第200話 敵母港偵察計画
「王国海軍からハイデルベルク帝国海軍母港の偵察命令が出た」
飛天に戻った忠弥は相原と草鹿中佐を呼び、下った命令を伝えると彼らは渋い顔をした。
「敵の飛行場に近く、警戒は厳重でしょう。母港上空どころか、接近さえ困難です」
「当然だな」
相原の意見に忠弥は同意した。
先日襲撃した飛行船の基地にも近くベルケならば、警戒を厳重にしているはずだ。
偵察行動も危険だと考えられる。
「だが、上空から偵察できるのは我々だけだ」
「王国海軍ならば、潜水艦による偵察を行っているはずです。必要ないのでは?」
海軍出身で諸外国の海軍事情に詳しい相原は言った。
皇国では開発が難航している外洋でも航行出来る航洋型潜水艦を王国は開発に成功している。
多数の潜水艦を帝国の母港の近くに潜ませている可能性は高い。
「そうかもしれない。だが、上空から俯瞰して迅速に偵察できるのは我々だけだ。潜水艦では、上空から偵察など出来ない。広範囲に散らばる艦船の配置や隻数を瞬時に把握できるのは飛行機だけだ」
忠弥も王国海軍からの要請を受けたとき相原のレクチャーを思い出して、王国海軍の意図を読み取っていた。
だが、あえて従ったのは、潜水艦には出来ない上空からの写真撮影、機動性を生かした迅速な偵察を王国海軍、ひいては皇国海軍に見せつけ空軍の航空戦力が有効であると認めさせる為だ。
航空偵察が、空軍の能力がいかに役に立つかを海軍に見せつける事で戦後の発言権、空軍の存続と拡張、陸海軍から予算をぶん取られないよう、むしろ、ぶん取ってやるくらいの働きをしておきたかったからだ。
「航空機の有用性を王国海軍に見せつけてやろう」
「王国海軍の下働きになったような気がしますが」
「今は相手が俺たちのことを下働きだと思っていても、いずれ我々がいなければ作戦は遂行できないことを見せつける事が出来る。今後の空軍の拡大のためにも我々の実力を示そう」
航空機による偵察は非常に有効だ。
迅速に偵察できるし、高度があれば広範囲を一度に見る事が出来る。
第二次大戦でも活躍していたし、冷戦初期でも多数の偵察機が作られ、時に国際政治を左右するほどの成果を上げることがあった。
有名なところではアメリカのU-2偵察機によるキューバ危機の偵察飛行だろう。キューバに建設されていたミサイル基地を発見し、ケネディにキューバ封鎖を決断させた。
二一世紀でも偵察衛星が天候に左右されやすいのに対して、雲の下を飛べる偵察機が未だに活躍している。
その先駆けとなるのなら、それも向こうから要請されて行うのであれば、航空偵察の能力を見せつけられる。
悪い話ではなかった。
「将来の為にも、作戦を成功させるぞ」
「了解」
相原は納得して忠弥に同意した。
「それで具体的にはどうしますか?」
草鹿も納得して忠弥に尋ねた。
「飛天で行き、多数の戦闘機が護衛した状態で母港上空を通過して偵察しますか?」
草鹿は戦闘機を多数搭載できる飛天から戦闘機を出しつつ、強行突破して偵察する方法を提案した。
「いや、陸上の飛行場には多数の戦闘機が配備されている。搭載機十数機程度だと劣勢になり飛天も撃墜される恐れがある」
「では雄飛で行くのですか? 機数が少なすぎます」
雄飛型は飛天より高速だが五機程の航空機しか搭載できない。
圧倒的に不利すぎる。
「雄飛を使うが、なにも雄飛が直接突入する必要は無い」
忠弥は、実施計画を説明した。
「夕方出撃し、夜明けまでに敵の母港近くまで進出。夜明け前に偵察機を発進させ、夜明けと同時に敵母港上空に到達する。いくらベルケでも夜の内、明け方に警戒機を飛ばしておくことはないだろう。偵察を終えた後、偵察機は直ちに離脱。雄飛もしくは飛天に着艦。離脱する。万が一に備えて飛天も雄飛の後方に待機。夜明けと同時に雄飛へ直援の戦闘機を発進させ援護する」
その案を聞いて草鹿も相原も納得した。
「確かに、これなら簡単ですね」
「成功は間違いなしです」
「よかった」
二人の同意を得られて忠弥は笑った。
「では、作戦配置を決める。偵察に行くのは僕と相原。雄飛で向かう。草鹿中佐率いる飛天は撤退援護のため、雄飛の後方一〇〇キロで待機。作戦終了後の雄飛の撤退援護を頼む」
「私は?」
昴が尋ねてきた。
「昴は飛天で戦闘機隊の指揮を執ってくれ。僕が帰るまでの留守を頼む」
「了解」
本当は忠弥と一緒に行きたいところだが、海軍に詳しくない。
元海軍将校で諸外国の艦船にも詳しい相原が同行するのが、正しい判断だろう。
「では、夕方に出撃する。各員準備を進めてくれ」
忠弥が命じると全員敬礼して、持ち場に戻った。
そして忠弥の命令通り、飛天と雄飛はその日の夕方に離陸し、帝国本土へ向かっていった。
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