第353話 砲撃下の積み下ろし
「昴! 大丈夫!」
「忠弥!」
いきなり降りてきたのが忠弥でびっくりした。
「戦闘機ではないの?」
「砲弾が降り注ぐ前線飛行場に荷物を満載した鈍重な機体で降りるんだ。誰だって二の足踏むよ」
初めての空輸作戦それも的の砲撃が降り注ぐであり、何時敵の砲撃が行われるか分からない。
命令が伝わったとき飛行士達は、さすがに二の足を踏んだ。
空の上で死ぬのは覚悟している。
だが、砲撃の雨の中に着陸するなど想像していない。
志願者はおらず、忠弥は仕方ないとばかりに言った。
「いいよ。僕が飛ぶよ。僕は空軍の将軍であるまえにパイロットだ」
だが忠弥がこう言って乗り込むと、文句は言えず我も我もと志願者が出てきた。
これで忠弥は行く必要は無くなったのだが
「言い出しっぺが行かないのは無責任だ」
と忠弥は言って、最初の機体を操縦し着陸することを頑として撤回しなかった。
忠弥の近しい人間、相原は真っ先に説得を諦めた。
忠弥を見送り、周辺に多数の戦闘機を飛ばし、砲撃が行われないよう、攻撃機を飛ばす以外に方法はなかった。
そうやって、忠弥の安全を確保するために相原をはじめとする空軍の幕僚達は奮闘し、結果、最初の輸送機を第一師団の元へ送り込んだ。
「物資を急いで運び出せ!」
輸送に乗せられた積み荷が、第一師団の輜重隊から送り込まれた人員によって運び出される。重い荷物をバケツリレーの要領で次々と降ろしていった。
時間との闘いだった。
何時帝国軍が攻撃を再開するか分からないからだ。
輸送機をすぐに飛ばす為に彼らの動きは素早く二〇キロの荷物を、二秒程の間隔で運び出す。
疲れたら予め待機していた交代要員が出てきて引き継ぐ。
結果四トンもあった積み荷は七分程で全て出された。
そして、かっわりに担架に乗せられた重傷者、戦闘不能で野戦病院の治療能力を圧迫する彼らを包囲網の外へ出すため一二名ほどが乗せられた。
「さあ、昴も急いで!」
全てが終わり昴や他のパイロットを乗せて離陸するだけになった。
だが、そこで問題が発生した。
「俺も乗せろ!」
中佐の階級章を付けた参謀が怒鳴り込んできた。
「最高司令部へ報告の為に行かなければならない! 乗せろ!」
「ダメです! 乗れるのは負傷者とパイロットのみと規定されています」
「私は中佐だ! それに参謀として最高司令部に報告義務がある!」
目を血走らせ、叫んでいる。
捕虜になるのが嫌なのか、あるいは殺されるのが嫌なのか、なんとしても脱出しようとしている。
「見苦しいわね」
「脱出の手段が見つかったからね」
包囲されたら、脱出する手段など殆ど無い。予め抜け穴を作っておくか、的の包囲網が弱いところを突くかだ。
気球による脱出もあるが、風任せの賭けである。
しかし飛行機ならば、飛んでしまえば目的地へ飛べる。
ほぼ確実な脱出手段として良い。
忠弥も包囲網の手段として活用していた。
だが、飛行機の性能が低いので搭乗できる人数が少なく、せいぜい負傷者、戦闘の出来ない重傷者を包囲網の外へ運ぶことしか出来ない。
他の将兵など運ぶ余裕がない。
それに包囲網の中の兵力が少なくなるのは、戦闘力低下につながり拙かった。
「拙いな、他の兵士達にも伝染している」
忠弥は周囲を見渡した。
作業に当たっていた第一師団の将兵や軍属が参謀の言葉に、脱出の機会を求めて目を血走らせている。
このまま飛行機に駆け込み脱出したい衝動が膨れ上がっていた。
もし、飛行機に数十に数百人が殺到ししがみついたら、離陸できず、取り残され帝国軍の餌食になる。
忠弥は冷や汗が出た。
その時、昴が動き出した。
「一寸、良いですか」
「なんだ! 空軍の小娘か。口を挟むな!」
参謀は暴言を吐くが昴は怯まなかった。
まっすぐ目を見て話す。
「規定により、負傷者とパイロット以外は脱出出来ないことになっております」
「私は参謀だ! 最高司令部と参謀本部への報告義務があるのだ!」
「例外は認められません。それに私はパイロットですが残ります」
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