第102話 空軍の機材
「ですが、機材の提供も足りません」
現在空軍の保有機は皇国の飛行機生産工場で生産されている。
しかし、戦場となっている旧大陸まで戦闘機は飛べない。
士魂号で横断に成功したが、横断用に特別な改造がされており燃料搭載量だけで、戦闘機の重量と同じくらいの重さがある。
ちなみにこの頃の戦闘機の航続距離は長くて五〇〇キロ前後。最高時速が一六〇キロを超える程度だ。
飛行場と前線が近いため何度も飛び直す事が出来るので短い距離で十分だった。
そして大量の燃料を積んでいるとその重量の分重くなり、機動性が削がれるので、燃料は少ない方が良いという考え方もあり、航続距離は短かった。
だから皇国で生産された航空機は飛行検査を受けた後、一度分解されて船積みされて旧大陸へやってくる。
そして陸揚げされるとラスコー共和国沿岸に作った飛行場とパリシイの飛行場で組み立て作業を行って再び試験を行い部隊へ配備される。
だが、時間が掛かる上に、数が少ない。
その上、飛行機を欲しがっているのは皇国空軍だけでない。
航空機の威力を目の当たりにした連合軍がこぞって買い求めてきており、各国が航空機を要求。結果、航空機供給でパンク状態に陥っている。
戦争前に航空産業の発展を予測し、実現するために予め五キロ四方の土地を共和国に買っていたことを利用し大規模な組み立て工場と飛行場を建設していた。
だが、それでも足りず、更に航空基地を建設する必要が出てきていた。
旧大陸でも工場を作り航空機の生産を始めていたが、まだ生産が始まったばかりで一番最初の機体も出来ていない。
「生産数は寧音さんのおかげで増えていますが我々への供給が少ないのです。生産された機体の多くは連合王国と共和国への機材供給が行われており、航空戦力をまとめ上げる事が出来ていません」
最大の問題は連合が三か国の合同体とい言うことだった。
戦場から離れた皇国は二か国への支援も行わなければならず、それは航空機も含まれている。
航空機を大量生産しているのが皇国以外にない、戦力として期待できるという理由もあり航空機は特に求められており、不足気味だ。
かといって皇国空軍が独占すると連合国との関係が悪化するし、各国でようやく設立された空軍の発展に支障をきたす――航空機の供給先を失うことになる。
だから、F14トムキャットをイランへ優先輸出した米国のように皇国空軍への納入を遅らせてでも王国と共和国へ航空機を送っていた。
そのため忠弥率いる秋津皇国空軍への航空機供給が不十分になっていた。
「なに、手は打っている」
心配する相原少佐を横目に忠弥は笑った。
「報告です。連合王国が航空隊の派遣を決定しました」
伝令が報告してきた。
「よし、効き始めてきていたな」
「何を行ったんですか?」
「なに、新聞で何時も賑わっているだろう。我々エースの戦いが」
ここ数日連日エースの記事で新聞は埋められている。
戦意高揚のために武勇伝が掲載されているが、地上の塹壕戦、要塞攻防戦より空中戦の方が花がある。
それを秋津皇国に独占されるのは連合王国にも共和国にも都合が悪かった。
「我々の活躍の記事を見て、皇国に遅れているのではないかと王国の焦燥感に火が付いて慌ててここに派遣してきたんだよ」
「思惑通りですか?」
「今のところは。兎に角、これで兵力は確保出来た。あとは、部隊編成を行うだけだ。新型機も着いたよね」
「ええ、新型の攻撃機です」
揚力を増すために複葉機にして機体の下に爆弾搭載架を付けた新型の攻撃機だ。
爆弾は航空機用に作られた新型で、機体下部に作られた専用の爆弾架――爆弾を装着する専用装置に取り付けられ、操縦席のスイッチ一つ押して投下出来るように改良されている。
これで機上から手投げ弾を落とす必要は無くなり、パイロットが扱える限界を超えた大型爆弾――強力な威力を持つ爆弾を運用できる。
「この攻撃機だけの攻撃飛行隊を編制する。戦闘機と同じ機数だけど、これで地上攻撃は上手く行くはず。偵察機とも兼用できるはずだから、暫くは偵察と爆撃はこの機体一本で行くよ。あと、専用の双発爆撃機も届いた」
「頼もしい限りです」
新たに戦列に加わったのは複葉双発の大型爆撃機だった。
二つのエンジンを搭載している分、それまでの単発機より倍から三倍の爆弾を搭載可能な爆撃専用の機体だ。
当然爆弾架も装備しており、大型の爆弾を使用することも可能である。
この大型機が戦列に加われば敵への打撃力も上がる。
「しかし、直ぐに来ましたね。前からお考えでしたか?」
相原少佐が不思議がる。
既存の機体の改良型とはいえ、改造には時間が掛かる。
「開戦前から予め設計し、開戦後に試作を命じたからでは」
航空機の設計は意外と時間が掛かる。
まだ黎明期で機材の構造がシンプルとは言え設計に一月以上はかかる。
生産となると更に面倒で何万点もある部品を発注生産し組み立てる作業が必要となるので、どうしても一機作るのに半年はかかる。
一度ラインが出来れば、後から後からところてんのように次々と生産されるので、毎日のように航空機ができあがってくるが、最初の一機が出来るまでの時間は半年、最短でも二ヶ月はかかる。
開戦から短い期間でこれだけの航空機を開発できたのはそれ以外に考えられなかった。
「そうだよ」
忠弥はあっさりと認めた。
「飛行機を平和利用したいと言っていたのにですか」
「それは本心だ。だが戦争に使えば有利だ。何時か誰かが戦争に利用する。そのための備えを準備しておかないとね。平和を欲するなら戦争に備えよ、だ。まあ、双発爆撃機は旅客機を作るために試作していた機体の応用だが」
二一世紀でも軍事利用が行われており、この戦争でも行われるだろう。
最初に偵察に使ったのは忠弥だが、国が滅びて航空機の開発が出来なくなるのは勘弁願いたいので協力する事にした。
ならば戦争に勝って早期終結を目指すほか無い。
そのためあらゆる手立てを講じるつもりだった。
「これからは忙しくなるよ。連合王国が参戦してくれるなら共和国も航空隊を出してくるはず。彼等の受け入れのためにも受け容れ用意しないと」
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