第357話 決戦場

「敵軍に動きあり! 突撃の兆候です!」

「遂に来たか」


 昴の指揮所に伝令が飛び込んできて緊張が増した。

 昴自身も疲れ切った身体が反応して気を引き締める。

 既に十数回の突撃を撃退している。だが、敵は怯むことなく徐々に迫ってきている。


「支援も少ないわね」


 青い空を、航空機の少ない空を見て溜息を吐く。

 忠弥も頑張って航空機を集めているようだが、さすがに数日間の出撃が続くと、稼働機が少ない。


「弾薬を再分配しろ! 砲兵の支援を要請しろ」

「砲兵は弾薬切れです」


 武器弾薬も輸送機の稼働率が落ちて輸送量が激減している上に、帝国軍の攻撃が多く弾薬の消耗が激しい。一週間も続けばさすがに弾薬が尽きる。

 むしろ、今までよく保った方だと言えた。

 しかも上からシュルシュルシュルという音が響いてきた。


「敵の砲撃来るっ!」


 見張の悲鳴にも似た警報を聞き、昴は勿論、指揮所の人間全員が伏せる。

 近くに着弾し観測窓から爆風が入り内部で荒れ狂う。

 直撃弾も新しく天井から爆発音が響き、天板の隙間から土が流れ落ちてくる。

 これまでの砲撃にも耐えてくれたのだ。大丈夫と昴は言い聞かせる。

 だが、反対側で激しい爆発音が響いた。


「ぐあああっっっ」


 激しい砲撃で盛り土が吹き飛ばされ薄くなった箇所に砲弾が命中。掩体壕の天井を破壊した。

 運悪く生き埋めになった下士官はすぐに引き出され野戦病院に運ばれていった。

 砲撃は止んだが、その意味を理解している全員が戦慄していた。


「敵兵多数接近!」


 味方の突撃を巻き込まないよう砲撃を止めたのだ。


「総員着剣! 白兵戦に備えろ! 射撃用意!」


 砲撃で防衛線のあちこちにほころびが出ている。

 陣地の前で敵の突撃を粉砕できる自信が無かった。

 昴は上空を見るが、味方の航空機はいない。


「次の攻撃に耐えられるかしら」


 昴が不安に思っていると、東の空に飛行機の大軍が見えてきて、凍り付いた。

 全て帝国軍機だった。

 昴は凍り付いたが、すぐに震えながら、敵機来襲と応援を要請した。


「忠弥、助けて」


 無線を切った後、昴は小さく震える声で呟いた。

 直後、激しい砲撃が降り注ぎ、陣地はいよいよ最後の戦闘を迎えようとしていた。




「帝国軍の戦闘機がカルヴァドス上空に殺到しています。主力はプラッツDr1」

「遂に来たか」


 カルヴァドス近くの前線飛行場に集まっていた忠弥は唸った。

 帝国軍の航空機が集まってきている。

 カルヴァドス上空の制空権を確保することが、勝利への唯一の道とみて、全戦力を投入しているようだ。

 実際、ここで勝てるか否かで帝国の運命は決まるだろう。

 長期戦でも連合国は勝てる。だが、被害を少なくするためにも、ここで終わらせたい。

 ここで全力を出して叩きたい。


「全機出撃! 応戦する! 制空権を渡すな!」


 忠弥は躊躇わず出撃を命じた。

 カルヴァドス上空には第一師団への補給を行う輸送機が飛行している。

 彼らを守る為にもここで退くわけにはいかなかった。

 待機していた戦闘機が全機離陸してカルヴァドスへ向かっていく。

 前線までの距離が短いためすぐに上空へ到達した。


「迎撃開始!」


 カルヴァドス上空で初風とプラッツDr1の激しい空中戦が開始された。

 一撃離脱で攻撃してくる初風。

 旋回性能を生かし、格闘戦で挑んでくるプラッツDr1。

 互いに相手を撃墜しようと、目標の後ろに付こうとするドッグファイトが繰り広げられる。


「こちらが優位か」


 機数の多い初風の方が優勢だった。

 訓練を終えたばかりのパイロットでも一撃離脱ならば比較的簡単にできる。

 初風は一撃離脱を主眼に作られているため、扱いやすい機体だった。

 一方プラッツDr1は旋回性能が卓越しているが生かすためには熟練の技量が必要だった。

 帝国中から熟練パイロット集めたベルケだったが、数が少ない上に、彼らでも扱い難い機体だった。

 度重なる連合軍の攻撃に回避を続けると操縦ミスが起きて、操縦不能となり墜落していく機体が多数出来た。

 だが、それでも空を自由に駆け回る、赤いプラッツDr1がいた。

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