第355話 ガンシップ
「第一師団への支援と包囲されたカルヴァドス上空の制空権確保を徹底するんだ」
一回目の輸送を成功させた忠弥は輸送機を着陸させると司令部に駆け込み命じた。
「輸送に燃料を使いますよ」
相原が反論した。
飛行機の燃費は悪い。
運ぶ貨物の重量と同じ重量の燃料を消費すると考えた方が良い。
一日百トンの物資を空輸する必要があるなら百トンの燃料が必要だ。
それ以上に運び込むための機材の確保、整備、パイロットのローテーションの手配の方が難しい。
「だがやるんだ。カルヴァドスはこの戦いの焦点だ」
その時、連合軍最高司令部からの連絡が入った。
「カルヴァドスの死守を支援せよ。カルヴァドスは交通の要衝であり、ここの確保は戦争の勝敗に直結する。現在、第一師団を解囲するために反撃部隊を移動中だ。作戦を成功させるためにも第一師団を支援せよ! 航空機で物資を運び込み第一師団を支えよ」
強い口調で命じられた。
これでは空軍も支援しなければならない。
「と言うわけだ」
「了解しました」
相原は諦めて従った。命令とあらば、軍人として従うしかない。
「戦闘機隊を出して支援するんだ。攻撃機も出すんだ」
「ですが、他でも攻撃機が必要ですし、常に爆弾を積んでいる機体を待機させるのは難しいです」
攻撃機は厄介だ。
確かに敵陣に爆弾を落としてくれるのはよいが、爆弾は落としたら終わりだ。基地に戻って再搭載しないと再び落とせない。
往復する時間がもったいない。
攻撃機は小型爆弾を多数搭載しているが、一発ずつだと威力が低く敵にダメージを与えられないため一斉投下が基本だ。
事実上、一回出撃すると攻撃のチャンスは一回だけだ。
だが忠弥は、そのことも理解しており準備していた。
「なに、用意していた新型機を投入する」
「まさか……」
忠弥の笑顔を見て、新型機の性能を思い出した相原は、背筋が凍った。
「目標は、着弾痕の先よ。歩兵を潰して」
昴の指示で爆弾が落とされ、敵兵が吹き飛ぶ。
だが、すぐに新たな増援が送られてきて、じりじりと接近してくる。
「きりがないわね」
昴はうんざりしていた。
敵兵は接近してくるが、爆撃で追い払っても攻めてくる。
一回爆撃すると、再装填のために攻撃機は離脱するし、砲弾の爆発痕に敵兵が逃げ込んで爆風を避ける為、意外と爆弾が効かない。
「このままだと白兵戦ね」
度重なる砲撃によって陣地には負傷者が多数出ているし、塹壕が崩れているところも多い。
塹壕に飛び込まれ白兵戦になったら数が不利な皇国側が不利だ。
『昴聞こえる?』
その時無線機から忠弥の通信が入った。
「ええ、聞こえているわ」
『敵兵、歩兵がいるのはどのあたり?』
「私達の陣地の東側よ」
『分かった。すぐに攻撃するから誘導を頼む』
暫くして待っていると大型の爆撃機がやってきた。
小型の爆弾の降り注ぐ気なのだろうか、左旋回を始めた。
だが、敵の上空ではなく、敵を中心に回り込むような動きだった。
「何をしているの」
疑問に思っていると爆撃機の左側面、敵に向けている側から、火の手が上がった。
攻撃されたのかと思ったが、違った。
「爆撃機から、銃撃しているの!」
爆撃機には戦闘機に襲われたときの防御として機銃を取り付けている。
だが、爆弾を搭載するために積み込むのは最小限の数だ。
しかし、今撃っている爆撃機が放っている火力は、防御の範疇を超える圧倒的なモノだった。
事実、乗せているのは五〇口径機関砲二門にガトリングガン二門だった。
輸送機の左側面に乗せた機関銃から雨あられと帝国兵へ銃弾を降らせていた。
ガンシップ、地球にもある地上攻撃用の大型機だ。
ベトナム戦争の時、密林に潜むベトコンを攻撃するのに爆弾では吹き飛ばせる範囲が小さい。それに遮蔽物があり、爆風が防がれてしまう。
そこで、考えたのが輸送機に機関砲を複数積み込み、旋回しつつ一点に集中攻撃するという方法だ。
現場の思いつきに近いもので既存機の改造だった。だが、非常に有効だったため、専用機が生み出された。
それがAC-130ガンシップのシリーズで105ミリ砲さえ搭載する、まさに空飛ぶ砲台だ。
さすがに大砲は積み込めなかったが機関銃のみでも効果的だった。
塹壕から出てきてジリジリと接近する帝国軍相手に、銃弾の嵐は有効だった。
あっという間に第一師団の制圧突撃の為に待機していた帝国軍歩兵部隊を消滅させることが出来た。
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