第358話 決着

「ベルケ!」


 現れた赤いプラッツDr1を見て忠弥は叫び、同時に、最早戦うしかない事を理解していた。

 そして誰もが、忠弥の青い機体とベルケの赤い機体が繰り広げるであろう、このあとの戦いに注目していた。

 皇国と帝国の戦い、その最終戦と誰もが見ていた。

 だから、敵味方を問わず、戦闘を中断し、自分の任務さえ忘れて、青と赤の機体の動きを見ていた。

 忠弥とベルケも理解しており、互いに操縦桿を握る手に一段と力が入った。

 最初に動いたのは忠弥だった。

 初風の上昇力を利用して、忠弥は高度を上げ、優位を確保しようとする。

 ベルケも追いかけようとするが、スピードが遅いため追いつけず断念する。


「行くぞ!」


 高度の優位を確保した忠弥はベルケに襲い掛かった。

 だが、ベルケは缶単位避けて忠弥の後ろに付こうとする。

 一方の忠弥も、危険を感じて急降下してベルケを振り切り、距離を取ると再び襲い掛かる。

 今度もベルケが襲い掛かってくる忠弥に対して後ろに回り込もうとした。

 しかし、忠弥は、今度はベルケと同じように後ろに回り込もうとした。


「くっ」


 突然の旋回にベルケは驚き、離脱する。

 次の瞬間には忠弥の放った銃弾が真横をかすめた。


「さすが忠弥さん」


 若いため身体が小さく体重が軽い分、忠弥の初風は機動力が高かった。

 プラッツDr1程ではないが旋回が小さく、格闘戦にもある程度、追随できた。


「ならば!」


 今度はベルケが直線に急降下した。


「誘っているのか」


 ベルケの機体の動きを見て、忠弥はその意味を悟った。

 180度ターンを狙っている。

 燃料計を見る。

 激しい空中戦で、燃料を大量消費していて、前線飛行場へ戻れそうにない。


「よし」


 忠弥は覚悟を決めてベルケの機体を追いかけた。

 180度ターンを受ける危険は承知。

 ここで決めないと、燃料切れで帰るところを追撃されて仕舞う。

 忠弥は、ベルケの機体へ向かって一直線に向かう。

 一方のベルケも、忠弥の機体を真後ろに持ってこようとあえて一直線に逃げる。

 徐々に距離が縮まる中、二人は、互いの攻撃のタイミングを計っていた。

 早く仕掛けるべきだ。だが、仕掛ける距離が遠いと相手が逃げて仕留められない。

 近づきすぎると相手が先に仕掛けて来て撃たれるかもしれない。

 刹那の間に、二人は全神経を集中し、相手の動きを見定める。

 機体の動き――補助翼、方向舵、昇降舵の挙動、気流による動揺、機体の捻れ。

 互いに高度な航空技術者でもあるため、相手の動きが手に取るように分かる。

 全てを曝した状態で、相手に打ち勝つというプレッシャーに二人は耐え抜き、その一瞬を、相手に銃撃を浴びせる瞬間を狙う。


「!」


 最初に仕掛けたのはベルケだった。

 目論見通り180度ターンを決めて、忠弥に銃撃を浴びせようとする。

 だが、忠弥はその動きを読み取ると、操縦桿を目一杯引き上げ、機体を上昇させた。

 上昇しようとして下部を見せた忠弥の機体へベルケは狙いを付けて、引き金を引いた。

 だが、距離が遠すぎた。

 狙いを定めたときには忠弥の機体は上昇を始め、銃撃を躱していた。

 ベルケも追いかけようととするが180度ターンのあとの失速で、上昇できない。

 一方の忠弥も上昇角度がきつすぎて、徐々にスピードが落ち失速を始めた。

 しかし、それは忠弥が描いた瞬間だった。


「貰った!」


 舵の効きが悪くなる寸前、忠弥は、ラダーを蹴り上げ、機体を急旋回させ反転。

 真下にベルケを捕らえ急降下して接近していく。

 ベルケは、迎え討とうとするが、スピードが落ちているため真上に機首を向けられない。


「くっ」


 ベルケは離脱しようとするが、その前に忠弥は一気に距離を縮める。


「うおおおっっ」


 照準器にベルケの機体が目一杯に広がると忠弥は引き金を引いた。

 多数の銃弾がベルケの機体に命中する。


「エンジンをやられた」


 いくら揚力が高いプラッツDr1でも推進力であるエンジンがなければ飛ぶことは出来ない。

 ベルケは即座にコックを閉めて燃料をカット。同時にタンク内の燃料を投棄して軽くし、火災の危険を少なくする。

 同時に機首を下げ、降下することで、操縦出来るように滑空する。

 その時、手負いになったベルケの機に多数の連合軍機が殺到してきた。


「トドメを刺す気か」


 ベルケが覚悟を決めた時、背後に回ってくる青い機体があった。


「忠弥さん」


 忠弥の機体が、連合軍の戦闘機とベルケの間に入り盾となった。同時に、攻撃しなよう命令する。

 一部からは反感の声が上がったが、忠弥は黙らせた。

 そのまま忠弥はベルケの横に並ぶと、帝国軍の陣地上空まで飛行すると敬礼し、反転して離脱していった。


「負けましたか」


 エンジンが止まった後、滑空してベルケは友軍の陣地まで戻った。

 エンジンを完全に破壊されて、最早飛べなかった。

 しかし、不思議と悔しいとは思わなかった。

 何故そのような気持ちになったのかベルケは分からない。

 ただ、悲しい気持ちがベルケの中にこみ上げてきた。

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