第81話 ロイスの受難

 森で飯テロを考えてから、グランに卵を産む鳥の魔物はいないか聞いたが知らないというので、調べてもらうことにした。

 勿論、オックスについても何処に多く生息してるかも調べて貰っている。見つかっても直ぐには動けないだろうが調べる事はしておきたかった。


 何故か?そうです、ティムの魔法が作れたから将来を見据えてね。

 どのくらいの魔物までティム出来るのかや、魔法陣によるティムは検証できていないので急いではいない。


 後に、この検証作業中にとんでもない事に気づくことになる。


 学校も二期目なのでやることは同じだから、余裕が出てきたから飯テロとは言えないかも知れないが蒸留酒を作ろうと思い、蒸留窯を森の拠点に製作した。


 俺の前世で住んでいた所にはビール工場もあったし、地ビールを作って販売している店もあった。


 郊外にはウイスキーの工場もあったから休みの日に見学に行くこともあったので、蒸留窯の構造がどんなものかは知っていた。


 勿論、ビールも作れるけど、材料から揃えてに成るから今はそこまでの時間が無い。


 ウイスキーやブランデーならエールやワインがあるから買ってくれば済むから今回はこちらにする。


 エールやワインを大量にフランクに注文したら変な目で見られたけど、いいじゃんこの国では成人は15歳なんだから文句は言わせない。


 ましてもう直ぐ20だよ、前世でもOKな年に成るんだから。


 寝かせる樽は何種類か木を変えて作った。木の種類で味も変わるだろうからね。

 蒸留は何の問題なく出来たから、それぞれ樽に詰めて新設した倉庫に寝かせ、実験を始めた。


 実験!それは時間操作です。ソースの作成では成功したけど、今回は年単位だからどうなるか?


 多分成功しても時間操作の魔法が使えるのは俺だけだろうが、自分の飲む分はやりたいじゃないですか、熟成された芳醇な香りのウイスキーやブランデー、前世38歳まで生きてましたから、それなりに口は肥えてるのです。


「先ずは3年ぐらいでやってみますか」


 熟成が進むイメージで樽の中のウイスキーに魔法を放つ、魔力が持って行かれたから多分成功かな?


「色は少し琥珀色してるな、まだまだ年代物に比べると薄いけど」


 次は一気に20年でやってみた、すると魔力をごっそり持って行かれた。


「おう! 凄い! 近くにいるだけで芳醇な香りがしている。色も濃いし量も少し減っている」


 時間を多く操作する時は魔力が多くいるんだな。これは勉強に成った。


「出来たからにはちょっと味見を」


 なんだろう? 俺興奮してるのかな? 独り言が勝手に。


 ストレートで少し口に含んだウイスキーは、前世で飲んだどのウイスキーとも違った。


「う! 美味い!」


 今日は魔力をごっそり持って行かれたから、これ以上は出来ないから出来たものを前もって作っておいた瓶に詰めて保管した。何時でも飲めるように。


 それと熟成前のウイスキーとブランデーも瓶に詰めた。これはフランク達の味見用。


 翌日学校の授業が終わって、グラン一家の男性陣を招集、拠点の食堂で試飲会を開催した。この時の俺は子供のようにワクワクしていた。


 グラン達がどんな反応するか楽しみで堪らなかったのだ。


「グランさん、こんなお酒を造ってみたんですが試飲してもらえます?」


 そう言った時のフランクの俺を見る目が痛い、こいつまた何かやらかしたなという目だ。


「酒? ワインじゃないのかい? 瓶に入ってるから」


 最近はガラスが流通するようになったので、ワインは瓶に入ってる物が流通してるからグランはそう言ってきた。


「まぁ、先ずは一口飲んで見てください」


 俺は全員のグラスに少しづつ透明な液体を、一気に飲まないように注意しながら全員に注ぎ。注ぎ終ると俺の合図で


「乾杯!」


「ごふ! げふ! かぁ~ 何だこれ! 胸が焼けるようだ」


 この世界のエールやワインしか飲んだことのない人達にとって、このアルコール度数は未知の領域、何と言って良いか解らずただむせていた。


「強烈でしょ! 次はこれに水を足してレモーネを少し入れたものを飲んで見てください」


 水割りに少しこの世界のレモンに似たものを絞って、飲みやすくしてみた。


「お! 飲みやすくなったな。これなら酒好きには受けるかも?」


「そうですね酒好きのドワーフには喜ばれるかも?」


 やっぱりそこは変わらないのね。この世界のエルフやドワーフは異世界あるあるとは違っていたけど、そこは変わらないらしい。


「では次はこれを」


 今度はブランデーを初めから水で割って飲ませた。


「これぇはまら少し味が違いますれ~~~」


 あれ?何だかロイスの雰囲気が違う様な? 呂律がおかしい?


「ユウマこれってもしかしてエールやワインを大量に買った事が関係してるか?」


 鋭い! 流石フランク。酒の大量購入と今回の酒を繋げたよ。


「そうですよ、この酒はエールやワインから作られています」


 ユウマはこの酒がどうやって作られているのか、その仕組みや原理も一緒に説明した。


「そうなんれふね~ これはうれまふね~~」


 やばい! 間違いなくロイスの呂律が回っていない。


 後から聞いた話では、ロイスは元から酒に弱くエールもジョッキ一杯飲めないそうだ。その量しか飲まなくても、酔っぱらって翌日は二日酔いになると教えてもらった。


 だったら飲ませるなよ、もしくは先に言って欲しかった。


 なんだか俺が申し訳なくなるだろうが。


(すまん! ロイス、次は酒の試飲は頼まないから)


 俺は心の中でロイスに謝罪した。


 この後女性陣には果実水で割ったものを試飲してもらって不評は無かったので、ケインの店で試しに販売してみようと言う事に成った。


 売れるようなら新事業の立ち上げだ。また人探しから始めなきゃ。

 いつも人探しが付いて回るが、こればっかりはどうしようもない。


 この酒は熟成させるともっと美味しくなると伝えたら、グランが商売にするかは別として倉庫を作って貯蔵するから俺に製造を依頼してきた。


 嫌々、個人が飲む分だけに倉庫はいらないでしょ。この人どれだけ飲むつもり?


 翌日、頭を抱えて真っ青な顔をしてるロイスに俺は改良版上級解毒ポーションを渡した。本来二日酔いに上級は必要ない。初級で十分なのだが、これは飲めない酒を飲ませた、俺の罪悪感からでた行為だ。


 前世でもあったんだよ。上司が飲めない新入社員に無理やり飲ませていたことが、その時俺は上司を止める事も新入社員をかばう事もしなかった。その不甲斐なさが一種のトラウマになっている。


 今回は無理やり飲ませた訳じゃないけど、試飲会のメンバーにすればその時点で強制したことになってしまった。というわけでトラウマが発動、必要もない上級ポーションを渡す事に……


 酒は毒じゃないからポーションは効かないが、二日酔いになるのは肝臓で分解の時に作られる成分でなるから、それには効く。体に害のある物だからね。


 俺がこれをわざとやったら、毒耐性とか毒無効のスキルが生えるのかな?


 毒を試しに飲むのは嫌だけどこれならやってみる価値はあるかも?


 しかし、俺のレベルは高いから全ての面で常人とは違うから、どれだけ飲んだら二日酔いに成れるのか? それが問題だ!

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