第287話 大洋の戦い
「輸送船団への攻撃で連合軍はかなりの被害を受けていますが」
報告書を纏めて空軍司令部にいた忠弥に提出した春日少尉は不機嫌そうに報告した。
先日、メイフラワー合衆国が参戦したことにより、この戦争は連合国の勝利に向かうことは確実になった。
だが帝国は抵抗を諦めない。
特にメイフラワーから主戦場である旧大陸へ部隊や物資を輸送する輸送船団への攻撃は激しくなっている。
それも帝国の飛行船部隊が洋上で船団を見つけ出し、潜水艦を誘導するためだ。
忠弥達は、連日洋上を飛行し対処しているが、海は広い上に帝国の飛行船は神出鬼没の上、味方の飛行船の数が足りない。
そもそも、帝国の飛行船は王国本土が立ち塞がっているため、迂回コースを採らざるを得ず、洋上で長期間活動出来ないはずだった。
なのに忠弥の言葉とは逆に合衆国参戦後は更に勢いを増している。
時に新大陸近くまで進出し商船を攻撃するようになると、無警戒のまま参戦した合衆国の船舶が多数撃沈され、合衆国側が狼狽する事態に陥った。
特にHX13船団への攻撃は被害が甚大だっただけに、護衛に付いていた皇国空軍への非難も大きかった。
他にもクイーン・アンの撃沈は衝撃的事件だった。
豪華客船クイーン・アンは、王国が大洋横断の最短記録更新を狙い心血を注いで建造した大型高速の客船だ。
帝国潜水艦を上回る二〇ノットの速力で巡航できる能力を持っているため、帝国の潜水艦など追いつけないとされており、単独での航行も許可されていた。
しかし、それ以上の速度で飛行できる帝国飛行船に発見され爆撃を受け、被弾炎上。飛行船の誘導と火災を目印にやってきた帝国潜水艦の待ち伏せ攻撃を受け、撃沈された。
船には西部戦線へ向かう数千人の合衆国軍将兵が乗船していたが、全員海に投げ出された。
しかも、単独航行中で近隣に船舶はなく、半数が溺死するという痛ましい事件が起きていた。
このように帝国潜水艦の猛威は留まるところを知らない。
忠弥の予想と違う状況に、春日は忠弥の能力に疑念を抱いていた。
「どうして、彼らは洋上を自由に行動できるのだ」
「と、言いますと?」
「何日も航行するための燃料があるハズないんだ。洋上で補給は困難だ」
合衆国の参戦により封鎖は強化されている。かつてのように封鎖突破船を仕立てて突破し飛行船へ補給する事など不可能だ。
だが、帝国飛行船部隊の活動は、補給船の存在なしに説明できないほど活発で出没範囲も広かった。
忠弥は疑問を抱いていたが、その理由を解き明かせずにいた。
「この謎を解明する必要があるね。まあ、この件に関しては情報部に任せるとして、僕たちはベルケへの対応を考えよう」
「ベルケへの対応ですか?」
「ああ、見つけたとしてもベルケの空中空母部隊が邪魔をするはずだ。彼らを排除する必要がある」
「我々の戦力では不安ですか?」
「ああ」
あっさりと肯定する忠弥に律子は反発を強めた。
空中空母部隊を作ったのは忠弥だ。
なのに欠点を公言するなどあるまじきと思えた。
だが、忠弥は意に介さなかった。
「ベルケも同じような飛行船を使っている。ほぼ同じ空中発進装置を使っているから戦力的には互角だ」
最大の問題は、ベルケのカルタゴニアと忠弥の飛天がほぼ同じ能力、航空機発艦能力を持っているということだ。
「何か問題が?」
「向こうもこちらも同じ数だけの飛行機しか飛ばせない。これではベルケを圧倒できない」
カルタゴニアも飛天も二基の空中発進装置を装備している。つまり、二機しか同時に発進出来ない。ここが空中空母の運用の限界になっている。
この二基だけで、自らを守る戦闘機と、敵飛行船を攻撃する攻撃隊の飛行機、攻撃隊の護衛隊の飛行機を飛ばさなければならず、装置の数が数が少なすぎる。
発艦してから空中で待機すれば良いが、全機が発艦するまでの間、時間がかかり燃料もパイロットも疲弊する。
空中給油を行ってもパイロットの疲労は抜くことが出来ない。
集合するまで余計な飛行時間が増えてしまうのだ。
かといって装置を増やしたら今度は搭載出来る飛行機の数が減ってしまい、総合的な戦力――空中に送り出せる機数ではむしろ劣勢になってしまうだろう。
「かといって飛天級空中空母も増やせない。船が増えると指揮統率が大変になるし、結局空中発信装置で発進できる機体の数が制限される。同時に発進出来る機数を増やす必要があるんだ」
「しかし空中発進装置は増やせないんですよね。何か方策でもあるのですか?」
「あるよ。今、こちらに向かっている。戦局を圧倒するような新兵器だ。一気に制圧する」
「そんなものが」
普通の人間が言ったのなら誇大妄想あるいはプロパガンダと思われるだろう。
しかし、相手は航空機の先駆者、忠弥だった。
このところ失点が続いているが、偉大な先駆者である事は律子もまだ認めている。
今まで思いもよらないアイディアを形にして空に飛ばしてきた人間であり、何かとんでもないことをやってくれる予感がした。
そして、そのアイディアが現場に投入できる報告が、直後に忠弥へもたらされた。
忠弥は早速、その新兵器を使った作戦を立案し始めた。
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