第328話 連合国の帝国解体要求

「それは……」


 参謀総長の問いに軍務大臣は言いよどんだ。

 連合が無条件で帝国を残すとは思えない。


「国境付近の一部割譲と軍備の制限を条件に講和すれば」

「それで済む訳ないだろう!」


 参謀総長は鞄から新聞を取り出しばらまいた。

 いずれも中立国の新聞記事だった。


 共和国、帝国の無条件降伏を要求

 帝国全土を管理下へ

 この戦争の全ての戦費を賠償金として要求すると共和国大統領発言


 いずれも帝国に過酷な条件を加えるという内容の記事だった。


「この条件で連中は講和を求めるだろう。これでは降伏だ」

「今なら少しは条件を緩和させることができるだろう。次の戦いの後では難しい」

「最小限の損失で相手に最大限の損害を出せれば良いのであろう。これまでの我々ではない。突撃隊による浸透戦術を手に入れた我々ならば、敵軍を簡単に無力化出来る。現に東部戦線では僅か一万の損害で敵に三〇万の損害を与えた」


 事実だった。

 総兵力四〇万の帝国軍は七〇万近い大公国軍に対して浸透戦術を使って攻撃。

 各所で大公国軍を分断し大軍を降伏させた。

 結果、帝国軍は死傷者一万人程度で、三〇万近い損害を大公国軍に与え、東部戦線を瓦解させ勝利に導くことができた。

 西部戦線でも同じ事ができると総参謀長は考えており、根拠が無いわけでもなかった。


「だが、連合軍の連中も馬鹿ではない。対策を考えているのではないか?」


 軍務大臣は疑問を呈した。

 一度使った、それも大戦果を上げた敵の戦術を研究しないわけがない。

 特に大公国が戦争から脱落することになった戦いで帝国が使った戦術について連合軍が対策を考えないわけがない。


「では、他に戦いようがあるというのか!」

「ないだろう」


 軍務大臣は参謀総長に言った。


「戦いようがないのなら、勝利を得られないのなら、戦いの前に交渉をして停戦すべきだ。今なら浸透戦術への恐怖も連合軍に残っている」

「敵に時を与えずに攻撃してこそ戦果は最大化する。このままでは敵に対策を施されてしまう」

「味方の戦力をすりつぶす前に平和を取り戻すべきだ」


 互いの意見は堂々巡りとなった。

 その時伝令が報告を持って部屋に入ってきた。


「共和国大統領が今新たな声明を発表しました」

「なんと言っている」

「はっ!」


 参謀総長に促され伝令は答えた。


「大公国が脱落しようと、戦争を続ける帝国を共和国は決して許しはしない。帝国を下し滅亡させるまで戦い続ける」

「どうやら連合軍は帝国を滅ぼすまで戦い続けるようだな」

「共和国の独走だろう。連合の中でそのような発言は少ないはずだ」

「更に声明です」


 新たな伝令が入ってきた。


「合衆国が、声明を発しました。帝国に抑圧されたその支配下にある国々を独立した国として扱う。それらの国々のために合衆国は援助を惜しまない。我々は自由のために彼らを支援し大軍を送り帝国を倒す。以上です!」

「合衆国は、いや連合は我らが帝国を解体、滅ぼし、分割する気だな」


 小国の連合体である帝国は、隣国からの要求や圧力に対抗するため連合し、建国した。

 帝国を無くすことは彼らが再び切り分けることを考えていると捉えていた。


「合衆国の大軍が来る前に先んじて攻撃を行う」

「王国と皇国との交渉次第ではまだ見込みはある」

「そのような躊躇などしていられない。勝利の機会は遅れるほど失われる」

「勝ったとしても国が滅びるだけだぞ」

「このまま講和しても滅びるだけではないか」


 参謀総長と軍務大臣の論争は激しくなっていった。

 論争は長時間に及び両者の間では意見が出尽くした。


「最早、時間もない。ここは陛下に決を採って貰おう」


 長時間に渡る激論の後、時間切れとばかりに参謀総長は聖断を仰いだ。

 異議を唱えようとした軍務大臣だったが、反論する手札は全て切ってしまい、止める事はできなかった。


「帝国の命運を敵に委ねる気は無い。帝国の未来は戦って切り開くべきだ。最後の一戦を戦い抜く」


 かくして帝国は最後の決戦を挑むことになった。


「参謀総長のヤツ、上手く立ち回りおって」


 会議の後、軍務大臣は毒づいた。

 参謀総長への反論が行われたときに伝令が入るように仕組んでいた。

 結果的に参謀総長の意見を補強する材料として上手く使われ、会議を押し切られた。


「帝国を残せるだろうか」


 既に生産力の限界まで戦っている事を知っている軍務大臣は、次の決戦を勝敗にかかわらず帝国のトドメとなるであろう決戦に悲観的にならざるを得なかった。

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