第416話 天城発砲
黎明期の空母の特徴として艦砲を搭載している事が挙げられる。
これは搭載機の性能が低く、行動半径がせいぜい一八〇キロ、百海里しかなく三〇ノット以上の速力を出せる軍艦の場合、三時間で追いつける距離のため、敵艦と遭遇、戦闘の可能性が非常に高いとされるからだ。
実際、この戦いにおいて双方が相手の艦隊に向かって接近していったため、急速に距離が縮まり、遭遇戦となった。
「敵艦隊捕捉!」
天城の艦橋に見張り員の報告が響いた。
「砲撃戦用意!」
名雲の命令が下る。
艦橋上部の射撃指揮所に続き、前部の砲塔二基が敵艦隊へ指向する。
「いよいよ、本艦の能力を発揮出来ますね」
艦長は嬉しそうだ。
元々砲術で砲撃を好んでいた。
機会を得られて喜んでいる。
ただ、名雲としては少し不本意だ。
確かに、砲撃戦での能力は圧倒的だし、敵との遭遇の可能性が高い。
忠弥が、航空巡洋戦艦という珍艦種を作り上げたのは、浪漫の他に敵と遭遇する可能性が高いため、遭遇した時、敵の巡洋艦、駆逐艦に対して圧倒的な火力とアウトレンジで撃破するためだ。
だが、それは最後の手段。
本当は、敵と遭遇する前に航空機で撃破したい。
しかし、対艦攻撃能力が未整備のため、追撃して撃破する必要があった。
接触して攻撃するのは願ってもないことだ。
「敵航空巡洋艦を発見! 反転し逃走中!」
天城を見て反転したようだが無理もない。
航空巡洋艦は一五サンチ砲しか積んでおらず三一サンチ砲搭載の天城相手では一方的に攻撃されてしまう。
逃走しているが、味方の空母が被弾により速力低下しているため、足が遅く、航空巡洋艦もすぐには逃げられずすぐに追いつく。
「距離三万! 有効射程に入りました!」
「上空観測機より入電! 準備良し」
僚艦に積まれている復座の観測機から報告が入る。
僚艦がいるのは有り難い。
「砲撃開始!」
通常砲戦距離より長いが観測機が飛び、敵艦の位置を割り出せるため、艦長は砲撃を命じた。
「撃て!」
艦首の主砲が五発放たれ、射撃データが間違っていないか確認のため試射が行われる。
砲弾は、三万メートルを易々超え、敵艦の近くに降り注ぐ。
「遠、遠、遠……全て遠弾です」
敵艦より遠くに着弾してしまった。
「観測機より着弾位置報告! 敵艦の右前方二〇〇〇に着弾!」
「入力および修正急げ!」
だが、すぐに観測機の報告で修正する。
「入力完了! 修正良し!」
「撃て!」
残りの五発が放たれる。
今度は全て近弾だ。
「観測機より報告! 敵艦の左後方一〇〇〇に着弾!」
「よし! 良いぞ」
砲術長は喜んだ。
先ほどの射撃と合わせて敵艦を挟んだ。おおよその距離は掴めた。
「修正するぞ!」
次は敵艦の周囲に、出来れば命中弾を出そうと気合いが入る。
「砲撃準備完了!」
「撃て!」
第三射が放たれた。
砲弾五発が、放物線を描き、再び航空巡洋艦に降り注ぐ。
「遠、遠、近! 遠! 近! 夾差! 夾差です!」
敵艦の周辺に砲弾が降り注いだ。
完全に砲は敵艦を捉えた。
あとは雨あられと降らせば、命中弾が得られる。
「一斉射撃用意!」
先ほど発砲した主砲に砲弾が再装填され、上空へ向かって砲口を掲げる。
「一斉射撃準備完了!」
「撃てっ!」
十門の主砲が一斉に放たれ十発の砲弾が飛び出し、敵艦に降り注ぐ。
八本の水柱を上げ、二本の黒煙が上がった。
「命中! 二発命中!」
「よし!」
命中弾に名雲も思わず声を上げる。
だがすぐに冷静になり尋ねる。
「何処に命中した?」
「後部と中央です」
無言で、だが先ほどよりも深い笑みを名雲は浮かべた。
船体中央部は飛行甲板。
敵艦の発着艦能力は失われた。
「もう良いだろう。他の艦の撃破を行う」
戦闘不能、航空機運用能力が無くなれば良い。
「敵空母はどこだ?」
「発見しました! 敵空母、本艦の左前方に発見!」
コンステレーションを庇いながら離脱するコンスティテューションを見つけた。
「健在な方から撃破する。最大戦速! 射程内に入り次第、砲撃せよ」
「了解!」
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