第398話 共同戦線の提案

「警備兵! 前へ!」

「止せ!」


 強行着陸してきた敵機を囲もうとするエーペンシュタインを制止したベルケ。

 だが、自分自身は単身で、降りてきた忠弥の元へ向かう。


「久しぶりだねベルケ」

「お久しぶりです。飛行機を見に来たんですか?」


 もし軍人同士だったら冗談で降伏しに来たのか? と尋ねるところだ。だが二人とも飛行機好きであり、冗談ではなく本気だった。


「ああ、君が新しい飛行機を作ったと聞いてきたんだ」

「グライダーを改造してエンジンを取り付けただけの代物です」

「それでもよく纏めたよ」

「忠弥さんも新しい機体ですね。スピードが出そうですね」

「ああ、清風だ。乗ってみるか」

「ええ、是非。その前にやるべき事があるでしょう」

「ああ、野暮用があるからね。すぐに片づくと思うが」

「伺いましょう」

「正義党と農民党の休戦協定締結。条件は挙国一致内閣、鉱山党強硬派の追放、次期選挙での自由投票での政権を決める。と言ったところかな」

「大層な内容ですね」


 アルヘンティーナの政治体制を決める話だ。

 それを野暮用とはよく言う。


「メイフラワー合衆国が参戦したからね。農民党と正義党で協力しないと太刀打ち出来ない」

「既に決めているような口ぶりですね」

「いや、手を組むしかないよ。メイフラワー合衆国の圧倒的な戦力を前に二正面作戦なんて不可能だ」

「我々にも選択権がありますよ。鉱山党、メイフラワー合衆国側に付いて正義党を追い払う」

「それはこちらも同じだけど、同じ理由であり得ない」

「どうしてですか?」

「鉱山党が人気が無いからね。鉱山労働者は比較的少ないし、鉱山からの鉱毒で被害者が多く支持基盤が薄い。農民党と正義党を合わせれば支持率は八割を超える。少数による多数の支配は不安定もいいところだ。それに」

「それに?」

「あまりにもメイフラワー合衆国が大きすぎるからさ。戦後の発言権、国力の差、戦力差を考えるとメイフラワー合衆国の言いなりになるしかないからね」


 メイフラワー合衆国の国力は他を圧倒している。

 皇国とハイデルベルクの五倍くらいだろうか。

 戦後の分け前など五分の一もあれば良い方だろう。


「だけど協力すれば仲良く半分ずつ分けられる。皇国もハイデルベルクもアルヘンティーナの資源、鉱物も農産物も山分けだ。勿論適正価格で売るからアルヘンティーナも潤う。そこから今回の戦費を出して貰えれば、あるいは輸出品の税率を低く抑えてくれれば良い」

「確かに魅力的ですね。ですが勝ち目はあるんですか? 負けたらゼロ、いやマイナスですよ。なら勝つと分かっている方に五分の一でも利益を得られた方が良い」

「既に皇国はアルヘンティーナにおける権益確保の為に艦隊を出撃させた。陸上部隊も乗せている船団が付属している。だが偵察部隊だけならすぐにでもやってきてメイフラワー合衆国を迎撃出来る」

「本当ですか」

「もうすぐ皇国本国でラジオ発表がある」


 元々、空中輸送部隊の後詰めとして用意されていた。

 飛行船でも重装備の輸送など無理ではないが、少量しか運べない。

 そのためアルヘンティーナにやって来た皇国兵は軽装備、小銃や機関銃、装甲車程度で、戦車などの重火力を持つ相手には戦えない。

 そこは正義党支持のアルヘンティーナ軍と航空支援で何とかなったが、やはり自前の部隊が必要だ。

 重量物を大量輸送出来る船団で重装備を運び込む必要があり準備されていた。


「しかし、我々と手を組む必要があるのですか?」

「ああ、メイフラワー合衆国がアルヘンティーナ本土に上陸する前に叩きたい。そのために制空権を確保する必要がある。そのために防空を行ってくれる部隊が必要だ。それをベルケに頼みたい」

「私達の部隊は機体が足りません」

「だから後ろにある清風を提供する。これでアルヘンティーナ本土を守って欲しい」

「断ったら?」

「仲間割れでメイフラワー合衆国の天下だね。けど結局、国民の支持を得られず混乱して崩壊するだろうけど、僕たちは叩き出される。そして崩壊するまで次の機会はない」

「そうですね」


 ベルケは頷いた。


「我々の上官、農民党の首脳に相談しなくてはならないですが、同意するでしょうね」

「ベルケ、君の意見は?」

「一緒に戦えるなら喜んで」

「なら決まりだね」


 無邪気に笑う忠弥を見て相変わらずだな、とベルケは思った。

 同時に疑問に思う。


「しかし、今の事は忠弥さんが考えたのですか?」

「いいや、寧音が大まかに考えてくれた。僕だけだとこうもいかないよ」


 ちなみに皇国海軍の出撃を進言したのは空軍司令官である碧子と昴の父親である島津党首だ。


「なかなか優秀ですね」

「お陰で飛行機の事に専念出来る」


 嬉しそうに言う忠弥を見てベルケは羨ましく思った。

 ハイデルベルクは航空産業を民需用として維持するだけで精一杯なのに、好きに出来る。


「いや、そういう発想から自由なのか」


 世界で初めて飛行機で空を飛んだ人だ。

 地上の何者にも縛られないのだろう。


「どうした?」

「いいえ、返答は後になりますが同意すると思いますよ」

「なら連絡して始めようか」

「何をです?」

「模擬空戦さ。互いの力量は機体に乗って初めて分かる。機体を交換して始めよう」

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