第73話 教科書と本

 俺はとてつもなく今忙しい。学校を建てながら教科書を作っているから。


 印刷はガリ版印刷が出来たので問題ないが、問題なのは教科書の中身。


 錬金術や薬師はまだそうでもない。本が存在するから参考に出来る。だがそれ以外のガラス、陶器、鍛冶、木工は本が無い。


 一から作らないといけないのだ。本来職人を育てるのに教科書は無くても出来るが、それでは今までと変わらない。


 学校の目的は如何いかに効率よくスキルを生やすか。それに通常何年もかけて得られる知識を1年で教える事。その為の教科書が必要。


 この世界には学問という考え方がない、だから研究するということを殆どしない。


 研究する人が全くいない訳では無いけどあくまで個人の欲求のはけ口の様な物。


 だから欲求が満たされたらそれで終わり。その先に進まない。


 学問なら誰かの研究をさらに進めたり、新しい物が出来たりする。


 例えば、結核の薬が個人の欲求だとすると薬が出来たから満足する。


 しかし薬学があれば、雑草や毒が薬になるなら他にもあるのではないか?今有る薬にも使えるのではないか?そんな風に研究され、効果が良くなったり、新しい薬が出来る。


 ガラス、陶器、鍛冶は言ってみれば鉱物の学問と言える。鉱物の特性を学べばそれだけ応用が出来るようになる。


 これは木工も同じ。木の特性を知ることで作るものに適した木が選択できる。


「やべ、これってマジで百科事典を作る勢いで色々調べないといけないと言う事か」


 取りあえず現状使われているものは全部調べないといけない。それ以外に身近に有る物は全部調べる必要がある。


「これ一人じゃ無理だわ」


 こんな独り言が出てしまうほど、今テンパってる……


 こんな独り言が出た翌日、緊急会議を招集!教科書作成チームを作った。


 メンバーは俺、フランク、ロイス、錬金術師三人衆の6名。


 先ずは職人が使ってる物を俺以外で調査する。ラロックの職人は協力的だから全て教えてくれた。


 俺は魔境の山に行き、手当たり次第鑑定を掛けてこの世界にある鉱物を調べる。


 行き帰りには木や植物も手あたり次第調べる。以前ある程度は調査したが、今回は取りこぼしが無いように念入りにやる。


 帰りに滝にもより、そこでも鉱物の鑑定をしたらまた宝石の原石を見つけてしまった。金儲けに興味が無いのですっかり忘れていたが原石もそれなりの数を見つけている。


 教科書には鉱物の名前と特徴のみ記載することにする。俺の鑑定ではどういったものに使えるかまで解るがそれは教科書には載せない。それらは別途俺が記録する。


 植物や木は名前と特徴、簡単な絵も載せる。薬草についてはエリックとの研究でかなり網羅してるので問題ない。


 出来た所からガリ版で印刷していく。それをやって貰ってる間に俺は各職業別に基本の作り方を書いていく。


 高度なものは教科書には載せない。スキルを生やすのが学校の目的だから。一応少し習熟度が必要な物も載せるけどね。


 高度な物を載せた本も時間が出来たら作ろうとは思っている。作り方が解っても作れないのがこの世界のルール。習熟度が存在する=努力や経験が必要と言う事。


 ここが化学と違う所、科学なら作り方が解ればその通りにすれば作れる。

 でもスキルの有るこの世界では出来ない。


 この世界のルールを解明することが世界の発展のカギでもある。


 最終的に教科書が出来上がったのは開校寸前。学校建設や通常の仕事の合間の作成だし、何度も改訂して漸く出来上がった。


 教科書作りも大変だったが、もっと大変なことがあった。


 それはガリ版印刷、これを見せた時のそれぞれの反応が凄かった。


「ユウマこれは革命だよ!」 フランク


「ユウマさん紙でも驚いたのにこれはとんでもないですよ」 ミランダ


「……」口を開いたままのロイス


「きゃー! 本が安くなる」ローズ


「あの本凄く高かったのに……」エマ


 その後、紙と鉛筆、ガリ版印刷はセットで特許登録されることになった。


 紙の生産は始まっていたから登録と同時に販売できる。だがこれには問題がある。


 羊皮紙ギルドだ。今までは職人が淘汰される可能性が無い物ばかりだったが紙は違う。ほぼ確実にギルドが消滅する。


 魔法契約がある世界なら、羊皮紙は残ったかもしれないがこの世界は違う。確実に恨みを買うよね。


 だからと言って紙の生産を羊皮紙ギルドに任せるのも違う。文明が進めば必ず淘汰されるものは出てくる。それを全部救う事なんて出来ないしやるべきではない。


 言い方は悪いが羊皮紙ギルドには見せしめに成って貰う。今の生活に満足して努力も研鑽もしなければ何時か淘汰されることになるとね。


 しかしこちらも鬼じゃない。紙の特許登録後、直ぐに販売できるがそれはしないで三か月後とする。それを登録の時に羊皮紙ギルドに通達する。


 これでも恨みは買うだろうから暫くは用心が必要だろうな……


 ガリ版印刷の登録が決まった時に、グラン一家の女性陣から面白い提案があった。


 文字の勉強にもなる、かるたは販売されているから子供用の本を作ったらということだった。流石は母親だね。


 それならと俺が絵本を提案した。かるたには簡単な絵が描いてあるから簡単な絵なら描ける人は居るんだろう、それなら絵本も作れるだろう。


 この世界にも昔話の様な物はあったから、それを手始めに本にすることが決まった。


 学校が開校したら忙しさも無くなるだろうから、通勤時間は掛かるけど森の拠点から毎日通う事にしょう。


 片道2時間、往復4時間か某TV番組みたいだな……取材はされないけど。


 だって森の俺の家の方が快適なんですよ。魔道具だらけで文明的なんだよ。それに基本は多くの人と関わりたくないが前提だからしょうがない。


 教師をやるのに無理があるのは解っているけど、だからこそ諦めたくないんだよね。


 人は一人では生きていけないけど、自分だけの時間を持つことは大事だと思う。


 しかしこんな状態で将来恋愛とか結婚とかできるのかな?


 ハーレムは希望してないからなんとかなったらいいな……

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