第83話 スライム研究

 俺は酒の製造の道筋は出来たので、この後の酒の発展はこの世界の人に任せることにした。


 1つ仕事をやり遂げた俺は、暫くいつもの学校と森の拠点を往復する生活に戻っていた。そんなある日、グランからスライム養殖の土地の選定が終わり建設が始まると聞かされた。


 その時、以前スライムは特殊だと考えた事を思い出した俺は、折角スライム養殖が始まるのなら、スライムの活用方法が多い方が良いだろうと、研究してみる事にした。


 スライムは今まで硬さを調節したり、他の物を混ぜる事で用途を広げてきた。


 それらは全て言ってみれば工業の使い道だった。では食用としては使えないのだろうか?


 前世でスライムの活用法は色んな漫画や小説で紹介されていた。それがこの現実の世界で出るかは解らないが、やってみる価値はあると思い、先ずはスライムが食用に出来るか鑑定してみたが見事無理という鑑定結果、いきなり終了である。


 無理な物はしょがないので、他の可能性を探るため、先ずは形状を変えてみる事にした。


 今まではスライムの特性、柔軟性を利用してる事が多いからその全く逆ではないが水分を抜いて乾燥させたらどうなるか試してみる事にした。


 結果は透明度が無くなり白くなった。少し力を入れれば崩れてしまう塊だった。


「何だこれ? 見た目は大きな肉まんだな」


 前世で俺は肉まんが好きだったからそう見えただけだが……


「肉まん? 食べ物? 嫌々、それはないだろう? でももしかしたら」


 食用不可だったスライムの形状が食べ物に見えたのが気に成ったので一応鑑定してみる事にした。


「な! なんだよ、そんな落ちかよ!」


 鑑定結果は食用可、前世の重曹と活用法が同じと出た。重曹なら使い道はかなりある。これは良い物が出来た。


 重曹の使い道としては、掃除、洗濯、消臭、料理、美容、飲む、ざっと思いつくだけでもこれぐらいある。


 掃除や洗濯、消臭は生活魔法のクリーンがあるからどれくらい需要があるか解らないから後回し。


 料理はやはりパンだろう。異世界あるあるなら天然酵母だろうが作るのが面倒。しかし重曹ならスライムを乾燥させるだけだから需要はあるだろう。


 美容は「洗顔」「パック」「シャンプー」に使えるから、錬金術三人衆に渡して新商品の研究をしてもらおう。


 最後に飲む、これが上手く行けばこの世界に炭酸水が誕生する。

 問題はクエン酸をどうするかだが、まぁここは単純にレモーネ(レモン)から錬成陣で分離だな。


 水コップ一杯に重曹2g、クエン酸2g。


「おぉ~ 出来るのは知ってるけど、実際に炭酸水が出来るのを見ると感動する」


 炭酸水が出来たら飲んで見ないとね。甘さが欲しいから、はちみつを少々足していざ。


「おぉ~~~ 炭酸だ~~~ 美味い!」


 転移して3年目、久しぶりの炭酸に思わず叫んでしまった。


この後、はちみつの代わりにローム糖でもやってみたがいまいち、砂糖ならどうかな? 今度試す事にした。


 これでハイボールも作れる。果実ジュースと混ぜれば色んな味の炭酸ジュースが出来る。これは勝る!


 この結果から考えられるのはスライムの水分は何かの混ざった水ではなく特殊な物と言う事が解る。そうしないと炭酸水は作れない。


 本当にスライムは不思議な魔物だ。絶対神様が意図して作った魔物だな。


 魔物? 魔石がないからそれも違うな。動物でも無いから、今のところ不思議生物としかいいようが無いな。


 その後も色々混ぜたり、熱を加えたり、冷やしたり、焼いてみたりとやっていたらスライムガラスが出来ちゃったよ。


 こんなめんどくさい事やってたのか? そりゃ面倒で作る気しないわな。


 それなのに、こんなの製法を秘匿する意味あるか? それに作る過程でプラスチックみたいなものが出来たけど何故この利用方法を考えなかったのかね?


 ペットボトルのような物が作れるんだぜ、まして放置されても風化して土に帰る優れもの。確かにこれまでは水か酒ぐらいしか入れる物は無かったから、そこまで考えが行かなかったのかもしれないが、本当に解らん。


 しかしこれはまだ世の中に出せないな。世界が成熟していないから。


 今までこの世界にはポイ捨てするようなゴミは無かった。勿論ゴミが無い訳じゃないが、気軽に捨てられる様な物が殆どないからゴミが多くない。


 そこに気軽に捨てられるものが登場したら、ゴミだらけになってしまう。


 最低でもゴミはゴミ箱にという習慣が世の中に広まらないとペットボトルもどきは出せない。


 勿論、俺は使うけどね。家には冷蔵庫もあるから炭酸水や炭酸ジュースを冷やしておくんだ。


 スライム研究と言えば、もう一つあったな。あれはこの世界でもあり得るんだろうか?


「しかしな~~~ ないよな~~~」


 可能性としてはかなり低いとは思うんだが、絶対ではないんだよな……


 それはスライムの進化、食べる物での進化、この世界に特殊なスライムはいない。


 だから可能性は極めて低いのだけど、今までは食べる物が色々だったから進化しなかったけど、スライム養殖で汚物だけを食べ続けたら突然変異とかで特殊固体が出ないだろうか?


 言ってみれば強制的に食事を統一してるのだから、生きものであれば何か変化が起きても不思議ではない。特にスライムは元から特殊だから。


 これは要観察だな、魔物にもスキルはあるのは確認できているから特殊個体が生まれたら、スキルに変化が起きるかも?


 それには10年、100年、1000年という年月が掛かるかも知れないが、面白い研究テーマではある。俺は生きていないけど……


 そう俺が生きていないと言う事は現状のこの世界ではこの研究はされないことが確定している。


 産業を発展させることも大事だが、それだけではこの世界は変わらない。此処まで来ると産業革命というより、文明開化に近いか?


 そんな壮大な事を俺が考えてる時、俺と出会ったことで人生が変わり、やりたいことが沢山増えた1人の男が、そのやりたい事のうちの一つを実行に移そうとしていた。

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