第82話 領都が燃えている

 ウイスキーとブランデーはケインの店での試験販売から売れるという確証を得たので、本格的に販売を始める事にした。


 軽く表現してるが実際はとんでもなく売れた。俺は暫くビールやワインを見たくない程に作らされた。グランのせいもかなりあるが……


 しかし、設備は用意できても製造する人がいないのだ。ラロックの町では求人を掛けても人が集まらない。

 仕方がないので、領都で募集を掛けることにした。


 その領都の商業ギルドで酒の製造で求人募集を掛けたらとんでもない事に成ってしまった。


 実は領都からラロックに来ていた冒険者や商人がケインの店で飲んだウイスキーやブランデーを瓶だからという事もあって土産に買って持って帰った事が発端で、販売前だというのに領都で噂に成っていたからだ。


 求人募集の内容が酒の製造と言う事が広まり、当然、時期的に未知の酒の製造という事だろうと言う事に成り、それを聞いたドワーフからの問い合わせが商業ギルドに殺到してしまった。


 ドワーフは種族特性的に、鍛冶を筆頭に物作りが好きだしけていたが、酒は作るのも好きだが、これだけは飲むのが好きだからという別の理由も追加されている。


 商業ギルドからの連絡で急きょラロックからグランさんが領都に向かった。


 本当は蒸留酒の製造に一番詳しい俺も行くべきなんだろうが、学校があるから何日も空ける事が出来ないから、蒸留窯の設計図と蒸留方法を書いた物をグランに渡してそれで対応してもらうことにした。


 設計図などをグランに持たせたのは、どうせなら製造も領都でやって貰おうという事に成ったからだ。


 正直これ以上ラロックでは対応できない。職人が増えれば住居も必要になるし、製造に必要なエールやワインを一々ラロックまで運ぶのは無駄だからだ。


 ラロックで消費する蒸留酒ぐらいなら俺だけでも作れるし、場合によっては拠点に蒸留窯を設置すれば拠点のメンバーで何とかできると考えた。


 領都に到着したグランは先ず、商業ギルドに行き説明会を3日後に行うことを伝えて、問い合わせがあった人達に連絡してもらい、その足で領主のビクターに面会を申し入れた。


 グランからの面会の申し入れには何かあると思ったビクターは翌日に会うことを許可した。


「ビクター様お忙しい中、申し訳ありません。今回も是非相談に乗って頂きたい案件が御座いまして参上いたしました」


「グランの相談か、ちと怖いが話してみるがよい」


「では先ずはこれをご賞味ください。毒味は済ませてあります」


 ビクターは傍についている家令に目線を送り、頷きがあったので出された物を飲んだ。


「な! これは酒か? 何とも強烈な刺激のある酒だな」


 今回用意したのは水割りのウイスキー、それでも初めて飲めばこの反応が普通である。


「これは今度、当商会で売り出すウイスキーという酒を水で割ったものです」


 その後ウイスキーやブランデーの商品説明と、飲み方などを説明した。


「酒の紹介に来たわけではないのだろう?」


「はい、この酒を領都で作ろうと思うのですが、この酒は爆発的に売れると思うので、大きな工房を領都に作りたいのですが如何せん土地が確保出来ず困ってしまい、ご相談に伺った次第です」


「土地か~ ここも最近の好景気で人の流入が多くて余ってる土地はないな~」


 それはグランも解っていた、だからこそ相談に来たのだ。


「でしたら、領都の外でしたらよろしいでしょうか?」


 防壁の外なら本来自己責任で建物や畑を作っても問題ないのだが、流石に領都のすぐ傍だから許可を貰いに来たのだ。それに領主に話を通して置けば気に掛けてもらえるという、はらずも利もある。


「防壁の外か、それならこちらは問題ないが大丈夫なのか?」


 普通なら大丈夫とは言えないが今回グランには勝算があった。


 それは今回の求人で多くのドワーフを確保できると思っているからだ。そうドアーフに工房から酒まで、全てを作って貰おうと思っている。


 領都の周りだと先ず大型の魔物は出ない。出てもスライムやホーンラビット位だ。それなら薄いレンガの防壁か空堀で対応できるから、レンガとセメントもどきさえ用意すれば良いだけだ。


 ドワーフは力もあるし器用だから、スキルが無くてもそれなりの物は作ってしまう。


「それは大丈夫で御座います、それでは許可して頂けると言う事でよろしいですか」


「うむ、許可しよう」


 グランはウイスキーとブランデーを10本づつ献上してる事を伝えて領主邸を後にした。


 説明会当日、商業ギルドの会議室には人族数人とドワーフが15人ほど集まっていた。

「では今から酒の製造の求人について説明します。その前に先ずはこちらを」


 グランは全員にウイスキーのストレートを少しづつ飲ませた。


「な!なんとこれが噂の酒か! 話には聞いていたが何と強烈な酒じゃ」


 人族もドワーフもみな似たような反応だった。


「今回の求人はこの酒の製造工房を防壁の外に作り、そこでこの酒の製造と貯蔵をやって貰う人の募集です、それと……」


 グランはこの酒の特徴、熟成させるともっと美味しくなると言う事も付け加えた。


「なんとまだ上手くなるのか?」


 今の状態でもドワーフ達には強烈で飲みごたえがあるのだから、それが上手くなると聞けば、黙っていられない。


「それは是非やらせてほしい! のう皆の衆!」


「おう! やらいでかい!」


 人族はドワーフの熱気に押されながらも参加を表明していた。


 今回応募してくれたドワーフ達は全員今の仕事を辞めてくるそうだ。本当に何というか、ドワーフの酒へ情熱を甘く見ていた。


「では1週間後から作業に入りますので宜しくお願いしますね」


 グランは直ぐにユウマに連絡を入れ、蒸留窯の製作を依頼、ラロックからレンガとセメントもどきを大量に送って貰った。蒸留窯もドワーフに作らせようとしたが、一刻も早く酒の製造に掛からないと拙い状態なので、今回はユウマに任せた。


 グランは領都の商業ギルドで蒸留窯を特許申請したが、酒の製造方法は申請しなかった。これだと蒸留窯はただの蒸気に成ったものが、元に戻るだけの装置。


 そこは商売である。蒸留窯を使えば蒸留酒は作れるがその作り方まで教える義務はない。いずれはばれるだろうがそれでも、熟成までは解らないだろうからこちらにまだまだ分はある。


 後は作る人の努力次第、材料から調べて試行錯誤してもらおう。


 それから1か月後領都の外に立派な蒸留所が出来ていた。


 それが完成するまでの工事現場はドワーフ達の熱気で誰も近づくことが出来なかったという。

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