第251話 展示飛行計画

「それで忠弥。どんなことをするの?」


 スフラーフェンハー郊外の飛行場に移った昴は忠弥に尋ねた。

 忠弥はにやりと笑うと部屋に集めたメンバーに言った。


「開会式で、会場の上空に五輪のシンボル、五つの輪を描く」


忠弥の言葉に集まった全員が目を見開き驚いた。


「展示飛行?」

「そうだよ」

「宣伝ですか」

「そうだ。航空機の知名度はまだ足りない。ここでインパクトを出す」


 戦局を大きく左右する程の実力を持ちつつある飛行機だったが、一般への認知度はまだ小さい。

 忠弥の人類初飛行や大陸間横断飛行などで新聞を賑わせ、戦争中は航空隊の活躍が記事に載っている。

 しかし一般人にはまだなじみがない、身近に飛行機が無いのだ。

 飛行機が、空を飛ぶということがどれほど可能性があるのか理解できないのだ。

 そこで、忠弥は東京オリンピック開会式のブルーインパルスの展示飛行を思い出し、五輪の開会式で空に五輪を描くことを思いつき、提案。

 了承されて実行に移した。

 勿論背後には五輪実行委員会への圧力もとい陳情が行われた。

 スポンサーとして名を連ねる義彦率いる島津財閥と寧音の岩崎財閥が五輪実行委員会へ展示飛行を行わない場合は大会に協力しない、選手団を引き上げる、スポンサーを降りる、などと言ったのだ。

 強力なスポンサーである皇国の財閥と政党から強圧的に言われた実行委員会の会長は顔を真っ赤にして開会式への展示飛行を許可したのだ。

 そんな事を知らない最初、忠弥は展示飛行を許可してくれた会長にお礼の挨拶をしにいった。

 その時睨まれ付き合いづらい人だと思ったが、理由を後で聞かされて忠弥は非常にいたたまれない気持ちになった。

 この上は許可をくれた恩返しのために是非とも成功させたかった。


「危険な飛行です」

「だから君たちを集めた」


 昴、サイクス、テストの三人からの意見に一つ一つ忠弥は答える。


「息の合った編隊飛行、綺麗な輪を描くことの出来る技量。これらが出来るのは世界中を探しても君たちしかいない」


 戦争で腕の良いパイロットが多いが空を飛ぶことしか理解していない人間が多い。

 しかし、彼らは戦前の航空都市で飛行機の原理を一から頭に叩き込み、体で覚えている一流のパイロットであり、当時から腕が良かった。

 なにより万が一の時のアドリブや、突発事態への操縦法が出来る。

 展示飛行はマニュアル通りにしか飛べないパイロット達にはとても出来ない飛行だ。

 即席のチームで曲芸飛行を行うにはベストメンバーといえた。


「待って忠弥」


 一つ重大な欠点を見つけた昴が声を上げた。


「私達は四人よ。一人足りないわ」


 部屋に集まったのは四人、五つの輪を描くには一人足りない。


「相原を連れてくるか?」

「済まない、相原には地上での連絡調整を行って貰う」


 飛行機の準備と支援、地上要員への指示、飛行場の手配、関係各所との調整打ち合わせなどを行う人間が必要となっている。

 それも空を飛ぶことを理解している人間でないと調整が難しい。

 その点、相原は妥当な人選だった。


「空を飛ぶのは別の人間だ」

「誰よ。エースパイロットから選ぶの?」

「昔からの仲間を呼んであるよ。入ってくれ」


 忠弥が合図すると、部屋の扉が開き、一人の軍人が入ってきて他の三人は驚いた。

 帝国の軍服、左胸にパイロット記章を輝かせ、双肩に一つ星――准将を表す階級章を付けていた。


「ベルケ!」

「てめえっ!」


 テストとサイクスが席から立ち上がってベルケに詰め寄ろうとした。


「落ち着け」


 だが忠弥が間に入って止めた。


「しかし!」

「今回の飛行に必要なんで僕が呼んだ」

「ですが、こいつのせいで」


 二人ともそれぞれの国の航空隊の中核を担う幹部であり、大勢の部下とパイロットを預かっていする。

 そして、その多くがこの戦争で戦死している。

 王国と共和国の航空戦術が拙いということもあるが、最大の原因はベルケが有能だからだった。


「それは理解している。だが、ここは中立国だ戦場じゃない」

「……了解しました」


 テストとサイクスは席に戻ろうとした。だが、忠弥が止めた。


「ああ、二人とも、今回はベルケもチームの一員として参加するんだ」

「了解しております」

「仲間なんだから、握手くらいはしよう」

「なっ」


 忠弥の言葉に二人は絶句した。


「握手の仕方を知らないのか?」

「いえ、そういうわけでは」

「こうするんだよ」


 躊躇う二人の前で忠弥はベルケと握手を交わした。

 自然な行動にテストとサイクスは驚く。

 だが、一番驚いていたのはベルケだった。


「よく来てくれたベルケ、この飛行には君の腕が必要だ。皆と一緒に飛んで飛行を成功させよう」

「忠弥さんのご依頼ならば」


 ベルケは握手したまま背筋を伸ばして言った。


「さあ、皆も手を握り合おう」


 テストとサイクスは未だに驚きと怒りを静められないようだったが、忠弥の言葉に渋々二人の握手の上に手を重ねた。

 昴は何時もの事ねと半ば諦めるように近づき、手を重ねた。


「よし、これで皆、一つのチームだ。開会式の展示飛行が成功するように頑張ろう」

「名前は?」

「名前?」

「ええ、チーム名が必要でしょう」


 サイクスが提案すると忠弥は少し考えてから答えた。


「チェッカー」

「何で?」

「なんとなく」


 昴に尋ねられ裕也は誤魔化した。

 ブルーインパルスを思いついたが、空自の曲芸飛行チームの名前を付けるのはおこがましい。

 戦前の源田サーカスからとるのも天邪鬼な忠弥にはひねりがない、普通のサーカスと同じ見られそうと思ってしまった。

 だから間を取って、ブルーインパルスと命名される前の曲芸飛行チーム名、チェッカーを付けることにした。


「まあ忠弥が言うのなら仕方ないわね。チーム・チェッカー」


 ここに伝説に残るチーム、チェッカーがここに誕生した。

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