第423話 空中魚雷とスキップボミング

 琵琶湖の鳥人間コンテストを知っているだろうか。

 日本全国から、手作りの機体を持ち込み飛距離を争う。

 その内、滑空機の中に一つ珍しい機構を持った機体があった。

 機体の下に先端に浮きの付いた細長い棒が取り付けられていた。その棒は後ろの昇降舵に繋がっており、水面に触れると自動的に昇降舵が動き機体を上向きにするのだ。

 これで、パイロットが意識無くても自動で上昇、水面スレスレを飛ぶことが出来る。

 調整が難しいのと一瞬でも水面に触れるため抵抗になるので、真似する機体は少なくとも忠弥の知る限り無かった。

 だが、面白い機構を持った機体であったため忠弥は記憶しており、これを使った飛行爆弾を考えて開発させた。

 水面スレスレを飛び、敵艦に自ら突っ込む飛行爆弾として。

 無人機のため、突入しても問題ない。

 欠点があるとすれば波が高いと、突き出た制御棒が役に立たず、海に突っ込んでしまうことだが、それ以外は問題ない。

 しかも、自動で高度を維持してくれるので誘導が左右のみ、無線操作が簡単になるため実用化する事が出来た。

 試作の九機しか用意出来なかったが、実戦投入させたのだ。

 それが戦艦ワシントンに向かって突っ込んでいく。


「迎撃しろ! 機関銃撃ちまくれ!」


 忠弥の飛行爆弾が接近するのを見たリチャードソンは嫌な予感がして発砲を命じた。

 舷側に配備された多数の対空砲が発砲する。

 だが、小さい機体のため、狙いが定まらず命中弾が出ない。

 ようやく、一気撃墜するが、三機の飛行爆弾がワシントンに飛び込んだ。

 一機は、後部の舷側に命中。派手な爆発を起こしたが装甲に阻まれて、それ以上の被害は出さなかった。

 二機目は第二砲塔前部に命中。

 強固な装甲によって爆発の影響は殆どなかった。だが、残存燃料が周囲に周囲に飛び散り、甲板に火災を発生させる。

 そして一番を大きな損害を与えたのは三発目だった。

 船体中央部後部煙突付近に命中した爆弾は、盛大に爆発。

 周囲に配置された対空砲に被害を与えた。

 さらに残存燃料が飛び散り大火災を発生。

 対空砲要員は火災の前に操作出来ず退避していった。

 ワシントンの対空能力は激減した。

 そこへ、新たな震煉九機がやって来た。


「ふんっ、対空砲を撃破しても、装甲は破られていないぞ!」


 リチャードソンは強気に言う。

 しかし敵機は、緩やかに降下しながらワシントンに接近する。

 そして、近づくと爆弾を二発投下した。


「何処を狙っているんだ。遠すぎるぞ」


 敵機が投下したのは、ワシントンより数百メートル離れた地点だったが。

 当然命中せず爆弾を無駄にしただけだとリチャードソンは思った。

 しかし、爆弾は予想外の動きをした。

 海面に触れると上空に向かって飛び上がった。


「なっ」


 これにはリチャードソンも驚いた。


「なんで跳び上がるんだ!」


 水切り遊びをした事があるだろうか?

 静かな水面に平らな石を水平に近い角度で勢いよく投げると、水面に触れた石が撥ねられ、カエルのように飛んでいくのを。

 水面に触れた時スピードが速いと水面の反発を受けて、跳ね返されてしまい、再び上昇する。

 爆弾も同じだ。

 飛行機のスピードが速い分、余計跳ねやすい。

 しかも飛ぶ距離が長い。

 第二次大戦中、アメリカ軍が日本軍の輸送船に対して使った戦術だ。

 忠弥はこれを覚えており、戦術に取り入れた。

 上から爆弾を落とすだけだと命中率は低いが、低空から接近して放つため命中率が高い。

 しかも、数百メートルは直線に飛ぶので命中率はさらに高くなる。

 回避も出来ない戦艦に充てることなど造作もなかった。

 震煉から放たれた爆弾は見事に、ワシントンの舷側に当たり、爆発を起こした。

 一トン爆弾の直撃、しかも砲弾より炸薬が充填されていたため衝撃は大きく、激しく揺れる。


「がはっ」


「長官!」


 爆風と衝撃でリチャードソンは床に倒れ込み参謀に助けられる。


「私は大丈夫だ。それより、艦は無事か……」


 声が小さくなったのは、リチャードソンが艦の傾斜に被弾した右舷側に傾いていることに気がついたからだ。


「まさか、浸水したのか」

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