第84話 おらが町に〇〇がやって来た
ユウマと出会って、怒涛の如く日々が過ぎて行っている。楽隠居するつもりだったのが、現役復帰!それが嫌どころか忙しいのに毎日が楽しくてしょうがないグラン。
本当はもっと早く作りたかったが、ユウマが次々と新商品を出してくるので、その対応に追われ先延ばしに成っていたものをいよいよ作る決断をした。
その作る物とは「銭湯」である。
ユウマから石鹸やシャンプーなどを紹介されて、一番に考えたラロックに銭湯を作るという一つの夢を実現しようとグランは動き出した。
自分達はユウマが拠点に風呂を作ってくれているから入れるが、町の人達はそうはいかない。
折角、石鹸やシャンプー、リンスという素晴らしい物があるのに桶でしかそれが堪能できていない。
風呂に入った後の疲れが取れたような爽快感も味わってもらいたい。それには風呂を個人で持つのは大変だから、銭湯を作るしかない。
具体的に考え始めたグランはいきなりとん挫する。そう土地がないのだ。
ラロックは町に昇格するぐらい人口も増え、景気がいいから余った土地が無い。これは以前の領都に蒸留所を作る時と同じだ。
それなら同じ事をするしかないな。でも何処に作ろうか?
今度は風呂だから水の利用が楽な所じゃないとまずいな、それに排水も。
「そうなるとユウマ君に相談するしかないか?」
今回はグランの我儘だからあまりユウマの手を煩わしたくなかったグランだが、スライム養殖にも関係しそうだから、仕方がないと思い相談することにした。
「ユウマ君ちょっと相談があるんだが乗ってくれるかい?」
学校終わりのユウマを捕まえてグランはユウマに話しかけた。
「何の相談ですか? 俺に乗れる相談なら乗りますよ」
グランにはいつも表に立って頑張って貰ってるから、出来る事なら相談に乗るのは吝かではない。
「この町の人の為に銭湯を作ろうと思うんだが、何処に作ったら良いかの相談だよ、水や排水の問題があるからね」
(銭湯、水、排水か)
ユウマは三つのキーワードを頭の中で繰り返しながら考えていた。その時
「ん! 閃いたかも!」
「グランさん出来るかどうかまだ解らないけど、ちょっと考えがあるんです、2週間ぐらい待てます?」
2週間というそれなりの期間だが、ユウマが言うのなら何か考えがあるんだろうと思いグランは承諾した。別に工期がある訳では無いので。
ユウマは早速考えたことを実行に移すために、森の拠点でチートを駆使して必要な物を作り続けた。
10日後の夜、ユウマは学校、拠点、ラッロクの町の三点を結ぶほぼ中心の場所にいた。
学校 畑 スライム
養殖場
ゾイド辺境伯領 ラロック(町) ココ! ユウマ
(領都)ゾイド 魔境 (家)
蒸留所 拠点 (?)
スライム
(?) 養殖場
川
そして魔法を駆使して、穴を掘り始めた、目的は井戸ではない温泉である。
この辺りは10mも掘れば水が出る、しかし温泉はそうはいかない、前世だと1000m以上は掘らないとまず温泉はでない、元から出てる所は別。
ただここは近い訳ではないが火山が割と近い所にあるから無茶苦茶深くまで掘らなくても温泉が出るのではと考えている。
ユウマがこの10日間作っていたのは、取って付きのぶ厚いパイプ、穴を掘るのはいいが上がってこれないと困るので、最終的に取って付きのパイプで昇ってこようというもの。
掘り始めて5時間、深さが5mのパイプ100本を超えた頃、足元に違和感を感じた。
これ以上此処にいたらまずいと思い、急いでパイプを使って地上に上がった。
暫くすると穴から温泉が噴き出した。このままではまずいので掘った土をインベントリから穴に無理やり戻して埋めた。
その間もパイプからは温泉が吹き上げ続けてる。その勢いが弱まるのを待って今度はパイプの先端に温泉が水平方向に出るように曲がったパイプをつけた。
暫くは垂れ流しだけどしょうがないよね。バルブを作ればいいのだろうが、現状オーパーツになるから出来ない。
「やったね、温泉採掘作戦成功!」
その後は、簡易的な溝を掘って垂れ流しの温泉を下水処理用に川から引いた用水路に繋げて流した。
翌朝ラロックの町は大騒ぎ、朝一番に開門した警備兵が遠くに白い煙のような物を発見。直ぐに確認の為仲間を起こして現場に向かうと地面から丸い筒のような物が出ていて、そこから湯気の出ている水が噴き出しているのを見つけた。
その後はどんどん人が集まって来て黒山の人だかりが出来て行く。
その中には騒ぎを聞きつけてやって来たグランもいる。そして何食わぬ顔でグランを見てVサインをしてるユウマの姿もあった。
グランはその姿を見てこの騒ぎの元はユウマだと確信して、出ている水が銭湯に関係していると解った。
それならと、グランは顔馴染みの警備兵を捉まえて
「この水はお湯の様だから、これで風呂を作ったらどうかな?」
警備兵はグラン商会がこの領に多大な貢献をしてるのは知っているので、グランの申し出を何の躊躇もなく受けることにした。
「皆さんこの水はお湯のようですから此処に皆さんが使える風呂を作ろうと思いますが、協力して頂けますか?資材は勿論うちが提供します」
グランはこれを有効利用すべきと考え、職人を探す手間を省くために町の皆に協力を要請した。
その話は瞬く間に町中に広まり、自分達の風呂を作る為に仕事の合間をぬって工事に参加する町民で溢れた。
建物の設計図はユウマが既に用意していたので、グランはそれを見ながら指示を出すだけ、3週間後には建物は完成。中の備品は木工職人達の協力で設置でき、1か月後にはオープンされることに成った。
それはこの国に初めて源泉かけ流しの温泉銭湯が誕生した日だった。
後日温泉につかりながらグランは考えていた。ユウマが関係するとどんなことでも騒ぎは避けられないが、これからも楽しめそうだと……
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