第79話 学校の成果

 肥料の件がほぼ解決したのでそれまで殆ど黙っていたカルロスがスキルの発現について聞いて来た。


「グラン、生徒のスキル発現は聞いているがその後どうだ?」


「そうですね、スキルの発現は現状全生徒の半分ぐらいでしょうか」


 その返答を聞いた視察組は驚愕していた。


 カルロスは弟子制度に代わる新しい取り組みではあるが、基本は新商品の製作技術を教えるのが目的だと思っていた。


 それなのにスキルの発現があった報告を受けて、驚き今回の視察に同行したのだ。


「な! なんと半分もスキルが発現したのか?」


「はい、各学科で人数は違いますので半分ということですが、発現しいていない生徒の多くはガラス科で、ガラス科は誰一人発現しておりません。」


「勿論残りの学科の生徒にも発現していない生徒もまだそれなりにおりますが」


 ガラスというこの世の中に初めて登場したものだから、スキルが発現するかどうかも解らないのだから発現が無い事に違和感はないが、スキルの発現が報告されてそんなに経っていないのに半分と言われれば驚愕するしかなかった。


「どんな教え方をすればそんな事が起きるのだ?」


 大まかなやり方は開校前の視察の時に報告しているが、カリキュラムの中身までは報告していなかった。まだ完全には決まっていなかったからでもある。


 隠す必要もないので、グランはカリキュラムの内容を説明した。でもどうしてその内容なのかはグランでさえ理解していない。


 カリキュラムはユウマが決めたもので、その通りにすればスキルが発現すると言われてただやっただけだ。


 実際拠点の錬金術師達は未経験者でもユウマの指導で全員がスキルを発現しているから信じないわけが無かった。


 勿論拠点の職人たちはプチパワーレベリングの効果も関係しているが……


「その方法でスキルが発現するのか? ならなぜ今までは発現までに時間が掛かったのだ?」


 それを聞かれても誰も答えられる人は此処にはいない、ユウマ以外に……


 ただ一つ言える事は弟子制度に問題があるということ、それだけは言える。


「今までのやり方が間違っているということではないでしょうか」


 それを言ったのはフランク。


 フランクは拠点でレンガ職人にユウマが壁を塗らせた事で左官スキルが発現した事を知っている。


 それに拠点のガラス職人に耐熱スキルが発現している事も、詳しい事は理解出来ていないが何かの条件でスキルが発現することは肌で感じているので、弟子制度のやり方が間違っている事だけは断言出来た。


「うむ、そうとしか言えないな」


 カルロスはそう答えるしかなかった。しかしその後のカルロスの発言が爆弾だった。


「その教え方は誰が決めたのだ?」


(これまた答える事が出来ない質問、ユウマの事は言えない)


 そうグランが思った時、フランクが


「それは拠点の全員で決めました」


 フランクはスキル発現には条件がある事は何となく解っていたし、ユウマがラッロクの町の職人や拠点の職人に話を聞いて回っていたのは知っていたから、それをみんなでやったことにして答えた。


 ユウマが調べユウマが決めた。これを皆で調べ、皆で決めたに変えただけだ。


 調べた事実はあるし、決めた事実もある。


 ただそれをやった人が違うだけだから調べられなければ、先ず解らない。


 ユウマがこの話を後から聞いた時、フランクという人を尊敬した。


 新しい物好きで色んなものに興味を持ち、人を良く観察してるからこんな返答が出来たんだろう。だからこそ鑑定スキルも発現してるんだと。


「そうか」


 カルロスは納得、いや納得はしていないがそう答えるしかなかった。


 グランの時は何か隠してると思った。そして今回も納得出来ないが、これ以上追及すると良くないと言う思いが今回も働いたので止める事にした。


 国にとって良い事が起きているのに、それに水を注すほどカルロスは無能では無かった。


 その後話題はカリキュラムに体育(魔物討伐)がある事に移った。


 スキル発現には全く関係が無いように見えるから、興味を持つのも当然である。


「レベルが上がればMPもHPも増えるのは皆さんご存知でしょ。それが上がる事で作業効率が良くなるのです。だから体育があります」


 拠点のメンバーがユウマによるプチパワーレベリングの後、作業効率が良くなったり、パワーレベリングの後に錬金術師三人衆が上級ポーションまで作れるようになったし、フランク自身も分離が完璧に出来るようになったのでレベルUPに良い効果がある事は解っているからフランクはそう答えた。


 ビクターは領主だから戦闘訓練もしてるからレベルが上がる事で体の動きが良くなることは解っていたが、そういう事が職人にもある事を初めて知った。


 レベルUP時に細かい数値が変動してる事なんて普通の人は解らないが、レベルUPまでに経験したことが数値としてプラスされるのである。


 例えば本をよく読んだ人は知能にプラスされる数値が多い、剣を良く振った人や鍛冶仕事を良くした人は力の数値が良く上がる。


 こういう事も数値まで見れるユウマだから解る事だけど、普通の人はレベルが上がれば何か変わると言うぐらいにしか感じていない。


 数値はレベルUPしなくても上がる。ただそれが微量なだけ、スタータスが無い世界でも訓練や修行で能力が向上するのと同じ。


 ただ当然時間は掛かるし、上がり易い物とそうで無い物がある。例えば力は上がり易いが器用は上がり難い。


 レベルUPで上がる分は所謂ボーナスのようなもの。だから言い方は悪いが一種のズルではある。


 冒険者が年を取って引退しても、スキルは戦闘向きの物しかなくても何某らで生活出来るのは全体的に数値が高いから潰しが効くからだ。


 ただここでおかしなことに気づく、HPは年を取っても減らないのに老化は確かにあるのだ。それは数値が移動すると言ったらいいのかな?


 年を取ると力、俊敏のような数値が知能や器用に移動する。前世で言うと年を取ると、体力は落ちるが思慮深くなったり、職人なら匠と言われるようになるのと似ている。


 当然数値の移動も個人差がある。


 HPやMPのある世界だけど、人の営みにはちゃんとその世界のルールが存在する。


 ルールは存在する。しかし、この時はまだ本当のルールをユウマは見逃していた。

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