第293話 防空戦
「攻撃隊が帰ってきたぞ!」
攻撃隊が帰ってくると大鳳では歓声が上がった。
編隊は大鳳上空を旋回し、順次速度を落としつつ飛行甲板へ向かう。
先頭の一機が飛行甲板に滑り込んだ。
機体の後方下部から着艦フックを出し、飛行甲板に引き出された固定バー付きの台に接近。
フックをバーに引っかけて着艦した。
疾鷹改の失速速度以上の速力を出せる大鳳のため、アレスティングワイヤーではなく鉄棒のようなバーにフックを引っかけるだけで制動できるため簡単に着艦できる。
台の上に乗った疾鷹改は、固定されると、エンジンを停止、台がスライドして遮風板の後ろへ引っ張られた。
「お疲れ様です、司令官」
「ありがとう整備長」
出迎えてくれた整備長に忠弥は礼を言った。
その後ろでは、昴の機体が着艦態勢に入っていた。
昴の機体がフックを掴んで下りると、更に次の疾鷹改が着艦し、そしてまた新たな疾鷹改が、下りてきて次々と着艦する。
失速速度を上回る速度で大鳳が飛行しているため、高度差をもうけプロペラ後流に巻き込まれないようにすれば次々と着艦できるのだ。
バーを掴んで着艦するとすぐさま台がスライドして、遮風板の陰に送り、整備員がエレベーターで格納庫に送り点検整備を行い再出撃の準備を整える。
着艦速度の速さも大鳳の特徴だった。
『警報! 敵の攻撃隊接近中』
「やはりベルケはやる気だな」
随伴艦が敵の編隊と接触したようだ。
一隻を撃破されてもなお攻撃を加えるようとする気概は大した物だった。
「飛天に通達。迎撃戦闘機を上げろ」
防空のために大鳳に随伴していた飛天から次々と疾鷹が飛んで行く。
攻撃隊の着艦する瞬間を守る為にも飛天を連れてきたのだ。
既に発艦し上空警戒中の機体を含め一個中隊一四機がベルケが放った攻撃隊二機を迎撃しに行った。
上空警戒機が多いため、ベルケが放った攻撃隊は大鳳に接近できず、途中で逃げ帰るはめになった。
「やっぱり戦争は数だね」
大鳳の飛行甲板で空戦の一部始終を見ていた忠弥は呟いた。
戦場に相手より多くの兵力を送り込むことが出来る方が勝つ。
戦争の真理だった。
だから搭載機数の多い大鳳型空中空母を建造し、戦場に送り出したのだ。
なにより双胴飛行船型の空中空母はロマンだ。
「司令官、攻撃隊再出撃準備完了しました」
飛行甲板の真下にある格納庫で再出撃の準備を進めていた整備長が報告した。
迎撃戦の間に準備が終わった。
格納庫も大きいため、整備が容易だ。
「よし、再度攻撃を加える。直ちに出撃だ!」
忠弥の号令により、攻撃隊は再び飛行甲板に上げられ、カルタゴニアを撃墜するべく出撃していった。
「攻撃は失敗か」
部下の報告を表情を硬くして聞いていたベルケだが、内心残念に思っていた。
報告して落胆する司令官を見て意気消沈しないよう無表情で聞いていたが、余計に宇買わせてしまった。
しかし、部下も失敗を自覚し、その理由と結果そして未来を予想出来るだけにベルケと同じ苦悩を持っていた。
艦載機が制限されるため、攻撃隊に割ける機体は少ない。
護衛と攻撃の二隊の他、空中空母を守るための機体も必要だし、出来れば他に敵空母がいないか索敵機を出したい。
とてもそんな機数はない。
ならば、飛行船の防御力が極端に低い事――ロケット団一発命中すれば撃墜できることを利用して、少数、一機か二機で奇襲攻撃を行い撃墜してしまおうと考えた。
だが、敵も警戒している上に、多数の上空警戒機が出ていた。
多数の戦闘機に追い回される状態で空中空母へ攻撃など無理だ。
だから失敗したのだ。
そして、無傷の敵はこちらに攻撃隊を、先ほどと同レベルの機数を出してくるはずだ。
「迎撃する! 全機出撃!」
直ちに準備が整った機体から上空へ出した。
とにかくカルタゴニアを上空から離脱させるのが先決だ。
幸い間もなく日没だ。それまで全力で守り切ればまだ再戦の機会はある。
「私も出て行く! 回せっ!」
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