第308話 プラッツ

「各機の点検と報告を急いでください。異常が無いか徹底的に。ああ、オイルの成分分析も忘れないで。シリンダーを削っていたら大変だ。オイルの中に金属片がないかサンプルをとって調査に回してください」


 格納庫で整備員達に若い技師が命じた。

 年は二十歳くらいで若造と言って良かったが、熱意に溢れていた。

 その情熱は視線は飛行機に帝国の新型機に向けられていた。


「順調なようだねプラッツ君」


 突然名前を呼ばれた若者は振り返る。


「ベルケ将軍」


 プラッツと呼ばれた青年はぎこちない敬礼を慌てて行い、ベルケを苦笑させる。

 青年に敬意を表して答礼するとベルケは、気さくに話しかけた。


「君が作った機体の状況はどうだ?」

「おかげさまで、何とかなっています」


 彼の名前はラインホルト・プラッツ。

 帝国の新型機、プラッツⅣの設計者だ。

 若いが今ではベルケが最も頼りにしている航空技術者だった。

 戦争が始まってすぐ、ベルケは帝国軍航空隊を増強するため、新型戦闘機を求めた。

 何とか強力な新型機を作りたいが、航空隊の戦争指導、指揮を行わなければならないベルケには出来ない。

 そのため、技術者に依頼したが、戦闘機の専門家などおらず、なかなか形に出来なかった。

 彼らは帝国でも有名な技術者であり実力も功績もある大人物だった。だが忠弥とはあまりにも技術的なレベルが、殊に航空分野では違いすぎる。

 技術なので鹵獲した飛行機を徹底的に調査して行けば、いずれ到達できるだろうが、取得するまでに時間がかかる。

 いや、それ以前に、その技術が何のために、その機材が、設計がどのような力を発揮してくれるか分かっていなかった。


「帝国のエンジンは出力が低い」


 開戦後の、ある日ベルケが技術本部に行ったときの話だ。

 皇国に比べて帝国のエンジンの出力が低かった。

 そのため帝国の戦闘機は、皇国にスピードや上昇力で劣っていた。

 何とか向上させるようベルケは直訴に赴いた。


「そんなことはない。帝国の技術は世界一だ。素晴らしいエンジンを作っているだろう。皇国の方が大きめに作っているのだろう。すぐにこちらも大型エンジンを作る」

「いや、ダメだ」


 ベルケは技術者の意見にダメ出しをした。


「排気量当たりの馬力を増やさないと重すぎてむしろ荷物になる。出力を上げる工夫をしてくれ」


 同じ人間でも担げる重量に違いがあるように、エンジンも同じ排気量でも馬力が違う。

 技術によって違いが生じるため、皇国と帝国では皇国の方が優れていた。

 特に重量当たりの馬力、エンジンが小さく軽くても強い馬力が出るのが皇国のエンジンの特徴だった。

 帝国はどうしても重量当たりの馬力が小さく、皇国の戦闘機に負ける事が多かった。


「お前らパイロットの腕が悪いんだろう」


 ベルケの主張に技術者は呆れて見下すように言う。


「帝国の方がエンジン技術は優れている。見ろ」


 技術者はベルケに撃墜された皇国軍の飛行機から外されたエンジンを見せた。


「連中は工作精度が低い、その証拠にクランクの中心とピストンがズレている」


 レシプロエンジンはシリンダーの中に気化した燃料と空気を入れて爆発させ、ピストンを押し、下のクランクを回す仕組みだ。

 このとき、ピストンとクランクのズレが大きいと力を出せず、馬力が出なくなる。


「一直線に並ぶようにしないといけないのに、ズレているんだ。連中のエンジンの出力は低いハズだぞ」

「そういう物なのか」


 航空都市でエンジン技術を習っていたベルケだが、そこまで詳しくない。

 覚えることが多すぎて、操縦技術や機体構造の方に目を向けがちでエンジンは提供されたものをそのまま使ってしまっていた。

 エンジンを学んだ者もいたが、あいにくと前線で修理する機体が多くて連れてこれなかった。

 そのため技術者の意見が正しいのかベルケには判断できなかった。


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