脱出地点
「やってくれましたね」
離陸したベルケは、忠弥を狙って向かってきた。
整備工場を破壊され目的を達成されてしまった。
だが、忠弥を撃墜し捕虜にすれば、連合軍の航空戦力の発展は大きく阻害される。
現状忠弥が航空機開発の第一人者であり、連合軍航空戦力の優位は忠弥一人によってなしえているようなものである。
ここで捕らえる事が出来れば、連合軍の大打撃だ。
しかもフロートの付いた水上機であり、動きは鈍い。
簡単に撃墜できると判断していた。
「貰いましたよ」
しかしベルケの判断は間違っていた。
忠弥は、冷静に高度を下げると、適当な防壁を見つけてそこにフロートをぶつけた。
「なっ」
フロートは木っ端みじんに破壊され、機体から離れていった。
忠弥の機体は身軽になり、速力を増してベルケの機体に襲い掛かる。
「くっ」
ベルケは機体を翻し忠弥の射線から逃れた。しかし安堵するのも束の間、後席の昴が機銃をベルケに向けて放つ。
「あぶなっ」
咄嗟に機体を横転させ横滑りさせる事で躱した。
とんでもない行動にベルケは冷や汗をかく。
窮鼠猫を噛む、と言うが忠弥は追い詰めても空の上ならどんな反撃をしてくるか分かった物では無かった。
「ですが逃げる方向は分かっていますよ」
忠弥は西の海域にいる水上機母艦へ帰るはずだ。
ベルケは忠弥の機体の西側に遷移して、逃げ道を塞ぐ。
いくらフロートを落としたと言っても単座と複座では、単座のベルケの方が足が速く、優位な地点を占めやすい。
あとは待ち伏せて飛び込んでくる忠弥を攻撃すればよい。
「って何処に向かうんだ」
だが、忠弥はベルケの方へ向かわず北上していく。
ベルケは忠弥の西側、左後方から追いかけていき、旋回したところを狙うつもりだった。
しかし通夜は西に進路を変える様子がない。
そのためベルケは焦り始めた。
このままだと燃料が足りなくなる。
満タンだが、基地に帰る分の燃料は残しておく必要があり、引き返さなければならない。
忠弥も水上機母艦に戻るための燃料は限られているはずだが、向かう様子がない。
ベルケは忠弥を攻撃しようと後方へ向かうが、忠弥は海面すれすれへ降下して、射撃できないようにする。
「無理か」
燃料計を見て、帰りの燃料がギリギリなのを確認したベルケは機体を旋回させ引き返していった。
「ベルケが引き返していたわ」
「やっぱり海に不時着は考えていないか」
忠弥はほっとした。
地獄の果てまで追いかける、燃料が尽きようが不時着してもよい、という考えて追いかけてこられたらどうしようかと思ったが、ベルケはまともだった。
貴重な機体を失ってまで追いかける必要は無いと考え、引き返した。
「そろそろ、目的地点だと思うけど」
「信号弾を発射するわ」
昴は信号弾を取り出すと機体の上空に打ち上げた。
赤い光を放ちゆっくりと海へ落ちていく。
その間、二人は海面を目を皿のようにして見ていた。
「忠弥! あそこ!」
昴が指さす方向へ視線を向けると海から筒状の物が突き出し白波を立てながら浮上してくる。
やがて、船体を海面に浮き上がらせ、その姿を現した。
「予定通りだ。さすが王国海軍の潜水艦だ」
忠弥は開発されて間もない大型潜水艦を予め近隣の海域に待機させて貰っていた。
第二次大戦の時米軍は大規模な航空作戦を行うときは潜水艦を何隻か、特定地点に派遣し乗員を救助出来る態勢を作り上げていた。
忠弥もそれに習って潜水艦を配置して貰っておいた。
ベルケ達の飛行機の活動圏外にポイントを設定していたことも功を奏し、邪魔されずに収容して貰うことが出来る。
「着水するよ」
この日二度目の同隊着水を忠弥は成功させ、潜水艦の近くに降りる。
忠弥は昴を先に降ろすと、自爆装置を作動させる。
機体が敵に渡った場合解析される恐れがあるためだ。
装置が作動するのを確認すると忠弥も機体から離れ海に飛び込み潜水艦に向かう。
潜水艦からも命綱を付けた乗員が飛び込み、忠弥達を回収するために泳いで近づいてきてくれた。
彼らの力を借りて忠弥は潜水艦の甲板に上がった。
「大丈夫ですか?」
潜水艦の艦長が忠弥に話しかけた。
「大丈夫です。お出迎え、ありがとうございます」
「気にしないでください。祖国を救ってくれた英雄の方々をお出迎えしないのは、王国民のプライドが許しません」
艦長はすがすがしい表情で言う。
飛行船の本土爆撃は王国には衝撃であった。
その飛行船を攻撃し爆撃を断念させてくれた忠弥は恩人であり、下にもおかない扱いをするのも当然だった。
だが最後の試練が待っていた。
「艦長! 飛行船接近!」
帝国軍の飛行船が忠弥達の乗った潜水艦に迫ってきていた。
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