第80話 卒業と変化

 視察から数か月、今日職業訓練校第一期生の卒業式が行われる。


 学校建設から教科書作り、カリキュラムの設定、改良など様々なことをやって来た1年半、漸くこの日を迎えられた。それも最高の成果と言える結果を出して。


「ユウマ君! あの時学校を作ると言った時にはどうなるかと思っていたけど、本当に作って正解だったね」


「そうですね、この結果が出せたのもグランさんや協力してくれた皆さんのお陰ですよ」


 スキルが元からあった職業の学科の生徒は全員スキルが発現し、スキルが無いガラス科の生徒には耐熱スキルが全員に発現、1人もスキル未発現を出さずに卒業させられる。


 これ程喜ばしい事はない。スキル発現が遅い生徒には補習とは違うがプチパワーレベリングという荒業も使ったが、前世で言う全員に資格を取らせることが出来た。


「グラン商会も卒業生が就職してくれたから、これから益々大きくなるよ」


「グランさん多分ラッロク、いや国中がこれから凄い事になりますよ」


 此処からは本人達次第、前世の学校や職業訓練校なら就職の斡旋などもするのだろうが、この世界には弟子制度があるから現存の親方の所には紹介できない。何故なら殆どの親方達は学校に好意的では無いから。


 しかし、領主の肝いりで学校に来た生徒達は帰れば領主主導で事業が展開されるだろうからその人達は心配していない。


 問題なのはそうではない生徒達だが、ガラス科の生徒は拠点というかグラン商会に就職、錬金術以外の生徒はラロックと領都の親方の所に殆どが就職した。


 ラロックと領都は好景気だから仕事はあるけど職人がいない状態だったから、卒業まじかには学校まで勧誘に来ていたぐらいだ。


 勿論、自分で工房を開くという猛者もいる。錬金術師は卒業生が共同で化粧品を作る工房を作るという生徒や拠点で働きたいという生徒がいた。


 卒業式、目の前の生徒達は希望に満ちた顔をして。、最後に掛ける言葉は


「職人達よ貴方たちに幸あらん事を祈っている」


 1年前までは何も知らない素人だった人達がスキルも発現させた職人に成ったのだ。


 職人と呼ばれた生徒達は涙を流す者、歓喜に震えている者、ただ空をみやげている者、抱き合って喜びを共有してる者など様々だった。




 卒業式を終え、二期生を迎え4か月ほど経った頃、各地で変化が起きていた。


 領主主導で事業が展開された所では少しづつだが景気が良くなってきていた。


 鍛冶職人が馬車の台車を作り、木工職人が上物を作り、改良馬車が出来たことで人や物の動きが良くなり、それに加えて新商品が出回るようになったことで経済が回りだし、景気が良くなって行った。


 そんな中でも、進歩に否定的な親方達は頑なに特許に目を向けず従来品を作り続け、どんどん仕事が来なくなり廃業する者、諦めて特許に目を向けるしかなくなった者がいた。


 一方、領主や各ギルドが結託して暴利を貪っていた所では他領から入って来る新商品や安い商品に地元の職人達が作った物は売れず、利益が出なくなっていった。


 利益が出無くなれば、いくら安い賃金で雇っている弟子達でも負担に成って来る。


 商業ギルドだけは何処の物でも売れれば税は入って来るから、利益は出ていたが当然少なくはなっていた。


 その結果、領主に入っていた賄賂も減るから領主は憤慨し商業ギルドに文句を言うが、商業ギルドは文句を言われてもどうする事も出来ない。職業ギルドの問題なのだから。


 職人たちが特許を受け入れ、新商品を作ればいいがそれでも安くは売れない。安く売れば賄賂は作れないし、どのみち弟子を雇えなくなるのだ。


 領主は困っていた。このままだと不正が発覚する可能性もあるし、他領の領主は儲かるが自分は全く儲からない。そんな状況でも贅沢は止められないから、商業ギルドを責め立てていた。


 案の定それから暫くして商業ギルドから上がって来る税の報告金額が著しく下がったことで、国の調査が入り不正が発覚した。


 元々過少報告していたが、領主への賄賂を少しでも確保しようと商業ギルドが更に金額を下げたことが命取りに成ったのだ。


 勿論、商業ギルドも自分達の利益を下げればもう少しはばれなかっただろうが、長年染みついた贅沢は止められず、自分達の利益を確保することを優先した結果、不正が発覚した。


正に自業自得である。


 ひとつの領の不正が発覚したことから、国はこの機会に全ての領の調査に乗り出し、次々と不正を見つけ処分していった。


 前回は冒険者の悪事で冒険者ギルドの総本部まで問題が行ったが、今回は国によって税制は違うので国内の商業ギルドの元締めである王都のギルドまでで止まったが、多くの人が責任を取らされ辞職した。


 不正を働いた貴族は財産没収の上、断絶、極刑は無かったが罪の重さで鉱山送りや平民に落とされた。


 商業ギルド、職人ギルドの関係者も財産没収の上、鉱山送りや労役が課された。      何も知らずに働いていた職人や見習い達にお咎めは無かったが、当然仕事を失った。


 断絶になった領は、新領主が決まるまでは国が代官を送り管理することに成ったが、それぞれの職人ギルドが壊滅的なので、商業ギルドが代行して簡単な仕事を斡旋、無職に成った人達を一時的に救済した。


 今回の事があったにも拘らず、弟子制度はいまだ残っている。だが衰退の兆しは確実に見えてきた。


 今年の生徒数は1200人、前回の応募から考えると少ししか増えなかったのには理由がある、領主の援助が去年応募した人だけで、今年新たに応募する人には援助が無いので、この微増という事に成った。


 領主にしてみれば当然である。前回はどうしても領の発展の為に人を送りたかったから援助しただけで、人材は確保できたのだから後は個人に任せるのが当たり前だからだ。


 それでも自費での入学者が200人近くいたのはスキル発現の効果だと思う。


 それに今年からは国の援助が学校にあるので学費がかなり安く出来たことも要因のひとつだ。


 スキルの発現や肥料による国への貢献が考慮されて、国が予算を設けて学校の援助をすることに成った。面倒な視察も少しは役にたったということかな?


 校舎は200人増えても対応できたが、寮はそうはいかず増設した。


 来年からは減るだろうから、余った校舎の使い道を検討している。


 俺としては魔法科や魔道具科を考えているが、それには超えなければいけないハードルがいくつもあるから、結論はまだ出ていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る