第34話 忠弥の反撃
「拙いな既存政党が反撃に出ている」
朝刊が出て直ぐに秋津飛翔党を除く各党は、人類初が法螺である、他人の功績を横取りしていると新聞各紙面や演説で訴え、義彦を攻撃した。
民衆も大きく人類初の有人動力飛行だったかどうか議論することになった。
「何を言っているんですか!」
一番元気だった、いや怒りを噴火させているのは昴だった。
自分も飛んだのに、何より自分の好きな忠弥の業績を何も知らない外国人が偉そうに否定するのが気に入らなかった。
「真っ直ぐ飛ぶだけの巨大模型に人を乗せて飛ばしただけでいい気になって!」
昭弥の受け売りを昴は大声で叫び、記事の載っている新聞を破り捨てようとした。
「一寸見せて下さい」
だが、忠弥は新聞を取り上げてざっと目を通す。
「……寧ろチャンスが巡ってきたようですよ」
「どういう事だ?」
「ダーク氏は自分が世界初の有人動力飛行を行った、私の飛行は後追いだ、と言っています」
「それがどうしたのか」
「あ、飛行の定義」
いまいち理解できなかった義彦に代わって昴が叫んだ。
「はい、ダーク氏の飛行に関しては私は疑問を抱いています。そこを提示して喧伝すれば良いのです」
「なら、ラジオでその主張を繰り返し放送し徹底的に反論しよう」
「いえ、それだとダメです。ダーク氏のように一方的に主張するだけになります」
「では、何をするのだ」
「ダーク氏と対談しましょう。そこで飛行の定義について話し合うのです。観客を大勢集めて飛行について、空を飛ぶことについて語り、討論するのです」
「対談だと」
「はい、明後日の夕方、対談したいと」
皇都の皇国ホテルに滞在していたダーク氏の元に忠弥からの手紙が届いたのは、朝刊が載ったその日の午後だった。
「何を話したいのだ」
「飛行の定義について民衆の前で対談したいと」
「何故だ。人類で最初に空を飛んだのは私だ」
「その飛行について疑義があると」
「疑義だと! 私が空を飛んだことが嘘だと言いたいのか、その子供は」
「いえ、空を飛んだことには疑義はないそうです。ですが、本当に飛行だったのか、空を自由に飛べたか疑問があると」
「私の後追いのくせに物言いを付けるのか」
「いえ、後追いではなく、自分が空を自由に飛ぶために自分で考え、飛んだ。自由に空を飛べた、と主張しています」
「私と違うと言いたいのか!」
秘書が読み上げた手紙の内容にダーク氏は怒った。
「私は空を飛ぶために何年も研究してきたんだぞ」
科学に身を投じて数十年。様々な発明をして科学の発展に寄与してダーク氏。
有人動力飛行は、その集大成とも言える出来事だった。
様々な実験を行い、理論を構築し数年掛けて作り上げ、空に飛ばした自分の飛行機。
それを十歳の少年がケチを付けて、かっさらおうというのは、甚だ不満だ。
「良いだろう。白黒ハッキリ付けてやる」
「お待ちあれ。ミスタ・ダークが向かう必要は無いでしょう」
紋付き袴姿の初老の男が止めた。ダーク氏を迎えた皇国議会与党の幹部だった。
人類初の有人動力飛行を成功させた名声を使い、選挙戦を有利に進める義彦率いる秋津飛翔党。
彼らから優位をもぎ取るため、岩菱の支援で凱旋ツアーを行っているダーク氏を迎え入れたのだ。
忠弥が人類初の有人動力飛行を成功させたのは、同じ秋津皇国臣民として秋津皇国が世界に誇る壮挙だと思っている。
だが、自分の選挙戦の前に立ち塞がるのは看破できない。
しかし表立って秋津の国民が熱狂する偉業に反対意見を言うのは憚られる。
そこでダーク氏を秋津皇国に迎え入れ、有人動力飛行に疑問符を付けさせる事で選挙戦を優位にしようとしていた。
「ダーク氏が飛行を成功させたのは事実なのですから」
なので下船したときにダーク氏が記者に言い放った時点で幹部にとってダーク氏の役目は終わった。
忠弥の飛行に疑問符が付けば義彦の支持は鈍り、選挙で勝てる可能性が高い。
あとはダーク氏がこれ以上の波風立たせず、帰国するなりツアーに復帰して貰いこの国から去って貰うだけだった。
選挙戦が終わるまで、忠弥の功績を否定しいては、その功績を象徴に選挙戦を戦う秋津飛翔党の印象を悪くするのが狙いなのだから。
実際ダーク氏の記事が流れた後、与党候補者は他人の功績を盗み撮りするのは良くないと説教じみた演説を行い、後援する秋津飛翔党の印象を悪くするのに必死だ。
だから、ここでダーク氏が表に出て何かされる、余計な事をやって状況を悪化、選挙戦が不利になるのは不味かった。
その可能性がある出来事は是が非でも避けたかった。
「いや、疑念を残したままこの国を去ることは出来ない。人類初の有人動力飛行を行ったのが私である事を世界の人々が知るためにも私は忠弥氏を論破する」
早口にメイフラワー語を話したため通訳が幹部に伝えるのに時間が掛かったが、ダーク氏の真意を聞いて幹部は蒼白となった。
「いや、それ以上の必要は」
「私は私が成し遂げたことを証明する義務があり権利がある。この対決は受けて立つ」
与党幹部が必死に止める中、ダーク氏は直ぐさま対談を受けて立つという返事を書いて忠弥に送った。
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