第44話 対決の終幕
「パイロットの元へ!」
忠弥は乗り込んだ小舟の船頭に指示してパイロットの近くへ向かわせる。
予想通り、着水の衝撃で気絶して倒れていた。
翼に空気が入っているのですぐに沈みそうにはなかったが、いつ沈んでもおかしくなかった。
「このままだと沈む」
忠弥は服を脱ぎ、ロープを身体に結びつけナイフを口に咥えると、海に飛び込んでフライングライナーに向かった。
「危ないですよ!」
止めようとする声が聞こえたが忠弥は無視した。
飛行機の構造を知らなければ、安全に救出する事は出来ないだろう。
違う機体だが、どのような構造かは飛行機に詳しい忠弥には推測がつく。
機体を避けながらパイロットに接近する。
気絶している。
横滑りして着水したため横から衝撃が加わり失神したようだ。
真っ直ぐ、着水できれば意識が保てたかもしれない。いや、落ちた衝撃は強いから変わらないか、などと考える。
兎に角、パイロットを救出する。
ベルトにナイフを入れて切り裂き、パイロットの身体を機体から離し、近くのボートへ引き寄せていく。
ボートの人が忠弥が身につけたロープで引っ張ってくれたおかげで近づくことが出来る。
すぐにボートに引き上げられ、パイロットに救命処置を行う。
「がはっ」
「良かった助かった」
パイロットは無事に息を吹き返した。
忠弥が生還を叫ぶと見守っていた観衆は大きな歓声を上げた。
「なんてことだ」
ダーク氏はフライングライナーからパイロットが忠弥に救出されている光景を唖然として見ていた。
誰の目に見ても明らかにフライングライナーの飛行は失敗だった。
忠弥の玉虫という飛行機は、上昇、旋回、下降、着陸を全て完璧にこなした。
観客上空を無事に飛び越えたことは機体が安全だということを証明している。
対してフライングライナーは、旋回しようとしてバランスを崩して墜落してしまった。
「どうすれば良い……」
世界最初に空を飛んだのはフライングライナーである事は、ダーク氏は確信している。
しかし、真っ直ぐにしか飛べないことに疑問を持つ人間が出てきたのは確かだ。
特にダーク氏に反発する人間から激しく指摘されている。だが、飛んだのは自分が最初であり、今は真っ直ぐしか飛べなくてもいずれ成功させれば良いと考えていた。
だが、忠弥は旋回も降下も着陸も成功させた。
空を自由に飛ぶという事に関しては完全に忠弥の実績だった。
しかし、このことを見てダーク氏の飛行に疑問を持つ声は大きくなるだろう。
成功させる前に何度も失敗していることもあり、成功させた飛行さえ疑問視されてしまう。
ダーク氏に反発する人間はこぞって忠弥の飛行と主張を支持するだろう。
出国前でも議会ではダーク氏に対する疑問が出ており、このままでは敵対する議員達がよってたかって叩きにくる。
そして、自分の功績、記録、偉業を否定し、フライングライナーそのものが歴史から消え去ってしまう。
「どうすればいいんだ」
数十年の研究の成果が
なくなる恐怖に駆られたダーク氏は頭をフル回転させた。
飛行士を救出した忠弥がやってきた。
どのような対応するかダーク氏は必死に考えた。
「助かって良かった」
パイロットを無事に病院に送り出した忠弥はダーク氏の元に戻った。
「忠弥君、私のパイロットを助けてくれてありがとう」
「いいえ、危機にある人を助けるのは当然のことです」
空を飛ぶ者は常に墜落の危機にさらされている。
墜ちるのを見て助け出そうとするのは、自分がいつ同じ目に遭うか分からない、自分が墜ちたときは助けて欲しい、と思ったから忠弥は助けた。
それに空を飛ぶ者という仲間意識もあった。
「君が正しいことを認めよう。君は素晴らしい」
ダーク氏は笑顔を作って忠弥に言った。
与党の幹部達が止めようとするが、大勢の観衆に囲まれていては、そのような事は出来なかった。
「ありがとうございます」
だから忠弥は誰にも邪魔されることなくダーク氏と話が出来た。
「しかしダーク氏、貴方も素晴らしい。空中を飛ぶ為の情熱と人を飛ばした功績は認められるべきです。特に星形のエンジンが素晴らしい。是非使わせて貰いたい。私たちも作る事を許して欲しい」
「ああ、良いとも。その代わり、君の舵、動翼だったかな、私の飛行機に使わせて欲しい。それと私が作った飛行機が人を空に連れていったこと。君の言う飛行ではないが人を連れて飛んだことを認めて欲しい」
「勿論、喜んで。これで我々は飛び立てます」
「ああ、大空へな」
「いいえ、違います」
一呼吸置いてから忠弥は言った。
「全ての人々が空を飛べる時代へ飛び立てるのです」
晴れ晴れとした表情で忠弥は言った。
そしてダーク氏へ手を差し出し固く握手を結んだ。
その光景を見て観客達は忠弥が改めて人類初の有人動力飛行を行った事が証明されたと考えた。
こうして、ダーク氏との対談は終わった。
ダーク氏は既に予定を組んでいたツアーを続け旧大陸へ進んだ。
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