第299話 黒鳥撃墜
「もうすぐブルッヘか」
黒鳥の操縦席に座った山本優里亜は呟いた。
ここ数日、ブルッヘへの偵察飛行が多く、海岸線を見ただけで正確に上空までの所要時間を当てることが出来る。
内陸部にある大きな人造湖――八〇〇〇メートルの上空からでも見えるおかげで目標を見誤る事はない。
側面の窓を見ると、沿岸部にまた細長いエリアが出来ていた。
「また飛行場を新設しているのね」
防空体制を整えるために帝国はブルッヘ周辺に飛行場を多数建設している。
幸い、帝国には黒鳥が飛行できる高度まで上昇できる飛行機はいない。
しかし、日に日に防空体制が強化されるのを時間している空域に脚を踏み込むのは気持ちの良いものではなかった。
「かといって今更空戦に加わるのもね」
デリケートな操縦――頭に急が付く行動を厳禁とされている黒鳥の操縦ばかりしていてしまった優里亜に取って上下左右に空中を動き回る空中戦など、想像できない。
戦えるとは思えない。
このまま黒鳥のパイロットとして過ごした方が良いと思った。
撮影を始めるわ
後席の聡美がジェスチャーで伝えてきた。
優里亜は了解の仕草をすると針路を安定させる。
聡美が機体下部の扉を開ける音がした。
針路を確認するため、優里亜は外を見た。
「あら? 飛行船?」
下の方に飛行船が見えた。
上空哨戒用だろうか。
連合軍の攻撃を恐れて昼間は内陸部へ避難している事が多い、飛行船が沿岸部を飛ぶなど珍しい。
よほどこの空域の防空に自信があるのだろうか。
それでも飛行船はせいぜい一〇〇〇メートルか二〇〇〇メートルくらいしか飛べない。
優里亜達への脅威とは、ならない。
はずだった。
「! 何か光った」
外を見ていた優里亜は、何かが光ったのを見て恐怖を感じた。
地上の物体が光を反射する事はある。しかし、今光ったのは地上では無くすぐ近く、ほんの千メートルから二千メートル程度の至近距離だ。
「落ち着いて、優里亜。それだけの距離があれば、攻撃できないわ。黒鳥の元まで飛べる飛行機なんてないわ」
優里亜は動揺する自分を落ち着かせる。
黒鳥が飛んでいる高度まで上げれる飛行機など敵にはない。
もしかしたら、出来ているかもしれないが千メートルか二千メートルも離れている。
航空機なら僅かな距離だが、高度差としては超えられない壁とでもいうべき障害だ。
それだけの距離があれば例え、機関銃を撃っても当たることはない。
優里亜は自分にそう言い聞かせた。
だが、それは気休めでしかなかった。
その飛行機から突如、火の手が自分に向かって伸びてきた。
「な、なに! 攻撃されているの!」
突然の事に優里亜は驚き、攻撃されたとは思わなかった。
だが、実際に攻撃されていた。
攻撃したのはベルケの計画によって作られたアルバトロス戦闘機の改造機、高高度迎撃機<アルバトロスグロスホーへ>だった。
黒鳥による航空偵察を妨害したい――敵に情報を与えるのは軍事上不利益になるので対応策を考えていたベルケが思いついた戦闘機だった。
帝国情報部から手には入るだけの黒鳥のデータと情報を取り寄せ、機体運用方法を見ていた時、思いついたのだ。
黒鳥は重量軽減のため脚さえ取り外し、発進と収容を空中で行っている。
この点にベルケは注目した。
自分達も同じ事をすれば良い。
かくしてアルバトロス戦闘機から脚が外された。
他にも迎撃のみであり、長距離を飛ぶ必要が無いことから燃料タンクを小さくし、格闘も不要なのでで、各部の強度低下を伴うフレームの骨抜きが行われた。
こうして軽減したが、まだ黒鳥の飛行高度に千メートル届かなかった。
そこで、ベルケは斜め上方へ銃口を向けた機関銃を載せ、黒鳥を下から攻撃する事を思いついた。
第二次大戦で日本海軍の小園大佐がラバウル時代にB17への攻撃方法として思いつき実行し戦果を挙げた方法だった。
早速実行用としたが、機関銃ではまだ射程が不十分な上に、機銃の発砲に耐えられるだけの強度さえ無くしてしまっていた。
一時は棚上げになったが、すぐに解決した。
飛行船攻撃用のロケット弾を代わりに搭載する事を思いついたのだ。
ロケットならば徐々に推力を与えるため、反動が少ない。
命中率は低いが数を多くすること、載せるロケット弾を小型化し本数を多くし、迎撃に出る機体を多くして、撃墜できるようにした。
かくして、迎撃部隊は編成された。
大洋での作戦を外されたエーペンシュタインを初めとするパイロットたちによって空中迎撃戦闘機部隊が編成され、黒鳥を待ち受けていた。
そして帝国で最も戦果を挙げ、連合国を苦しめている潜水艦部隊の基地ブルッヘで待ち構えていた。
その中に優里亜達は踏み入ってしまい、攻撃を受けた。
多数のロケット弾が黒鳥へ向かって放たれ、周囲で炸裂、無数の弾子を放った。
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