第330話 連合軍の状況

「共和国も合衆国も余計な事をしてくれるね」


 ラスコー派遣航空軍司令部でラジオから流れる帝国の宣言を聞きつつ、共和国と合衆国の声明が載った新聞を読んでいた忠弥は呆れた。

 この戦争で航空機の重要性が高まり、皇国空軍は規模を拡大していた。

 そのため複数の戦域で戦う事となり、効率よく戦うために組織改革を始めた。

 航空軍はその一つであり、各戦域毎に設置され、送られてくる実戦航空部隊を統括する。

 航空軍の下の各戦線には航空軍団があり、そこに実戦部隊である航空団が配備され戦うのだ。

 こうすることで航空部隊を各戦域へ迅速に移動させ、集中攻撃を行う事ができる。

 たとえば今月はA戦域を担当する航空軍団で戦って敵を撃滅したから、来月はBという戦域の航空軍団へ航空団を移動させ航空優勢を確保するという案配だ。

 航空機は陸海の戦力より移動が容易なため兵力集中がし易い。

 各戦域を渡り歩く、いや飛んだ方が飛行機の特性を十分に生かすことができる。

 空軍の組織制度はそのために作り出したのだ。


「共和国生存のため帝国が滅びるまで戦う、ラスコーの宣言は事実上の絶滅戦争です」


 情勢分析を行っていた相原が言った。

 海軍大学で戦略論を学んでいただけに非常にこの手のことは得意だ。


「こんな事を言われたら帝国は最後の一兵になるまで戦い続けるよう命じるでしょう。まあその前に帝国の国民が根を上げると思いますが」

「ラスコーもヘロヘロだろうによく言うよ。命令拒否が起きているのに」


 実はラスコー軍では現在、ほぼ全軍の下士官兵が命令拒否を起きていた。

 帝国に多くの領土を奪われたラスコー軍は士気維持のため、戦争中盤から積極的に見える攻撃以外の軍事行動を禁ず、という日本軍でさえ下さなかった命令を下し突撃以外の作戦の実行しなかった。

 結果、帝国軍の塹壕に向かって突撃する事を続けた結果、死傷者が九割を出す損害を続けた。

 この作戦に勝てば、突撃を成功させれば、戦争に勝利するとラスコー軍上層部が空手形を乱発したこともあり、ラスコー軍兵士の間に不信感が増し、士気が大幅低下。

 ラスコー軍の三分の二で突撃命令の拒否が行われた。


「今のところは土壇場で保っていますが」


 大公国とは違い、ラスコー軍の崩壊や革命は起きなかった。

 祖国を守るという目的意識があり、ラスコー軍兵士達は防衛に関しては命令を聞いていた。命令拒否も帝国軍が攻撃してきたら撤回すると交渉に応じていた。

 さすがにラスコー軍の上層部も士気崩壊を重要視し、これまで突撃一本だった将軍を更迭したり、兵士の待遇改善を行ったりして士気の回復を図っている。

 メイフラワー合衆国が参戦したことにより援軍と物資援助が望めることも寛大な処置が可能であった。


「ラスコー軍は改善されるでしょう。作戦も士気も」

「それはありがたい」


 ラスコーのやり方。突撃のみの戦術に忠弥は辟易していた。

 コンクリの壁に生卵をぶつけるが如く、自国の兵士、国民を帝国の強固な防衛線に突撃させ無駄死にさせることに吐き気を感じていたのだ。

 改善されるなら嬉しい。


「しかし帝国は次の戦いが最後でしょうが」


 これまでの戦いと黒鳥による偵察活動の成果から兵員の損失、徴兵された対象年齢の人口、生産された兵器の数と損失、そして帝国の資源生産量と備蓄量を元に相原は正確に帝国の継戦能力を把握していた。

 帝国が次の戦いで最後、これ以上の戦闘はできないと確信していた。


「帝国は最後の戦いを挑みますか」

「確実でしょう」


 忠弥の問いに相原は断言した。

 帝国の先の声明で戦いを挑んでくることは確実だった。

 だから忠弥も嫌がっていた西部戦線に移動してきて帝国軍の戦いを待ち受けることにした。


「此方の兵力集中は進んでいるかい?」

「はい、初風を元にした戦闘機が二〇〇〇機にその他作戦機が同数配備されており、部隊編成は終えています」


 寧音が岩菱の力を最大限に活用し機材を大量に生産してくれた。

 機材だけではなく、支援用機材――燃料補給の為のタンクローリーやエンジンを始動させる始動車、機体を吊り上げるためのクレーンなども生産、投入してくれた。

 メイフラワー合衆国が参戦してからは膨大な国力を生かして更に多くの機材を生産してくれている。

 これらの機材が続々と前線に投入されつつあった。

 帝国軍は六〇〇〇機もの航空機を用意しているようだったが、連合軍も皇国、王国、共和国でほぼ同じだけの数を用意している。

 合衆国も参戦し、各種航空機一万機を運用する予定だ。

 数の上でも十分に勝てるだけの戦力がある。


「数が無くても返り討ちにしてやりますよ」


 赤松中尉が不敵に言った。

 陸での決戦がこの戦争の勝敗を決めると確信しており、腕が鳴り、闘志を燃やしていた。

 陸に上がるのは少し不満だが、決戦というのであれば不満は無かった。

 自分の腕に自信があり、帝国の航空機が束になって掛かってきても勝てる自信があった。


「ああ、元気で結構だ」


 部下の意気軒昂な口ぶりに忠弥は少し安堵した。


「何か心配事でも?」


 忠弥の様子がおかしいと思った昴が尋ねてきた。


「うん、少し気になるところがある」

「なに?」

「ベルケがこのままで済ませるとは思わない」

「どういうこと?」

「このまま正面から決戦を行っても負ける事は分かっている」


 ベルケは優秀な軍人だ。

 忠弥が知識チートで戦っているのに対して、ベルケは忠弥の知識や技術を学び独自に発展させている。

 このまま行けば負ける事が分かっているはず。絶対に何かしら対抗手段、抵抗する作戦を考えているハズだ。


「何か対抗手段を考えてくるはずだ」

「でも、活動出来ないように封じ込めているでしょう」


 飛行船と潜水艦による通商破壊を封じ込み、帝国を封鎖している。絶対に逃げられないはずだった。


「だが、何事にも穴はある。ベルケに、そこを突かれそうで怖い」


 完璧なモノなどない。何かしら見落としがある。

 そこを攻撃されないかと忠弥は心配していた。

 そして、その不安は現実の物となる。

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