異世界転移 産業革命を添えて

第86話 ケインの店

　スライム研究で重曹もどき？　を作り出したユウマは学校終わりにケインの店を訪ねた。

（重曹もどき＝スライムパウダー　鑑定に出ている名前）

「ケインさん、今大丈夫？　少し話があるんだけど」

　ユウマがケインの店に来るのは滅多に無いので、突然の訪問と怪しい物言いにケインは警戒を強めた。

　なぜ警戒するのか？　それはグランが時々店に来て愚痴を溢しているからに他ならない。ユウマが絡むと毎回大事に成ってるから嫌では無いが大変だから愚痴は出る。

「おう！　ユウマ珍しいな、お前が来ると言う事はまた何か作ったのか？」

　ユウマ＝未知の物という方程式はグラン一家関係者の共通認識。

「そうそう、ちょっと面白い物が出来たんですよ」

　ユウマはそう言いながら、スライムパウダーとパンを一つ調理場の台の上に出した。

「なんだ？　白い粉とパンに関係があるのか？」

「まぁ、ちょっとこのパン食べてみてくださいよ」

　疑う必要もないので、ケインはユウマに言われるがままにパンを手に取り一口かじった。

「な！　なんじゃこりゃ～　無茶苦茶柔らけいじゃないか」

　この世界のパンは当然のごとく硬い。それがふわふわのパンを出されればこの反応が当然である。

「どうです？　美味いでしょ？　そのパンはこの粉を小麦に混ぜて作ったんですよ」

　ケインはパンと粉を交互に見た後、粉について聞いて来た。

「この白い粉を使ったパン？　白い粉は何だ？」

　それを聞いたユウマは悪戯っぽく

「聞いちゃう？　聞いちゃいます？」

　そのユウマの態度に苛ついたケインは

「いいから早く教えろ！」

　ケインの剣幕に冗談は此処までと言う事で、ユウマは白い粉の正体を明かした。

「これね、スライムパウダー」

　スライムパウダーと聞いたケインは怒るどころか口だけを動かして声を出さず何か言っていた。

　此処は一気に話した方が良いと思ったユウマはスライムパウダーが何から出来てる事や無害であることを説明した。

「害は無いんだな？」

「うん、ちゃんと鑑定してもらったから」

　鑑定はして貰っていないが鑑定はしてるのでそれで通す。

　害がないと言う事で納得したケインは流石料理人、美味しいパンが出来るのなら、レシピが聞きたくなるのは当然で、ユウマに今度は詰め寄って来た。

　ユウマはそれをレシピは後で渡すからという言葉で、サラリと躱し次なる話に持って行く。

「このスライムパウダーね、他にも使い道があるのよ。これ飲んでみて」

　ユウマはケインは知ってるので気にせずアイテムボックス（インベントリ）からコップに入った液体を出しケインに渡した。

「な！　なんじゃこりゃ～～～」

　二度目のなんじゃこりゃ～頂きました。

「これね炭酸水っていうの、ウイスキーをこれで割って飲むと美味しいよ」

　ケインはユウマにそう言われて直ぐに店のウイスキーを持ってきて割って飲んだ。

「うめ～～～」

「これ売れると思う？」

　ケインはユウマにそう言われて少し考えた。確かにパンも炭酸水も美味い。だけどこの元に成ってる物がスライムだと聞いたら客はどうだろうか？

　スライムは何でも食べる。このラロックの拠点や学校では下水処理に使われている、それを当然ラロックの住民も知っている。温泉銭湯の汚水処理もスライムがやっているから。

　ただラロックの住民はスライムクッションのようにスライムが有効活用できるのも知っているから、どういう反応に成るのか解らないというのがケインの今の気持ちだ。

「ん～～～　難しいな。何とも言えないな」

　これは難しいかな？　先ずは拠点と学校の食堂で試してからの方が良いかな？

　ユウマは始め拠点と学校で試した方が良いと思ったのだが、それだと身内びいきで世間一般の反応が見れないと思い、販売するならケインの店の反応が見たいと思ってここを訪ねた。

「やっぱり無理か～取りあえずは拠点と学校だけにするかな？」

　そう言われるとケインも黙っていられない、美味しい物があるのにそれを広められない、これ程料理人にとって屈辱は無い。

「ちょ！　ちょっと待て、そう結論を急ぐな。それなら材料は教えず黙って売って好評なら後で材料を教えるで良いんじゃないか？」

「嫌々、それって後から解ったらやばくない？」

「やばいだろうな、でもこれを売らないというのも無しだと思うんだよ」

　結局ケインの店、拠点、学校の同時試験販売をすることに成った、拠点と学校は販売では無いけど。

　ケインの店だけだと後から解った時に集中攻撃を受けるだろうから、他の場所で多くの人が食べたり飲んだりしても問題が無かったと言う事を言い訳にする。

　話し合いから1週間後ケインや食堂の料理人たちの研修も終わり、満足できるパンが出来たので、提供を開始した。

　当然炭酸水も学校では果実ジュースに混ぜて、拠点とケインの店ではウイスキーやブランデーを炭酸水で割って提供した。

　反響は物凄い物だった。炭酸水はジュースの方があった。元々エールは発泡酒だからウイスキーやブランデーの炭酸割に驚きはあれど、そこまででは無かった。

　一番反響があったのはやはりパン、この世界に柔らかいパンは今まで存在しなったのだから、凄まじい物だった。

　試験提供から1か月過ぎた時に材料がスライムパウダーだと言う事を公表した。

　何故1か月かは、この美味しい物から元の硬いパンに戻れないくらいまで病みつきにさせてから公表しようと思ったから。

　公表当時は反発も多少あったが、思惑通り一度柔らかいパンに目覚めてしまった人達はもう戻れなくなり、害もないと言う事は実証されてるから、一部の人は渋々ではあるが納得した。

　多くの人は問題なく歓迎してくれたので、特許登録して後はこの国の人の判断に任せることにした。