第361話 敗走
「攻撃が止まったか」
迎えが来るまで忠弥は、第一師団でお世話になることになり、その司令部に居た。
救援が間に合った第一師団は、後退を許可されていたが、拒絶。
反撃作戦の参加を要望した。
これまでの包囲で一方的に撃たれまくった鬱憤を晴らしたいとの願いからだ。
彼らの熱意、独断で前進を始めた部隊を総司令部は追認するしかなく、前進した合衆国軍戦車部隊の後に続いて帝国軍の陣地に殴り込んだ。
だが複数ある塹壕線に阻まれ、前進できなくなってしまった。
「また膠着状態かな」
陣地に籠もっての塹壕戦が続くと予想された。
『連合国の攻勢はいよいよ熾烈さを増し、帝国は存亡の危機にある。これを打開するために最後の決戦を行う! 帝国軍将兵よ! 今一層奮起し敢闘せよ!』
ラジオからは帝国軍参謀総長の声、いや怪気炎が流れてきている。
殆ど勝ち目がないのに、闘志だけは高いようだ。
「戦いは続くの?」
隣に居た昴が尋ねる。
数日間の前線勤務で拾うが溜まっているため、目がとろんとしている。
「暫く抵抗は続きそうだね。何か終わらせるきっかけがあると良いのだけど」
忠弥は御耐えたが昴は聴いていなかった。
睡魔に襲われ、深い眠りに就いたのだ。
忠弥は昴に上着を掛けると毛布を貰おうと部屋を出た。
そして、人の気配を感じて、声をかけようとした。
が、絶句した。
「帝国兵!」
フリッツヘルメットをかぶり短機関銃を下げた帝国兵が突如忠弥の目の前に現れた。
忠弥は慌てて拳銃を取り出そうとした。
「Aufgeben」
「あうふげべん?」
帝国語で話しかけられ忠弥は戸惑ったが、すぐに単語の意味を思い出した。
「降伏するのか」
忠弥が尋ねると帝国軍の兵士は不安そうに見る。忠弥が皇国語だと気が付き、帝国語で改めて尋ねると彼は頷いた。
「将軍大丈夫ですか!」
騒ぎを聞きつけた第一師団の兵士が駆けつけてきて帝国兵に銃口を向けた。
忠弥は手で制止して彼が降伏した事を伝えた。
「彼は降伏しようとしているんだ」
と言ったが、将兵は怯えたまま銃を放さない。
武装解除すれば大丈夫かと思い、武器を放すように帝国兵に伝えようとしたら、彼の背後に帝国兵数人が現れた。
「……君らは?」
忠弥は怯えながらも冷静に帝国語で尋ねた。
彼らは突撃隊で、第一師団の司令部を破壊しようとしたが、連合軍の破竹の進撃と帝国軍の陣地が占領されたのを見て勝利はない、敵中に孤立し助からない、と思って降伏したとのことだ。
「帝国ももう終わりか」
話を聞き終わり、武装解除した後、司令部に連れて行った。
ただ、彼らから没収した武装を味方兵士に渡したが、持ちきれずこぼしていた。
やむを得ず、近くの兵士を呼び、手伝って貰い司令部へ連れて行く。
「済みません、降伏した帝国軍兵士を連れてきました」
「またか……って閣下」
中佐の階級章を付けた参謀が忠弥を少年兵と勘違いして苛立たしそうに言うが肩章を見て慌てて姿勢を正した。
「申し訳ありません!」
「いや、仕方ありません。何が起きたのですか?」
「はっ! 前方へ進出した部隊より報告で多数の帝国軍兵士が降伏していると」
「本当ですか」
「既に千人以上、中隊ごと降伏した事例も……あっ、お待ちください」
電話が鳴り、受話器を取り会話を始めるが、驚き顔をしかめた。
「今度は連隊ごと降伏しました」
連隊は陸軍の基本単位だ。
その上に旅団や師団があるが、採用も訓練も人事も連隊の内部で行われる。
古においては貴族の財産として扱われ、現在も国家から連隊旗を与えられる慣習があるなど連隊という単位は神聖視され重視されている。
それだけに結びつきも強い。
その連隊が降伏したというのは重大な事件である。
「帝国軍は最早、持たないでしょう」
溜息を吐くように中佐は言った。
それまで鉄の軍紀を以て、自分達に攻めかかり、陥落寸前まで追い詰めてきた帝国軍が急速に瓦解する事に彼は驚きを隠せなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます