第397話 メイフラワー合衆国の参戦

『敵機がやって来た!』

『今援護する!』

『編隊を崩すな!』

『飛行場への進路を塞げ!』


 敵機を囲むように襲撃する形になったが敵機は諦めていない。

 そして味方も白熱した戦闘を繰り広げたため、無線が混戦状態だ。

 レーダーも敵味方入り乱れているため、機能しない。


「各機に次ぐ、戦闘中でない機体は飛行場近辺へ。上空で編隊を組み直し、敵機の襲撃に備えよ」


 乱戦で指示を出せないのなら、仕切り直しだ。

 戦闘に巻き込まれていない機体、指示が聞ける機体を集めて、予備の部隊を作り、万が一飛行場へ迫ってきた時、突入させて妨害する。

 それがダメなら、飛行場の防空火器で何とかするしかない。


『敵編隊! 爆弾を落として西の方へ向かいます!』

「離脱を決意したか」


 状況が不利と悟り、脱出を決断した。

 もう少し早いかと思ったが、粘り強かった。

 いかに有利な態勢でも、敵が粘ると殲滅は難しい。


「司令官! 指示を!」

「追撃だ」

「宜しいのですか?」

「出撃してからまだ時間は短い。味方の燃料は十分にあるし飛行場も近い。追撃で敵機の燃料を消費させ、墜落を狙う」

「了解」

「ああ、深追いしすぎないよう、今から三十分で切り上げさせろ。編隊とはぐれた機体も撤収させるんだ」




「損害報告が出ました。半数が撃墜、もしくは不時着しています」

「失敗か」


 エーペンシュタインの報告を聞いたベルケは、苦虫を噛みつぶしたように呻く。

 出撃したのはほぼ全力。

 半数が落ちたとなれば、戦力半減だ。

 幸い、パイロットが実戦経験者ばかりで撃墜された機体は少なく、燃料切れで、飛行場までたどり着けず、味方の陣地に不時着したものが多い。

 だが、補充が見込めないこの状況では、非常に拙い。

 特にエンジンが問題だ。

 機体は持ち込んだグライダーなどを改造すれば良いが、高出力のエンジンが入手出来ず、稼働機低下の原因になっていた。


「残った機体で、ゲリラ的に活動するしかないか」

「ですが、再び敵の飛行場を攻撃しようとしたら待ち伏せされ撃墜される可能性が高いです」

「そうだな」


 貴重な機体を失うわけにはいかない。

 何より、敵が、どうやって待ち伏せしたのか不明な状況で攻撃を仕掛けるわけにはいかない。

 あれほど見事な待ち伏せは見たことがなく、下手に攻撃を仕掛ければ大損害を受けてしまう。


「少数の機体で襲撃をかけますか?」

「いや、攻撃に出ても撃墜される可能性が高い」


 見つからないように高度も時間も考えて出撃したのに撃破されては、じり貧だ。

 味方の前線でゲリラ的に使うしかないとベルケは考えた。


「隊長! ラジオがメイフラワー合衆国政府の放送を受信しました。アルヘンティーナへの政策に関して重大な発表があるようです」


「すぐ繋いでくれ」


 ベルケは、スピーカーから流させた。


『繰り返します。メイフラワー合衆国政府はは、アルヘンティーナにおける我が国の権益を守るため、正当なる政府である鉱山党政府支援のために合衆国軍の派遣を決定しました。最新鋭の艦艇を含む水上艦隊と空中艦隊。船団に乗り込んだ海兵隊、そして陸軍一個師団を含む大規模部隊を送り、合衆国との正当な協定を履行させます。二国間の交渉を一方的に破棄する様な国に対する断固たる制裁を与えるとともに、アルヘンティーナ国内を混乱に陥れた責任を追及し、アルヘンティーナ国民の生命と安全を回復させます。これは決して侵略ではなく、アルヘンティーナの国民の為であり当地の平和と安定の為の派兵であります。繰り返します。この派兵は決して我が国のアルヘンティーナへの侵略ではありません』


「拙いですね。メイフラワー合衆国が派兵いや侵略してくるとなると、我々は劣勢に置かれます」

「保有機数が圧倒的だからな」


 大恐慌により窮地に陥ったメイフラワー合衆国だが、腐っても鯛。先の戦争で購入した膨大な数の軍用機を保有しているハズ。

 好景気で得た金を元に新型機の開発も盛んだ。

 それらが襲撃してきたらベルケ達は敵わない。

 幾ら地の利があっても、機体の数が劣っていては勝てる可能性は低い。


「場合によっては我々の撤収も考えなくては」


 ハイデルベルクの命令で派遣されてきているが犬死にまでは任務に入っていない。

 勝てる見込みがないのなら撤退するべきだ。

 だが、このまま引き下がるのも嫌だった。

 考えあぐねているとエンジン音が外から響いてきた。


「敵機か!」


 先の攻撃で包囲してきた皇国の最新鋭機の音だった。

 警戒するべきだが、ベルケの胸は興奮していた。

 あの、快調に響かせるエンジン音。キレのある機動でなければ出せない。

 そんな人物はこの世に一人しかいない。

 急いで窓に駆け寄り空を見上げる。

 すると、青い機体がベルケの上空で急上昇した。

 そしてベルケの姿を確認して降下すると着陸し、ベルケの前にやって来て止まった。

 降りてきたのは、忠弥だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る