに合衆国は連合国へ大量の物資を売りつけているのだ。

 国際法違反、中立義務の違反で合衆国も同罪であり、物品を乗せた商船を撃沈されても文句は言えない。

 だが、現実には合衆国が参戦してくると帝国に勝ち目などない。

 唐突に魚雷を発射して撃沈する無制限潜水艦作戦ではなく、国際法に則り、戦時禁制品、武器弾薬を乗せているか確認して撃沈するべきだった。

 いや、王国が制海権を持っている大洋で、忠弥の飛行船部隊が徘徊する洋上で怪しい商船を長時間止めて臨検するなど見つかりやすく自殺行為だ。

 潜ったまま魚雷を撃ち込むだけの無制限潜水艦作戦の方が味方の被害は少ない。

 しかし、合衆国を参戦させてしまった。

 だが連合国に物資を納入する合衆国船舶を、前線の仲間を殺す物資を積み込んだ船を、そのままにしておけない。

 どうしようもない矛盾、因果に巻き込まれた


「ままならないものだ」


 いや、戦争とはそういうことなのだろう。 

このような状況に陥った時点で帝国はかなり不味い状況にある。

 勇ましく戦っても、勝利が見えてこない。

 最前線に立つベルケは日々実感しつつあった。


「左上空! 敵機来襲!」


 補給を終える寸前、見張員の警告が響き渡った。


「見つかったか」


 ベルケは歯がみした。

 補給中の奇襲を警戒して一隻の空母が常に上空で警戒機を出して援護するようにベルケは定めていた。

 だが、目視に頼るため、雲が多いと、どうしても見落としがある。

 敵に補給用潜水艦の存在が明らかになるのはいずれ起こると考えていた。

 バレたのなら仕方ない。

 この上は補給用潜水艦を守ることを考えなければ。


「補給作業中止! 直ちに上昇! 潜水艦は潜航しろ! 係留索、及び燃料ホース回収急げ!」


 マインライヒが潜航できるよう作業を全て中断する。

 カルタゴニアが受け取った燃料は予定量の三分の二程度だが、十分だ。

 足りなくなればまた補給を受ければ良い。

 そのためにも補給用潜水艦マインライヒには生き残って貰う必要がある。


「カルタゴニア全速前進! 上昇せよ! 敵編隊が来るぞ! 緊急発艦用意!」


 敵機がやってきたのは偶然ではないだろう。

 だとすれば既に攻撃の準備を補給用潜水艦を攻撃する準備を整えているはずだ。

 ベルケはマインライヒを逃がすため、彼らが離脱するまでの時間を稼ぐ必要がある。

 そのために飛行機を出すように命じた。


「ブレーメンは?」


 空中警戒中の僚艦の事をベルケは部下に尋ねた。


「既に索敵機を放っています。報告では、空中空母二隻を発見したそうです。それと空中援護の為の戦闘機を発艦させています」

「他の空中空母は?」

「一隻、向かってきています」

「よし、良いぞ」


 これで空母の数は三対二でベルケの方が多い。


「敵もそう多く空中空母を出せまい。集合した艦だけでも戦闘を行う。早く上昇して発艦態勢を整えろ」


 発艦能力も搭載機も双方ともほぼ同じ、ならばもう一隻が到着するまで自分たち二隻が粘りきれば、後から参戦する空中空母が皇国空軍の空中空母へ攻撃隊を送り出して勝てる。

 敵が攻撃隊を出してこなければ、此方から出して徹底的に叩ける。

 ベルケはそう思っていた。

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