第103話 統合空軍

 ヴォージュ要塞を救うために連合軍は多くの兵力を集めていた。

 共和国は自国の要塞であり独力で守れると豪語していたが、帝国軍の死に物狂いの大攻勢の前に損害が激増。

 要塞を構成する堡塁は徐々に帝国軍によって占領され劣勢に落ちつつあった。

 そのため水面下では連合軍に救援を要請。

 ここを抜かれると連合軍が窮地に陥ることもあり、救援に同意。

 王国も皇国も増援として軍を分派し支えていた。

 空軍も同様で皇国も王国も出来たばかりの航空部隊の大半を要塞支援に回していた。


 味方の窮地に駆けつけ一致団結して勝利を掴もう!


 と軍上層部が激を飛ばしたほどだった。

 だが、現実は上手くいかない。


「ここは俺たちの飛行場だ共和国野郎!」

「俺たちの国だ王国野郎が勝手なことを言うな」


 飛行場の一角で王国のパイロットと共和国のパイロットが言い合いをしていた。

 使用できる飛行場が少ないため、多くの空軍機が殺到。

 場所の取り合いになっていた。


「お前ら何をやっているんだ!」

「どうしたんだ!」


 そこへやってきたのはサイクス少佐とテスト少佐だった。


『こいつが酷いんです』


 言い合っていたパイロット二人が二重奏で説明しようとする。


『馬鹿野郎!』


 だが二人が理由を言う前にサイクスとテストは同時に叫んだ。


『「王国」「共和国」の連中に大きな顔をされるな!』


 互いに視線が合うとサイクスとテストは取っ組み合いの喧嘩を始めた。

 置いて行かれたパイロット二人は一瞬呆然としたが上官に続けとばかりに喧嘩を再開した。

 騒ぎを聞きつけた王国と共和国のパイロットも集まり、上官に加勢して乱闘状態に陥った。

 だが長くは続かなかった。


「喧嘩を止めろ!」


 小さいがよく通る声が響き、手が止まった。


「ちゅ、忠弥さん! いえ二宮大佐!」


 忠弥の姿を見たサイクスとテストは握りしめた拳を止めた。


「敬礼はどうした!」


 隣にいた相原が二人を叱責して、立ち上がらせ敬礼させた。

 忠弥が上官だが軍隊での訓練は敬礼や苦心などを一週間程度しか行っていない。

 航空機の知識と腕だけを見込まれて入隊したからだ。

 お陰で航空機の製造や運用は素晴らしく皇国軍の航空隊が活躍できたのも忠弥の尽力に寄るところが大きい。

 連合軍の中も同じで忠弥が居なければまともに機能しなかっただろう。

 しかし、軍人としての威厳は殆ど無い。

 そして忠弥は空を飛ぶ人間は仲間という意識がある。

 さすがに空中戦の時は敵機に対して容赦していないが、地上だとどうも甘いところがある。

 そこを補佐するのは相原の役目だった。


「で、何があったんだ」

「は、はい、共和国の連中が」

「いや王国の連中が」


 相原に尋ねられたサイクスとテストは互いに指し合い再び罵り合う。

 それを見た相原は顔をしかめた。

 両国は海を隔てた隣国同士で仲が悪く何百年も争ってきた。

 互いの不信感は大きい。


「二人とも止めろ。今は同じ部隊なんだ争っている場合か。それとも大佐率いる統合空軍の一員として飛べないのか」


 忠弥の提言により創設された統合空軍は、皇国、共和国、王国の三カ国の航空隊がそれぞれ航空部隊を出して編成した大空軍部隊だ。

 各国共に航空隊を創設したが、不十分な数しかそろえておらず戦力としては弱い。

 皇国空軍は忠弥の指導もあって質量とも充実しているが、やはり未だ未だ不足している。

 一方、帝国軍はベルケの元に一元指揮された航空隊が生まれようとしている。

 このままでは三本の矢のように個別に撃破されてしまう。

 そこで、三カ国の航空隊から有力な部隊を抽出して、大航空部隊、統合空軍を創設しようと忠弥は働きかけたのだ。

 戦力の集中は戦争の基本原則であり、アイディア自体は好意的に見られていた。

 しかし、生まれたばかりの航空隊を他国の指揮下に入れることに上層部は渋い顔をした。

 交渉は難航したが司令官として人類初の有人動力飛行を行い大洋横断に成功し、初のエースとなって世界に名の通っている忠弥が就任することで黙らせた。

 また、皇国がいち早く航空産業を整えたこともあり、皇国からの輸入機で空軍を編成している王国と共和国に代替条件として統合空軍への参加を取り付けさせた。

 拒否すれば航空機の分配率を変えるという脅しつきでは、頷くしかなかった。

 また、皇国軍が持とう空軍の運用術、航空機をどのように動かすのか、作戦飛行だけでなく、整備や休養、訓練はどうするのか支援態勢はどのようにすれば良いのかさえ理解していない国が多い。

 下手をすると学校の授業やテストの様に自分が何処が分からないか理解していない事態である。

 だから、最先端を行く忠弥の元で実地で勉強できる機会は世界中の金より価値のある事であり各国は部隊をだした。


「いいえ違います」

「……」


 相原の言葉にサイクスは否定し、テストは黙り込んだ。

 国同士の合意は渋々得られたが、同じ部隊に配属された各個人の感情面は違う。

 何しろ何百年も敵味方入れ替わって争った隣国だ。

 今日、仲良くしていても、明日は敵という可能性もある。

 そのため一寸したことでいざこざが絶えず、部隊内はギスギスしていた。


「まあいいですよ」

「しかし大佐」

「そんな事を言いに来たのではありませんし」

「……はい」


 相原は忠弥の言葉に従った。

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