第290話 双胴空中空母 大鳳
「飛天の索敵機が潜水艦から補給中の敵空中空母を発見しました」
「情報通りですか」
草鹿の報告に忠弥は呆れと驚きを混ぜ合わせたような声を上げた。
まさか潜水艦にガソリンを積ませて補給しているとは忠弥も思わなかった。
いや第二次大戦で日本海軍は保有する世界水準の大型飛行艇、九七式大艇と二式大艇の航続距離を伸ばすために一部の潜水艦を改造し活用し、長距離偵察および攻撃を行った。
あまり知られていないが僅か二機の二式大艇だけだが第二次ハワイ攻撃を行った。
かねてから大艇の活用に帝国海軍は熱心で専用の潜水艦を作った程だ。
しかし専用艦は完成したのが制空権を奪われた大戦後期ために活躍できなかったが、似たような手を考える人間がいても不思議ではない。
ましてベルケなら似たようなアイディアを思い浮かべるだろう。
「厄介だな」
技術は出来る事の積み重ねである。
誰でも出来るからこそ、航空機は製造できるし操縦できる。
21世紀の地球の技術を異世界に持ち込んで活用できるのも誰でも使える、同じ手順を経て同じように作り操れば同じ結果になるのが技術だ。
まねの出来ない技術、独自の技術とか安易に言う人間がいるが、忠弥はそんなのは言葉遊びだと思っている。
まねが出来ないのでは技術では無い、他の人間に、後の人間に継承する事も普及させることも出来ない。
真の技術は誰でも安易に使えるものだ。
そのため、敵に使われる事も想定する必要がある。
「さすがベルケだね」
「嬉しそうね」
敵を褒め称える忠弥に昴は呆れたように言う。
「そりゃね。皆には申し訳ないけど、僕の技術を使いこなしてくれているからね」
自分が持ち込んだ技術が敵とは言え活用されているのは、その技術が優れている証拠であり、様々な場面で使われる事は技術者にとって本望だ。
自分でも想定していないような使い方をしてくれるのは、むしろ嬉しい。
たとえ敵であってもだ。
「そんな厄介な相手と戦うこと事になるのだけれど」
「まあ、皆に苦労をかけるのは分かっているよ。でも相手の上を行くように新しい技術やプランを用意すれば良いのだけど」
だから忠弥は、新たな技術や計画を作り出す。
そのために昴達が翻弄されることも多々ある。
だが、成果を挙げているために、面と向かって止めるように言う事は出来ない。
むしろ役に立つので楽しみにしているところがある。
失敗してひどい目に遭うことが多いのに最後には大成功を収めるのだから始末が悪い。
「今回も用意周到に準備していたしね」
昴は広いブリッジを見て呆れかえった。
これまでの飛天のブリッジの優に三倍はあるであろう広さを持つブリッジだ。
目の前の窓は広く左右上空に円筒形の物体が突き出ている以外は視界は良好である。
「まさかこんな馬鹿でかい空中空母を、飛天級二隻分の船体を使って作るなんて思いもよらなかったわよ」
いつも忠弥の無謀な事になれている昴でさえ呆れて言葉も出なかった。
しかし、忠弥はニコニコ笑いながら嬉しそうに、玩具を自慢するように言った。
「凄いでしょう。双胴空中空母大鳳。飛天級の倍以上の大きさを持つ大型空中空母だよ」
忠弥が命じて極秘に建造していた大鳳型空中空母。
飛天型飛行船の船体を二つ並べその間に繋ぐ構造物の中に飛行甲板と格納庫、ブリッジなどを組み込んでいる。
飛天級をベースにしていたのは既に製造ラインに乗っていた飛天級の船体を利用することで建造時間を短く出来ることと、飛天級二隻を余裕で係留できる格納庫が完成していたため、整備の都合でこの大きさに決まった。
地上支援設備の限界の為にこれ以上の大型化は無理と判断された最大限の大きさの飛行船による空中空母。
世界最大の飛行船である。
「倍以上の重量物を運べるから搭載機も二倍だ。これで圧倒できる」
特徴、そもそもの目的は、飛天をはじめ通常の空中空母の倍以上の搭載機を載せて運用することだ。
多数の艦載機を搭載し放つことで敵空中空母を圧倒するのだ。
その数、定数で四〇機。
攻撃に二個中隊二八機に空中警戒の為の機体と索敵機、そして予備機を乗せられる。
単純に数を載せて飛ばして敵にぶつける。
そのために作られた攻撃用の空中空母。
飛天型飛行船の倍の重量を搭載出来る大きさだからこそ、可能な搭載力であり攻撃力だった。
「これで、ベルケのカルタゴニア級を圧倒してやる。全機発艦だ」
忠弥は号令すると、自らも発艦するべく飛行甲板に向かって駆け出した。
それを止める人間は誰もいなかった。
むしろ加わろうと後に続く人間ばかりだった。
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