第157話 国際会議 2

「それでは特許の法律についてはこれで決定で良いでしょうか?」


「「「異議なし」」」


「賛同を得られましたのでこれで決定します。今後については各国、国に帰られてから、それぞれの国で特許の法律を作りそれを公開するという事でよろしいですね」


「「「異議なし」」」


 駆け引きはあったものの、一応は国際特許の法律は成立した。後は守られるかが問題だが、こればかりは信用するしかない。


「今回の会議の重要議題は終わりましたが、我が国からもう一つ提案があります。よろしければ、ご検討くださいませんか?」


「何かね? 私は忙しいのだ。大した話じゃないなら帰らせて貰いたいのだが」


「ちょっとまったー、それならわしからも提案がある」


 帰らせろと言ったのはマール共和国の代表。ねるとんよろしく、ちょっとまったーを掛けたのは、神聖国代表。


「それでは、神聖国代表の方、提案とはどんなものでしょう?」


「昨今、各国の教会よりこちらに嘆願書が届いておる。その内容が、教会での治療を行うものが減っているいう事だ。それで我が国としては各国に教会での治療を奨励して貰いたいのだ」


 何をおっしゃるうさぎさん。患者が減っている理由も考えないで、ただ奨励しろ? バカなのか? こう考えていたのは、もうお判りでしょうスーザンです。


「我が国では教会での治療もされているが、そんなに減っているのか?」


「それは我が国も同じだ」


 結局、各国代表の話から、エスペランス王国以外ではそれ程の変化は起きていないことが判明。こうなったらもう言い訳は出来ない。本当はこの国だけを名指ししたかったが、それでは角が立つと思い、他の国をカモフラージュに使った事がいとも簡単にばれてしまった。


「神聖国の代表は我が国を非難したいのかね?」


「そ、そんなことはないぞ。ただ貴国が一番減っていることは確かだが」


「我が国では治療にどのような方法を使うかは国民が決めている。これはどこの国でも同じであろう。それをわが国だけに教会を奨励しろというのはおかしくないかな」


 これを言われちゃ、反論のしようがない。神聖国がこのような暴挙に出たのには理由がある。


 それは、ラロックを視察に来ていた大使の報告がいい加減だったからだ。病院や医者の事は報告していたが、その内容までは詳しく報告していなかった。そうなるのは当たり前、視察を途中でやめてしまっていたからね。


「エスペランス王国では国が病院というものを作って、医者とかいう眉唾の医療者を育成してるとか?」


「眉唾? 神聖国ではそのように伝わっているのですか? 我が国の大使からは病院も医者も素晴らしいものだと報告されていますが」


「「「その通り」」」


 神聖国以外の国は全て賛同の意思を示した。


「いや、そんなはずは……、確かに出来もしないことを出来るという眉唾だと……」


「それって、曲がった足を元に戻したって話の事か? それなら真実だと報告を受けているぞ」


「それなら我が国も報告を受けている。実際にそれと同じことを魔物を使って再現してくれたと、つい最近報告されたぞ」


 ラロックに再度視察に来た大使たちは、フランク達によってより深いところまで視察でき、今後の国の運営にどう生かすか検討して貰えるように報告していた。


「そう言えば報告では、貴国の大使は視察の時最後まで見ずに引き上げたと聞いておるぞ」


「最近再度視察した大使の中にも貴国の大使はいなかったと報告が来ている」


 次から次へと各国から大使のやらかしが伝えられて、神聖国の代表は顔を真っ赤にしてわなわなしていた。


「神聖国の代表殿、これで良いかの? 我が国は貴国の要請は受けかねる」


 ここまで言われれば神聖国もどうしようもない。提案はあっさり引き下げ、そこからは会議が終了するまで一言も発しなかった。


「では改めて、協議するかはお任せしますので、提案だけさせていただきます」


 カルロスは度量衡について口頭で軽く説明した。そしてそれを使ってこの国はこれから各国との取引もすると宣言した。


「ちょっとまったー、それはどういうことかね? 貴国は独自の単位を使ってこれから取引をするという事かね?」


「そうです。ですからその単位をわが国だけでなく、統一して使いませんかという提案です」


 ここで殆どの国の代表は黙り込んでしまった。今頭の中ではぐるぐると損得を計算してるのでしょう。統一することによるメリット、デメリット、事前に話が無かったことだから、今必死に考えている。


「直ぐには回答できないでしょうし、この度量衡の統一でどんなこと起きるか説明しますから、その後でもう一度ゆっくり考えてください。ロイス頼む」


 指名を受けたロイスは緊張がピークに達していたが、「バチーン!」物凄い音と共に、背中を思いっきりスーザンに叩かれ、その痛みで緊張もぶっ飛んだ。


 ロイスはあまりの痛さに、文句を言うつもりでスーザンの方を見たら、顎で「クッイ」とされ、「行け!」と言われたように感じ、ここで逆らったらいけないと思い直し、素直に説明に向かった。


 説明する場所に向かっている最中、ロイスは心の中で、あの人本当に貴族の令嬢か?絶対違うだろう。貴族の令嬢はサラさんみたいな人の事だよ。貴族の令嬢が顎で人は動かさない……。説明する場所に着くまでずっと悪態をつき続けた。


「エスペランス王国、グラン商会のロイスと申します。若輩者ですが今回統一しようとしている度量衡について説明させていただきます……」


 ロイスの挨拶から始まった、度量衡の説明は実に簡潔で分かりやすかった。二度目ですから、説明にも慣れたのと前回の反省も踏まえて、説明の仕方を工夫したので、より分かりやすくなっていた。


 説明が終わり、質問でもあるかと待ち構えていたが、誰もしてこない。おかしいと思っていたら、代表の一人のつぶやきが聞こえた。


「グラン商会…… 度量衡…… 特許…… 病院…… 改良ポーション……」


 ロイスが自己紹介でグラン商会という名前を出したのが、代表たちの思考を余計に複雑にしていた。


 グラン商会という名前はこの時には非常に有名だった。特許の殆どがグラン商会から出ているし、学校も病院もグラン商会が絡んでいる。そんなところの人間が提案してる度量衡だ。ないがしろにしていいはずがない、絶対メリットもデメリットもあるはずだ。


 そんな風に考えているから、結論が中々出せない。慎重に結論を出さないと後で痛い目を見るという警戒感が増大してるのだ。


「質問も無いようですから、この辺で会議を終了します。度量衡については我が国の方針は分かっていただけたものとして、今後の取引を行います」


 度量衡というのは統一すれば効率はいいが、基本的に他国が口を出していいものではない。提案という形を取ったが、お誘いのようなものだ。うちはこうしますから、同じにしませんかという。


 前世でもアメリカなんかは、ガロン、マイル、エーカーなどを使っている。




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