第364話 接収
帝国軍航空隊が降伏してから早速作業が始まった。
皇国空軍の将兵が帝国軍の飛行場に進駐し、航空機の接収を始めた。
後方に保管されている機体も掻き集めるように命じられ、各地から飛行機が集められていた。
パイロット達は始め渋っていたがベルケの命令により、各地へ向かい飛行機を指定された飛行場へ集めて来た。
だが、全て順調というわけではなかった。
帝国内の都市の一つが負けた混乱の中、極左勢力が政権を取り革命政権樹立を宣言し、領土内の帝国軍の武器を接収すると宣言。
航空隊の飛行場も例外ではなく、飛行機と共に接収されてしまった。
帝国も連合も困った。
全ての航空機を管理下に置くことが休戦の条件だった。
一地方が反攻して独立しても守らなければならない。
かといって彼らが言うことを聞いてくれるとは思えなかった。
「なんてことしやがる!」
だが、話を聞いたエーペンシュタインが腕自慢の自らの部下と共に、その都市へトラックで急行。
革命だと騒ぐ連中を一喝し航空機を奪回した上、反省文と謝罪文を書かせた。
「良かった」
奪回し、離陸したという通信を受けてベルケも忠弥も安堵した。
血の気の多いパイロット達を連れてゆき、現地で武力行使という最悪の事態も考えられた。
国民同士の撃ち合いもダメだが、エーペンシュタイン達のような歴戦のパイロットがこんなくだらないことで失われることを、いつの日にか再び航空隊が、いやいずれ空軍が出来たときの幹部要員として必要だと考えていたからだ。
なので、機体を奪い返した以上に彼らが無事だったことがベルケには嬉しかった。
だが、事件はこれで終わりではなかった。
「来たぞ!」
エーペンシュタイン率いる編隊が飛行場に現れ、ベルケも忠弥も、その動きに注目した。
そしてベルケは血相を変えた。
「どうしたエーペンシュタイン! 侵入高度が高すぎるぞ!」
滑走路に入ってきた機体の高度が高すぎた。
高すぎると接地の時、落下エネルギーが大きすぎて脚を折ったり、本当の墜落になって仕舞う。
本来なら徐々に高度を下げるが、下がろうとしない。
プラッツDr1は、着陸時の操縦が難しい――速度を落とし揚力を上げるため機首を上げる時、三枚の翼が前方視界を遮るので、滑走路や地平線が見えなくなる欠点がある。
そのため熟練者しか扱えないが、幾度も実戦を積んできたエーペンシュタインがそんなミスをするはずがなかった。
だが、相変わらずエーペンシュタインの機体は行動を下げない。
むしろ、その高度を、着陸には高すぎる高度を維持しようとすらしている。
そして不意にエンジンを止め機首を上げた。
「馬鹿!」
ベルケが叫んだときには遅かった。
推力が無くなり、急激な機首上げで翼から気流が剥がれ、揚力を失ったプラッツDr1は失速し、急速に落下した。
ダンパーの能力を上回る落下エネルギーが与えられ脚は折れ曲がり、機体は胴体で滑走路上を滑っていった。
整備員が駆け寄ろうとしたが、ダメだった。
エーペンシュタインの部下達も同じコースで進入し、同じように高い高度から失速させわざと墜落させ機体の脚を折っていった。
全ての機体が滑走路に下りて、いや、落下し脚を折ってからようやく機体に近づくことが出来た。
「何をしているんだ!」
駆け寄ったベルケは真っ先に怒鳴った。
機体を損傷させるなど、あってはならないことだ。
武器をわざと破損させることは、敵前逃亡と見なされることもあり軍法会議ものだ。
それ以上に自らの命を危険に晒したことが、それもエーペンシュタインの部下達全員が示し合わせて行ったことに、ベルケは怒りをぶつけた。
「申し訳ありません、将軍。しかし……」
エーペンシュタインは静かに頭を下げた後、違反を承知で信念を持って行った目を向けて返答した。
「愛馬を敵に奪われる屈辱には、耐えられません」
これまで戦った相手に自分の愛機を引き渡すことをエーペンシュタインは潔しとはしなかった。
ベルケもこれには言い返せなかった。
さらに、エーペンシュタインの意見を証明するように、直後にラスコー軍がやってきて接収を始めた。
休戦協定で、管理下に置いた機体の一部を管理する権限が与えられ、彼らは帝国軍機を奪っていった。
そして、それまでの鬱憤を果たすように接収した機体をハンマーで壊したり、塗料で「負け犬」「飛べない鳥」などと書いていった。
その光景をベルケは歯がみしながら全身を震わせて堪えた。
「なあベルケ」
その時、忠弥がベルケに話しかけた。
「一寸、飛んでみないか?」
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