第292話 数の差

「敵機接近!」


 カルタゴニアの前に、多数の戦闘機、帝国のアルバトロス戦闘機を認めた忠弥は全機に警告した。


「護衛隊は上昇しつつ前へ、攻撃隊は、一時下がり、右方向へ迂回しろ! 攻撃開始! 小隊ごとに攻撃を加えろ!」


 忠弥の指令で皇国軍の航空隊は一斉に動き出した。

 護衛隊は青い忠弥機に率いられて一六機が上昇して高度を稼ぎ、ベルケの上を取ろうとする。

 攻撃隊一四機は、退避するように右へ逃れた。


「分散したか」


 ベルケは顔をしかめた。

 緊急発進させたが、手持ちは一二機のみ。敵は一六機と一四機の二編隊。

 敵の二隊へ同時に対処は出来ない。


「エーペンシュタイン! 四機を率いて、迂回する敵機を攻撃! 残りは私と共に上の敵機を撃破する。行け!」


 ベルケは八機を率いて上昇していき、エーペンシュタインも四機を率いて敵機へ向かう。

 だが、忠弥の方が上だった。


「第一小隊! 攻撃隊に向かう敵機を攻撃せよ!」


 命令で護衛隊の四機がエーペンシュタインの四機に襲い掛かるべく急降下した。


「拙い! 避けろ! エーペンシュタイン!」


 ベルケが叫ぶ前にエーペンシュタインは自分に向かってくる編隊を見つけ出し、部下に退避を命じた。


「隊長! エーペンシュタインを援護しましょう!」

「だめだ!」

「何故!」

「我々が降下した瞬間、残りの敵機が襲い掛かってくる」


 忠弥には残り一二機の機体がベルケの上方にいる。

 ベルケが救援の為に降下すればそのうちの何機かが、襲い掛かってくるはずだ。


「撃墜する気は無いな。我々を引き寄せるだけか」


 忠弥もベルケ達を撃墜は考えていないようだった。

 下手にベルケを攻撃すれば自分達にも被害が出る事を確信し恐れており下手に攻撃しない。

 攻撃隊への襲撃を邪魔するだけで十分だと考えている。

 だから、追加の攻撃隊を出さなかった。


「このままでは」


 敵の攻撃隊を邪魔できないとベルケは理解していた。

 そのとき、後方に新たにカルタゴニアとブレーメンから発艦した四機がやってくるのが見えた。


「四機! 攻撃隊へ突っ込め! 襲撃してくる敵機は我々が攻撃する!」


 ベルケは残った味方を二分して、一方を囮にして、自らが忠弥の迎撃する作戦を立てた。

 酷な命令だが、ベルケの部下達は躊躇無く、機体を操り攻撃隊へ向かう。

 そして、予想通り、忠弥は残り四機を新たに攻撃隊へ向かう戦闘機の襲撃に向かわせた。


「続け!」


 その瞬間、ベルケは味方を襲おうとする皇国戦闘機へ突撃した

 敵機に向かって降下しつつも、上空の忠弥の動きを見守る。

 こちらの動きに引き寄せられればよい。


「くっ、引っかからないか」


 忠弥は残り八機を二手に分け、一方をカルタゴニア近くの四機に、残りをベルケに差し向けた。


「くそおっ」


 ベルケは、急降下を止めて旋回し、忠弥の突っ込みを避ける。

 急降下の攻撃を躱した後、ひねりこんで忠弥の後ろに取り付こうとする。


「性能は向こうが上か」


 忠弥はベルケに取り付かれるが、急降下して振り切る。

 重量がある空中収容のフックが機体上部にない分、疾鷹改が上だった。


「しかも、僚機が優秀か」


 忠弥の背後を守っていた昴がベルケに攻撃を加えてきたため、離脱せざるを得なかった。

 あとは、敵味方入り交じっての格闘戦になった。

 互いのパイロットの技量はほぼ互角。

 性能は疾鷹改が少し上だが、決め手に欠ける。

 ベルケ達上空警戒部隊は完全に忠弥の制空隊、護衛隊に阻まれた。

 その間に攻撃隊一四機が、帝国の空中空母ブレーメンへ迫ってきた。


「しまった!」


 ブレーメンから対空砲火が上がり、緊急発艦した二機が攻撃隊に襲い掛かり二機を撃墜される。

 だが、攻撃隊は編隊を乱すこと無く突入、一斉にロケット弾を発射した。

 四八発のロケット弾はブレーメンに伸びていった。

 ブレーメンは緊急回避を行うが、六発のロケット弾が命中、炸裂した。

 水素の塊である飛行船はあっという間に火達磨になり、洋上へ落ちていった。


「くそうっ!」


 落ちていく様をんべる気は上空から見ているしかなかった。

 攻撃が成功すると、忠弥達皇国空軍の編隊はあっという間に撤退していった。


「追うな! 燃料も弾薬も少ないだろう!」


 追い打ちを掛けようとするエーペンシュタインをベルケは制止する。


「態勢を立て直す。着艦しろ」

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