第286話 船団襲撃

 船団へ突入した潜水艦U59はディーゼルエンジンが唸りを上げさせ商船へ突撃して行く。


「敵の船団です。左右に輸送船!」


 右にも左にも船がいた。


「左右の側面発射管を使う。三番、四番用意!」


 船体中央部から真横に向けて放つ発射管を両舷共に用意させる。

 再装填できないので新型艦には付けられていないが、すれ違いざまに撃てるので艦長は気に入っていた。

 元水雷艇乗りということもあり、真横に撃つのに慣れているし、気分が良い。


「ロスッ!」


 Loss――魚雷発射の号令と共に、発射管から魚雷が飛び出す。

 左右から打ち出された魚雷は輸送船に命中した。


「命中! 命中!」


 戦果を受けて先任将校が大声で叫ぶと、艦内からも歓声が上がる。


「喜ぶな、まだ獲物は大量にいるぞ」


 たしなめる艦長ヴェティンゲン大尉も声を弾ませつつ次の目標を狙う。


「取り舵、左へ九〇度変針。一番、五番用意!」


 次の列に滑り込み、艦首と艦尾の魚雷発射管を用意させる。

 双方の発射管の射線に船が乗ると艦長は命じた。


「ロスッ!」


 艦首と艦尾から同時に魚雷が放たれる。

 今度の魚雷も敵の商船に吸い込まれ同時に爆発した。


「更に二隻撃沈!」


 これで都合四隻、僅か十数分の間の戦果に乗組員は喜ぶ。

 しかし、その時、上空に光が照らされた。

 商船の位置を知らせる味方の照明弾だと見張り達は思ったが先任将校は機体のマーク、皇国空軍のマークが翼にある事をはっきりと視認していた。

 敵に位置がばれた。

 艦長に視線を向けると、艦長も機体のマーク気付いている。


「続いて攻撃する。面舵! 右四十五度変針、二番管用意!」


 だが艦長はまだ攻撃したりなかった。

 帝国軍機が追い払ってくれる事を信じ、照明弾に照らされたことを無視して攻撃続行を指示。

 撃破した商船の後ろの商船を狙う。

 前の二隻が撃沈された事で、回避運動を行おうとしていたが、丁度潜水艦に横腹を見せていた。


「ロスッ!」


 魚雷が放たれ、スクリュー背後の排気口から出る航跡を商船へ伸ばしてゆき、またも命中した。


「取り舵一杯」


 歓声が上がる中、艦長は更に回頭を命じ残った艦尾の六番管から攻撃を仕掛けようとした。

 狙いを付けると、命じた。


「ロスッ」

「敵駆逐艦接近!」


 命令と砲撃は同時だった。

 水柱が左右に上がりブリッジにいた艦長達はずぶ濡れになる。


「急速潜航ッ! ベント開け!」


 すぐさま潜航を命じる。

 潜水艦は一発でも食らうと潜水不能になるし、紙のような装甲しかない。

 潜って逃れるしかない。


「急げっ急げっ」


 艦の中も外も大騒動だった。

 ブリッジの人員は艦内へ通じるハッチに飛び込みはしごを滑り降りて中に入る。

 中では迅速移動可能な重量物――乗員が艦の後部から前部へ駆け抜け、前部に重心を移し少しでも艦が素早く潜れるよう前部魚雷発射管にへばりつく。


「最大深度へ」


 潜水艦は急速に潜航し、あっという間に海面から姿を消した。

 だが、深い角度で潜りすぎて安全深度を突破してしまった。

 大急ぎで乗員を艦内に散らしバランスを取り艦を水平へ継いで安全な深度に戻していく。

 戻しすぎて海面に出ないよう細心の注意が必要だ。

 だが彼らはやってのけた。


「最後に撃った魚雷が命中してくれれば良いのだが」


 安全深度で落ち着くと艦長は、最後に放った魚雷を気にしていた。

 残念なことに砲撃の振動で魚雷の針路がズレてしまい命中しなかった。


「しかし、一晩で五隻撃破です」


 先任将校が興奮気味に言う。

 一晩で五隻というのは大きな戦果だ。


「ああ、連中がいなくなってくれれば更にご機嫌なのだがな」


 天井を見ながらカ艦長は言う。シャシャシャと推進音を立てながら駆逐艦が接近してきていた。

 そして、爆発音が響いた。


「爆雷か」

「いや、遠すぎる。味方の攻撃だな。船団に魚雷を撃ち込んだんだ」


 飛行船の位置情報で味方の潜水艦が殺到してきているのだ。

 このところ飛行機に邪魔されて獲物にありつけなかった潜水艦達は戦果に餓えいる。

 久方ぶりに現れた船団という巨大な獲物の群れを無視することは出来なかった。

 駆逐艦は新たな攻撃を受けた商船を救援するためか、砲撃で撃沈したと判断したのか爆雷攻撃をせずに引き返していった。


「諦めたようですね」

「魚雷、再装填」

「やりますか」


 U59艦長ヴェティンゲン大尉の命令に先任将校が弾んだ声で言う。


「当たり前だ。あんなに沢山の獲物、見過ごせるか。装填が完了次第浮上。洋上でディーゼル前回で追いかけながら攻撃する」

「ヤボール! 発射管室、再装填急げ!」


 艦長の命令に戦果を挙げて興奮していた乗組員達は喜々として従い、一時間ほどで準備を終えると、潜水艦U59は浮上。

 再びディーゼル機関を全壊しにして船団を追撃。

 バラバラになった船団の生き残った商船を襲撃した。



 この夜、新大陸から王国本土へ向かっていたHX13船団三〇隻は護衛の駆逐艦七隻の奮闘および航空機の支援もむなしく帝国潜水艦四隻の攻撃を受け、船団の商船半数以上を撃沈破された。

 特に一度目の攻撃の後、浮上反転して再攻撃したヴェディゲン大尉率いるU59は八隻の商船の撃沈もしくは撃破を記録し、一晩での潜水艦による撃破世界記録を叩きだした。

 その攻撃は凄まじく、かつて大尉が乗り込んでいた水雷艇のように自らの潜水艦を右に左に高速で突進させ商船の間近から雷撃、仕留めるという荒技を見せつけ、船団を恐怖に叩き込んだ。


「駆逐艦が来なければ二桁行けたんだが」


 とは、この夜の戦果を聞かれるとヴェディゲンが必ず返す言葉だった。

 彼ほどの技量を持った艦長は少なかったが、帝国潜水艦は、連合国の防御を破り、船団への襲撃を絶やさず行っていた。

 しかし、同時に無視できなかったのは、帝国軍が空中空母をはじめとする航空機による船団攻撃を支援していたことであり、索敵能力の低い潜水艦の誘導を行い多数の潜水艦を船団に導いたことが大戦果を導いた。

 この事実に連合国は帝国の空中空母部隊への対策を求める事になった。

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