第128話 王国の状況

「移動はどうでしたか? 王国海軍は協力的でしたか?」


 移動中の様子を忠弥は先に現地に入っていた先遣隊の隊長に尋ねた。

 先遣隊は迅速に展開するために王国軍の海軍艦艇で大陸から王国本土へ渡っていた。


「王国海軍のお陰で、迅速に移動できました。が」

「が?」

「本土を空襲された事でかなり不安が広がっているようです。市民だけでなく、将兵も不安を抱え緊張しているようです」

「対抗手段がないからね」

「はい実は入港する時、飛行船発見と見張りが報告し半ばパニックになりました。艦は直ちに戦闘配置に入りましたが、皆不安そうでした。」

「無理も無いな。有効な対空装備が無いのだから」


 近距離の艦艇を撃破するために建造された王国海軍いや、世界中の艦艇は対空装備など搭載していない。

 空から空襲を受ければ一方的に攻撃されてしまう。


「はい、戦闘配置を命令しても対応できる装備が無く、乗艦していた海兵隊を甲板に並ばせ、小銃を向けさせるのが精一杯でした。その時は見張りの見間違いで、何ら被害はありませんでしたが」


 見張りが雲か何かを飛行船と見間違えたのだとしても、彼らが飛行船に怯えているのは間違いなかった。

 出なければ雲を飛行船だと報告する事は無い。


「何ら反撃手段がないのも気持ちよくないからね」


 一八インチ――大和の四六サンチ砲を最後に世界の大艦巨砲主義は終焉を迎えた。

 四六サンチ砲の破壊力は史上類を見ないほどの威力だが、命中すればの話だ。

 空中を自由自在に三次元の軌道を行う飛行機相手に、海面という二次元の上で走る敵戦艦を想定した四六サンチ砲の砲身重量は一五〇トンもあり、上下左右に動かすのも緩慢だ。

 半周旋回するのに数十秒掛かるのでは高速で移動する航空機を捉えられない。

 三式弾という内部に無数の可燃性弾子を搭載した対空砲弾が開発されたが、射程外で分散されたり、対空射撃に有効な射撃指揮装置が開発されなかったこともあり有効では無かった。

 航空機への対抗手段は対空ミサイルを除けば艦砲だと五インチ砲――口径一二.七サンチ以下の艦砲と直進性に優れ旋回性能に優れる高初速機関砲だけだ。

 二一世紀初頭まで多くの艦艇で搭載する最大の大砲が五インチ前後という事実が、巨砲が航空機に対応できない証拠だ。


「いずれ艦艇にも対空砲が必要になるな。報告書と上申書を改めて書いておくか」


 海軍出身の相原が古巣に報告書を出しているはずだが、海軍を裏切って空軍に移ったように見られているため握りつぶされている可能性が高い。

 忠弥も改めて書いておこうと思うが、予算ぶんどり合戦のライバルからの提言に耳を貸してくれるとは思えなかった。


「そういえば先ほど昴さんが、外に出て行きました。あとで来て欲しいと言づてを言いつかっております」




「うわあ、良い感じの町並みね」


 サイクスの城から出てきた昴は私服に着替えて近くの町を散策していた。

 子供達が通りを駆け抜け、ひげを生やした老人が露店を出し、おばあさんが手押し車を押している。

 昴は一応軍人に任官しており勝手に外に出ることは出来なくなっている。

 だが、今日は移動の疲れを抜く休養日に設定されている。

 忠弥は今後の打ち合わせがあるようだが、すぐに終わりそうなので、終わったら町に来るように言ってある。

 追いかけてきたら、そのままデートしようと考えていたのだ。

 だから、その前に予め何処に行くか、何を買わせるか昴は偵察しようとしていた。


「うーん、なんか品物が少ないわね」


 共和国でもちょくちょく町に出ていたが、戦争の影響で並んでいる品物が少なかった。

 王国は後方のはずだし、飛行船の被害も少ないはずだ。

 なのに品物が少ないのは、全てを前線に送り込んでいるため、不要不急の品物は作らず嗜好品、高級品の生産に使われる資源と労力を兵器生産に向けていた。

 その影響が出ていた。


「でも、おかしいわね」


 少し歩いただけだったが町の雰囲気がおかしいと昴は感じていた。


「そこの軍人さん! 邪魔です!」


 フラフラと歩いていた昴は交通整理していた婦人警官に怒られた。


「あ、済みません」

「気をつけてください、飛行場へ向かうトラックの通行が多いのですから」


 自分たちが駐留したせいだと昴は思った。

 多くの飛行機が配属される予定であり、大量の物資が必要とされており、トラックが運び込んでいるのだ。

 トラックが何台も列をなして飛行場の方へ向かっていく。

 巻き上げる土埃に巻き込まれ昴は、婦人警官と一緒に咳き込んでしまった。


「ごほんっ」


 咳払いをして、制服の埃を払ってから二人は顔を見合わせ少し笑った後、昴が尋ねた。


「あの、このあたりでデパートはありませんか?」

「この先、町の中心部にクラークハロッズがあります。そこがこの町で一番品揃えが豊富ですよ」

「ありがとうございます」


 昴は婦人警察官にお礼を言うと、案内通りに町の中心に向かった。


「意外と大きいわね」


 街の通りに立ち並ぶ建物は全て石造りの三階建てで、長年に渡り営まれてきた貫禄を感じる。

 その中に入るお店も、小さなまどから覗いただけだが、長年使い込まれて良い味がしている。

 だが特に目を見張ったのが、街の中央に立つ巨大なクラークハロッズの建物だった。

 教会のような高い尖塔を持ち、正面に大きな玄関を持つ建物は荘厳さなオーラを周囲に放っていて、昴は入るのを躊躇してしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る