第85話 この世界のダンジョン
温泉銭湯が完成して、ユウマもちょくちょく学校終わりに利用していた、そんなある日、銭湯の入り口でこの辺りでは見かけないような、立派な防具に身を包んだ冒険者風の男と出くわした。
その男は此処を初めて利用するということで、利用方法が解らず、右往左往していたようだ。
「どうしました?此処は初めてですか?」
ユウマは男に声を掛けた。すると案の定利用方法が解らずどうしたものかと思案していた所だと返事が返って来た。
「それじゃ俺が教えますよ、この箱に小銅貨1枚(100円)入れて下さい」
このお金はこの施設の維持費に使われるもの、清掃や修繕、備品が壊れた時の費用に充てられる。
「青い布が下がっている方が男用、反対の赤い布が下がっている方が女用です」
中に入っても銭湯の使い方を男にユウマは教え、体を洗った後湯船に二人で入った。
「俺はサイラスという いろいろ教えてくれてありがとう 助かった」
「俺はユウマと言います、サイラスさんは遠くから来られたんですか?」
「あぁ王都からな」
サイラスはその後どうして此処に来たか話してくれた。王都の近くに有るダンジョンを拠点に長年冒険者をしていたが、年を取ったので田舎でのんびりしたいと思っていた矢先、好景気で成長著しい辺境に湯が沸き出る風呂があると聞いて、田舎だしのんびりも出来るだろうと此処に来たそうだ。
「ダンジョンですか!」
ユウマはダンジョンという言葉に思わず反応した。ダンジョンがある事は知っているが、この辺の冒険者とつながりがないユウマはダンジョンの情報を殆ど手に入れていなかった。
グラン達も商人だから大まかなことは知っていても、詳しくは知らないから殆ど情報が無かった。
「ダンジョンってどんなところですか?」
ユウマの質問にサイラスは親切にしてもらったお礼の意味も込めてダンジョンについて教えてくれた。
ダンジョンはそれぞれの国に一つ、多くはその近くに王都がある。ダンジョンがある所に王都が出来たというのが正解だそうだ。
サイラスが話してくれたダンジョンの構造は前世で読んだ漫画と同じような場所だった。階層ごとに特徴があり出てくる魔物も深くなると強くなるという定番中の定番。
ただ違うのは階層主みたいな魔物はいなくて、実力と行く気があればどんどん深く潜れると言う事。
それでもマジックバックを持っていないと、ドロップ品が多くは持ち帰れないからお金目的の人は深くは潜らないそうだ。
ドロップ品は当然魔石と肉や毛皮、牙など、極稀にランダムで出現する宝箱から魔道具が見つかるそうだ。
その魔道具の多くが生活に役立つ物だけど、殆どは王家や貴族が買うので庶民には広まらない。唯一庶民が手に入れられるのが鑑定疎外の魔道具だそうだ。
見つかると言っても本当に稀、見つければ暫く遊んで暮らせるほどの金額で売れるという。
冒険者にとってダンジョンは非常に効率が良いそうだ。だって普通の森だと魔物を探すところから始めなければいけないけど、ダンジョンならただ普通に移動してるだけで見つかるというのだから倒したい放題だ。
倒したい放題でも持ち帰れなければ意味がないし、マジックバックを持っていても時間停止では無いので長くは潜れない。
強さだけを求めるのなら、ドロップ品を放置してどんどん先へ進めば良いがそう言う人は殆どいない、それをやったのがレベル50という人。
ダンジョンの魔物は普通の森の魔物と同レベルだから、自身のレベルが高くなってくると同じ魔物ではレベルが上がり難くなる。
俺が魔境の奥の魔物を倒しに行ってるのはその為でもある、いくら経験値が100倍でも、同じレベルの魔物では上がり辛い。
ダンジョンの傍に王都が出来るのは人口が多くても肉の供給が楽だから、勿論それだけでは無い。ダンジョンには森のエリアもあるから、薬草や果物など色んな食料が供給できる。
言ってみればダンジョンは食糧庫みたいな物、スタンピートもないのだから正にその表現が的を得ている。
サイラスの話を聞いたユウマはダンジョンにも神様の意図があるように思った。
食糧庫は気にならないが、魔道具には意味があるように思う。
この世界には魔法陣魔法は無い。それに付与魔法も無い。でもダンジョンから出る魔道具はどう考えてもこの二つが使われている、実際両方使えるユウマが同じ物を作れるから。
勿論、魔石の利用方法も同時に教えているように思う。
魔道具が稀にしか出ないというのは神様からのメッセージではないだろうか?
こういう物が作れるから研究してみろという、ただこの世界の人の気質でそれが実現していないだけだと思う。
もしかしたら、錬成陣やポーションも大昔にダンジョンから出たものじゃないだろうか?
確かに俺は創造魔法というチートを持っているが、この魔法だって制限がある。 制限があると言う事はルールがあると言う事、ルールがあるならその範囲であれば問題無いと言う事でもある。
何時かは行ってみたいと思っていたダンジョンの話が聞けて、今日の出会いは有意義な物であった。
「サイラスさん、良いお話を聞かせて頂いたので、お礼に美味しい料理と美味しいお酒を出す店を紹介しますね」
ユウマはサイラスにケインの店を教えて銭湯を後にした。
いやぁ~~ これは色々繋がって来たな。自宅に帰ったユウマは今日まで自分が考えて来た事と今日のダンジョンの話で神様の意図というか、この世界の進むべき方向が解ったような気がした。
「そうだよな、世界を作るのに何も考えないなんて有り得ないよな」
神様は世界の基本を作り、停滞したら時々ダンジョンでヒントを与えているが、それでも停滞が解消されなかったから、俺が送られた。そういう事だろう。
それにこの世界は歪に成長してしまっているからその調整もあるのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます