第143話 防空体制の強化

「他にも飛行船が侵入していたようだ」


 機体の傍らに座る昴に忠弥は告げた。

 燃料と弾薬を使い果たした忠弥は、離陸した飛行場に着陸した。

 基地の要員が忠弥の話を聞いていて、滑走路にドラム缶を使って灯りを付けてくれたから夜明け前に着陸出来た。

 指揮所で確認してきて、侵入してきた飛行船は一隻では無かったことを確認した。

 三隻の飛行船が王都へ別方向からの同時攻撃。

 忠弥達が見つけたのは一隻だけで、そいつに集中攻撃をして撃墜したが、他の二隻は見つけられなかった。

 一隻は航法を誤り、別の場所を爆撃したみたいだったが、一隻は王都への侵入を果たし爆撃に成功していた。

 中心部の宮殿近く、行政機関の多い一帯が爆撃され、多大な被害が出ていた。

 なにより、海賊の大規模襲撃以外、数百年にわたり戦火を免れてきた王都を爆撃された破壊されたという衝撃の方が大きかった。


「畜生!」


 昴は荒れていた。

 一隻撃墜していい気になっていた自分が恥ずかしかった。

 一隻に気を取られ、他の侵入を許し被害を出してしまったのは自分の精進が足りないからだと自分を責めた。


「落ち着いて昴。ほら、顔を上げて」

「でも」


 昴は顔を上げられなかった。

 ここは王国、自分たちが守りに来た国。

 勲章まで貰ったのに、敵飛行船の侵入を許し、爆撃されてしまった。

 しかも先ほどまで叙勲を受けた場所の近くにだ。

 そして、昴達がいるのは王国の飛行場。

 周りにいる王国の人達にあわせる顔が無かった。


『国民の諸君よ。我々は今試されている』


 その時、ラジオから国王の声が響き渡った。


『昨夜、王都が空襲された。

 これは数百年来無かったことだ。

 それも空からの爆撃という未だかつて無い方法でだ。長い歴史を誇る我が王国でも未だかつて無い事である。

 だが、だからこそ、我らは今こそ、先祖に見せなければならない。

 子孫がどれだけ成長したかを、粘り強いかを。

 建国の際の苦難に比べれば小さいことかもしれない。

 だが侵略者の魔の手は目の前にあり、それに屈して怯えるか、立ち上がり気高く対抗するか、我々は試されている。

 異国の軍人でありながら、我らの救援要請に応えて駆けつけてくれた皇国の空軍の方々は、我らを守るため身を挺して戦う彼らは、我々を見てどう思うであろうか。

 助けがいのない腑抜けか、肩を並べて戦う戦友か。

 国民諸君はどちらに思われたい。

 たとえ、空を飛べなくても彼らの為に、出来る事は我らにはある。

 彼らを最初に支えたジョン・クラークの偉業を範にとり、皇国将兵と我が空軍将兵を支える基金の創設を余はここに命じる。

 その基金の創設者である余が先頭に立ち、余の財産より一部を最初の寄贈とする。

 王国の諸君よ、王国の民として、相応しい振る舞いと、相応しい行動を取ることを王国は期待している』


 ラジオの放送はそこで終わった。

 被害を受け、意気消沈している中でも気高くあれというのは、無茶な言葉だと忠弥には思えた。

 だが、王国民は違った。


「失礼します。基地に戻る車か機体をご用意いたします。他にも何でも、お命じください」

「連中の飛行船の落とし方を教えてください。今度は我々、王都防空飛行隊が撃墜して見せます」


 次々と王国将兵が集まってきて忠弥達に話しかけてくる。

 彼らは国王のスピーチに触発されて、忠弥達から自分たちの国をどう守るか真剣に聞き出そうとしていた。


「落ち着いてください。順番に答えます」


 忠弥は迎えが来るまで、彼らと話し合った。




「それで、我々はどうすれば良いのでしょう」


 数時間後、サイクスが、忠弥に尋ねていた。

 だがサイクスの背後には、大勢の王国軍の上層部の将軍達がいた。

 防空体制に本腰を入れようとしていた。

 何処か忠弥達を侮っていたところが会ったが、王都への被害が大きくなった事でいよいよ切羽詰まり、教えを乞おうとしていた。


「まず、灯火管制。標的となる街の灯りを消すことで飛行船に標的を見つけさせません。それと空襲を受けやすい地域から疎開すること。爆撃を受ける場所は、被害を少なくするために可燃物を捨てたり、防空壕、地中に強固な建築物を作り、避難場所にしましょう。王都には地下鉄が通っているので、地下鉄を避難場所にしましょう」

「しかし、爆弾を落とされるのを前提としては国民の士気は低下し、損害は増大します」

「勿論です。ですが迎撃に絶対はありません。空襲を受けた時の被害を最小限にする手立てを構築しましょう。そして迎撃にも力を入れます」


 忠弥の言葉に後ろの軍人達は身を乗り出した。

 やはり軍人だと守るより攻撃に心を躍らせる。


「迎撃を行うには防空体制の強化です。特に監視網と、飛行船を捕捉する探照灯が必要です」


 探照灯は炭素棒と電極の間でアーク放電を起こし、小さな雷を起こし続け強烈な光を放つ。

 これを配備すれば上空高くを行く飛行船を見つけられるし、迎撃隊の目印になる。


「他にも夜間の出撃で自機の位置を見失わないように、地上に標識を設置します」

「製作に時間が掛かりますが」

「ドラム缶に薪や油を入れる程度で良い。上空から目立つのと、置かれた個数と配置で判別できるようにする」

「分かりました。しかし、夜中に進出してくる飛行船を捕捉できるかどうかは未知数です」


 夜襲が効果的な理由は、虚を突きやすいことと戦闘が行いにくいことと、そして発見しにくいことだ。

 空でも夜は視界が悪く、発見し難いので、夜間に侵入されると早期発見が遅れ迎撃が間に合わない。

 だが忠弥はにやりと笑って言う。


「大丈夫、対抗手段はある。既に手配済みだ。あとは設置して防空網に加えるだけだ」

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