第288話 潜水商船
「予定時刻だ。潜望鏡上げ!」
ケーニッヒ船長は命じた。
上がってきた潜望鏡に取り付き、周囲を見渡す。
「見えた、カルタゴニア級らしき飛行船」
上空に会合予定の飛行船らしいのがいることを確認。同時に周囲に不審な船舶がいないかどうかも確認する。
飛行船の他には誰もいない。
相手の飛行船が確認する手はずだが、自分たちでも確認しなければ危険だ。
何しろ積み込んでいる物が物だけに警戒は怠らない。
「飛行船から信号弾が落とされた」
青、赤、青。
予め決められたとおりの色と順番だ。
「浮上! 作業要員、ハッチ下へ集合せよ!」
ケーニッヒが命じるとポンプが作動しバラストタンクへ圧縮空気が放出され、海水を押し流し、浮上させた。
海面に到達すると、すぐさまブリッジに上がり、甲板に出てきた作業員に命じる。
「係留塔起塔! 係留および補給作業用意!」
船体に多々待っていた塔が起き上がる。
そこへ飛行船が高度を下げてやってきてロープを放すと、潜水艦の乗組員はロープを受け取り塔に接続。
飛行船を係留した。
「燃料ホース繋げ!」
飛行船から下ろされてきたホースを受け取り潜水艦側に接続。
ポンプを使って飛行船へ燃料であるガソリンを送り始めた。
その時、飛行船との電話回線が繋がり、双方のブリッジで指揮官同士での会話が可能となった。
「何時も済まないなケーニッヒ船長」
「いいえベルケ将軍。我がマインライヒの乗員は貴方へ貢献できることを嬉しく思っております」
「此方も嬉しいよ。貴殿と出会えて欲しい物が手に入るのだからな」
「金さえあれば、このケーニッヒ船長は何だって持ってきますよ。何しろ我々は商船なのですから」
ケーニッヒ船長は大きな口を開けて笑った。
実際、ケーニッヒ船長が率いるマインライヒは商船だった。
この戦争が始まると王国はすぐさま海上封鎖に乗り出し帝国の貿易路は封鎖された。
戦争に必要な物資、特に帝国では産出しない希少金属の入手は帝国の戦争継続を不可能にする。
帝国は連合軍の封鎖を突破するためにあらゆる手段をとった。
その一つが、潜水商船の建造だった。
連合国の潜水艦への対処能力が低かった戦争初期、連合国の封鎖線を突破する時に、潜航して海中を気付かれず航行する計画を帝国は思いついた。
そのまま大洋を航行して中立国であるメイフラワー合衆国へ到達。
希少金属その他を最大積載量七〇〇トンまで積み込み再び封鎖線を突破して帝国に帰還するというものだ。
この目的の為に帝国潜水商船会社を設立。軍艦だと中立国での停泊は二四時間に制限されるため、あくまで民間の商船としてこの潜水艦は作られた。
海軍は潜水艦建造のノウハウを提供。
かくして歴史上、希有な存在、潜水商船は誕生した。
第一回の航海は帝国が独占特許を取得し莫大な利益をもたらす合成染料を高濃度に濃縮した物を積み込み出港。
連合軍の封鎖線に引っかかったが四八時間ほどの潜航で突破に成功。
その後は大洋を浮上全速航行して合衆国に無事到着。
積み荷を無事に降ろして販売。
希少金属の輸入代金及び、その他の経費に回した。
そして貴重な希少金属を積み込みコースを逆戻りし、連合国の封鎖線を突破。
無事帝国に帰還し任務を完遂した。
この第一回の航海では合成染料の販売により建造費の四倍の利益をもたらし、数ヶ月間の軍需生産を賄える希少金属を輸入出来た。
この成功を見た帝国は第二回の航海と同型船六隻の追加建造を実施。
既に就役していた四隻と合わせて、合衆国から大量の物資を輸入していた。
彼らのお陰で帝国が戦争継続――武器生産面で多大な貢献をしたことは確実だった。
他の原材料、原油、石油製品の供給に貢献できず食料生産などの面で既に戦争の負の影響が大きすぎ、むしろ帝国民を苦しめた、という評価もあるが、マインラントとその同型船が任務を果たしたのは間違いなかった。
しかし、合衆国が参戦。
希少金属の輸入元が無くなり潜水商船も不要となり彼らは建造中の姉妹船を含めお役御免となった。
これらの潜水商船は海軍に接収され通常の潜水艦に改装され通商破壊に用いられる予定だった。
だが、ここで待ったを掛けたのが帝国飛行船部隊だった。
七〇〇トンもの積載量を持つ商用潜水船は大洋で活動する飛行船への燃料補給に最適だった。
仮設の係留塔と燃料ポンプを取り付け飛行船へのガソリン補給を行えるように改造。
補給潜水艦として洋上へ出撃した。
かくして帝国飛行船部隊は、長大な活動期間を手に入れることが出来た。
「燃料以外、何も積み込めませんがね」
ケーニッヒは肩をすくめてベルケに言う。
「十分だ。他は輸送用の飛行船を使う」
補給用潜水艦はガソリン以外は殆ど積み込んでいない。
積載量が大きい輸送飛行船が本土から飛んでくるため、他の補給品、食料、水、弾薬、予備エンジン、整備用の部品、予備機材などは比較的軽いため潜水商船からの補給は不要なのだ。
飛行船の方が移動速度が速く、帝国に近いこともあり、すぐに手に入れられるので不要なのだ。
大量に消費するガソリンのみ、潜水商船から補給した方がコストが安く大量に運べるので、補給が必要だった。
「ああ、忘れるところだった。本土からの土産があったんだ」
ベルケは潜水艦へ 飛行船が運んできた土産物を降ろした。
受け取った潜水商船の乗組員は歓声を上げた。
籠の中に入っていたのは果物や野菜などの生鮮食料品だった。
「感謝します。将軍!」
ケーニッヒは心から喜びの声を上げた。
何週間も洋上にいる潜水艦は食料品が制限される。
保存のために生野菜などは横して数日の内に消費され、あとは缶詰などの保存お菊食料品のみになり味は単調になる。
生の果物など、手に入れることは出来ない。
だが、迂回して遠回りするとはいえ本土から高速で移動できる飛行船は生野菜などを搭載する事が出来る。
そこで燃料を補給してくれる潜水商船に生野菜などを燃料給油の返礼で飛行船が送ることが多かった。
「間もなく補給が完了します」
「おう、これでまた船団を追いかけ回す事が出来る」
燃料を再び満タンにして大洋を駆け回れることをベルケは喜んだ。
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