第248話 航空機の未来 この後の戦争

「でも突出したボロデイル提督が叙勲なんてどういうこと」


 昴は腹立たしそうにボロデイル提督が叙勲される事に不満を言う。

 忠弥の援護下から出て行ったボロデイル提督の事を好きになれない昴だ。

 任務を果たさず大艦隊主力が危機に陥ったこともあったし、命令違反もやらかしている。そのために指揮下の巡洋戦艦二隻を失っている。

 なのにどうして海戦での功績大を理由に叙勲されるのか理解できなかった。


「それならブロッカス提督も指揮下にいた戦艦二隻と巡洋戦艦一隻を失っている。しかも、撃沈数ではボロデイル提督の戦艦二隻の撃沈だけが今回の海戦で王国海軍が得た戦果だからね」


 撃破数ではブロッカス提督の方が明らかに多い。

 だが世間は、軍事に疎い人々は撃沈数でしか判断できない。

 損害の大小の判定も難しいのでブロッカス提督の評価は海軍内に留まるだろう。

 だが、ブロッカス提督が勝利をもたらしたことは間違いなく、聞くところによれば、海軍本部第一海軍卿――海軍制服組のトップになると言う噂だった。

 相原の報告ではブロッカス提督は航空機について興味を持っているとのことで、航空機の理解者が増えた上、王国海軍のトップが理解者であるのは今後の空軍の発展に寄与するはずだ。


「それで暫くは海で任務? また大海戦?」


 昴が尋ねてきたが忠弥は首を横に振った。


「いや、大艦隊同士の戦いは暫く無いと思うよ。王国側は損害は少なかったけど出撃で燃料弾薬を消費したから補充が必要だよ。帝国側は被害が大きいからね」


 受けた損害を回復する必要があるし、帝国の方が劣勢なので積極的に出てくる事は無いだろう。

 状況不利なら出撃しないのが海軍の戦い方であり、負けるために出撃する事は無く、出撃がないなら戦いは起こらない。


「それに不確定要素が出てきたからね、暫くはその対策のために出撃はないはずだよ」

「不確定要素?」

「僕たち空軍、航空戦力だよ。この海戦で重要な局面では常に航空機の偵察情報が命運を左右した」


 海戦の初期に外洋艦隊が出撃したのを報告したのは忠弥達だった。

 その後、巡洋戦艦部隊はベルケの航空隊に見つかり、劣勢に立たされた。

 その状況を報告し大艦隊からベルケが見つからないよう奮闘したのは忠弥達空軍だ。

 でなければブロッカス提督の大艦隊主力はあれほどの勝利を収めることは出来なかった。

 特に弾着観測で煙幕の向こう側の外洋艦隊を一方的に攻撃できた。このときの損害が一番酷かったのは戦後の調査でも明らかとなった。

 その後の夜戦でも、照明弾で敵艦を照射し味方を援護している。

 ベルケによって妨害されてしまったが、航空機の優劣、航空戦の勝敗で海戦が大きく左右される事を証明した。

 そのことを一番理解してるのは、勝利者であるブロッカス提督だった。

 そして外洋艦隊の司令長官も理解しているはずだ。


「航空機にどう対処するか、見つからないようにするにはどうすれば良いのか考えるようになるだろう。そして航空機を活用するにはどうすれば良いか。皆、頭を悩ませる、航空機の注目が集まるよ。そして誰もが航空機を無視できなくなる」


 陸戦の方でも膠着状態の西部戦線では上空で航空機が乱舞している状態だ。

 誰もが、航空機を欲しがり、その活躍を見ている。

 海戦の方は、これまで戦いが無かったが、今回のジャット・バンク海戦で航空機が活躍し戦局を大きく左右した。


「海上での航空機活用が決まるまで、大艦隊の出撃は無いと思うよ。少なくともこの海戦の分析が終わるまではね。艦艇の修理が終わるまではこのままかな」

「じゃあ、次の戦いはどうなるの? また陸戦?」


 再び塹壕の上で飛ぶことを想像した昴は身震いしたが、忠弥は首を傾げた。


「さあ、どうだろう。皆戦いに疲れ始めてきているようでね。休戦が話し合われている」

「前線で?」

「いや、もっと上の方、政府同士が損害が多すぎると青ざめ始めている」


 双方の累積死傷者数と戦費、そして戦時国債が天文学的な数字になっており、政府関係者達の顔色を青くしていた。

 戦う事を任務とする職業軍人は怪気炎を上げているが、これまでの損失とこれから出てくる損失――戦死者の遺族への補償、負傷者の生活保護、戦死による人口減少と出生率の減少などが重くのしかかる戦後の国家経営を考えるととても許容できる数字ではない。

 戦争を止める機会があるなら止めようという考えが連合側と帝国側で一致した。

 今回の海戦の結果もあり、一時休戦し双方が中立国で講和に向けて話し合うことにしていた。


「戦争、終わると良いわね」

「全くだよ」


 二人は同じ感想を言うが無理だと言うことも理解していた。

 互いに損害の大きさに頭に血が上っており止めたくても止められなくなっている。

 それでも終わって欲しいと思う今日この頃だった。

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