第158話 開拓と検索

 俺とサラがラロックに戻ってから、一週間ぐらいは冷やかされていたが、それが落ちつく頃には王都に行っていたロイスたちも帰ってきて、久しぶりに全員が揃った。


 ここ最近、色々あった事でなんとなくだが全員成長してるように思う。見習い達は知識が増えて堂々としているし、賢者候補たちは自信がついているようだ。


 全員が揃ったことで、賢者見習の教育がスピードアップされ、知識だけはかなり付いて来たので、そろそろ実践をさせる為に必要なレベルアップを行うことにした。


 これを実行する前に俺はグランに頼んで、ビクターに許可を貰ってもらった。


 その許可というのは魔境の森の開拓です。開拓と言っても森の境から200m位まで木を切って土地を広げるだけです。


 これはお父さん達の屋敷を建てる為の土地の確保と屋敷が出来た後の安全を確保する為です。


 以前の計画では病院と同様に地下トンネルで繋げるつもりでしたが、魔境に建物が二つになるならいっそのこと、開拓して地上を移動できるようにした方が良いし、貴族の屋敷が見えないところにあるというのもおかしいと思ったからです。


 病院もそうですね、今となっては隠す必要も無い訳ですし、患者の受け入れも馬車がそのまま入る方が都合が良いので、森を開拓することにしました。


「それでは今日から森の開拓をしますが、俺とサラさんは別行動をしますので、後はフランクさんの指示に従ってください」


 フランクにはどういう計画かを話している。先ずは賢者見習いのレベルアップを目的に森の入り口付近で魔物を討伐して貰う。それをやりながら自分たちで木の伐採もやる。


 素人ですが賢者候補はそれなりにレベルが高い人が多いので、力はありますから、出来ない事では無い。伐採した木材は俺が屋敷の建築に使うが、一部はラロックの木工職人に渡す事にになっている。


 魔境の森の木材は丈夫らしく高級家具を作る材料らしい。日頃は滅多に手に入らないらしいから、今回の開拓の噂を聞いただけで、グラン商会に問い合わせが来たそうだ。


 グランからその話を聞いた俺は、それなら丁度いいという事で、木材をタダで譲るから、家具を作って欲しいとお願いした。


 屋敷の家具も俺が作るつもりだったが、数も多いし、専門の職人の方が習熟度は高いから、デザインや設計だけして、後は任せることにした。


 このデザインでも一波乱あった。俺が前世の知識で、天蓋付きベットやロッキングチェア、三面鏡の化粧台などをデザインしたら、この世界には存在しない物だったらしく、デザインを売ってくれと言われた。


 家具のデザインも本来なら著作権何だろうが、そこまでする必要があるかと俺は思ったが、良く考えると、そういう事をいい加減にするから、争いが起きる。


 アニメや漫画でも料理のレシピすら登録していたんだから、これも登録することにした。それに使用料を安くすることで世間に広まりやすくもした。


 この世界は未成熟だから、出来るだけ争いの種は減らした方が良い。それに料理のレシピだって料理人が研鑽した結果なんだから、守られるべきだ。


 まぁこの世界の料理ってまだそこまでの進化はしてないから、レシピ登録何てまだまだ先だろうが。


 こうやって作ったものが守られ、少ない金額でもお金が入ってくるようになれば、新しいものを作ろうという意欲が湧いてくるかもしれない。もしかしたら大金持ちになる可能性も出てくるからね。 実際、俺がそうだから……。


 この前、グランに色々注文した時に俺のお金がどれくらいあるのか興味本位で聞いてみたら、とんでもない金額を言われた。俺は日頃小金貨すら見たことがないのに、白金貨で50枚はあるそうだ。白金貨50枚って前世だと5憶だよ……。


 俺でその金額という事は俺より儲けている、グラン商会はいったいくら稼いでいるんだ? 初めの取り決めで、俺は少なくていいと言ってあるからね。


 俺の生活費はグラン商会の人とは別に、ひと月、銀貨10枚を貰っている。商会の従業員より少ない金額ですが、ラロックの拠点にいる時の食事はグラン達と一緒だからお金は掛からないし、大きな買い物をする時はグランが払ってくれるから、俺は殆どお金を使う事がない。ちなみに銀貨10枚は10万円。


 あ! レシピの登録やお金のことで思い出したけど、そろそろ味噌と醤油を広めたいんだよね。それにこの前、サラと俺の家でいた時に俺はとんでもない事に気づいたんだよ。


 その時の俺は自分のバカさ加減に心底呆れた。それは俺の鑑定EXの検索能力を使えば、米も卵を産む魔物も調べられたんだよ。どうこのおバカぶり……。


 物を作る時には材料の代替品とかを検索とかしていたのに、欲しくて欲しくて溜まらない米の検索をしないなんて、あり得ないでしょ!


 他にも俺はこの鑑定EXを使いこなしていない。これってネットの繋がったPCなんだよ。前世なら普通に使っていたのに、こちらではスキルという形で目に見えないから、意識から外れるから使おうとしないんだろうね?


 それに気づけば検索するよね。そしたらなんと米も卵を産む魔物も簡単に見つかりました。当然と言えばそうなのだが、この時の気持ちはどう表現したらいいのか?


 自分に腹は立つし、情けないし、嬉しいし、どう手に入れようか考えるし、もう色々で何とも言えない気持ち……。


 どう手に入れようかというのは、両方ともビーツ王国の南部とフリージア王国にしか無いし、いない。


 これって米をここで育てるには品種改良するか、魔境の奥で栽培するしかない。魔物の方は環境を整えてやればなんとかなるだろうが、これにも暖房が必要になる。


 クーラーは今研究中だけど、いっそのことエアコンを研究した方が良いかもしれないな?


「サラさん、今から俺がやることは、俺の家で見せた本同様、まだ他の皆には秘密ですから、言わないで下さいね」


「もう、二人でいる時はサラと呼んでくださいと言ったじゃないですか。それは追々直してもらうとして、ユウマさんが言ってはいけないという事は両親にも言いませんよ。あの本の内容を知れば怖くて言えません」



 サラは聡明だから、あの本の内容は飛びぬけているから、本を読んだ後、公言できないと俺が口止めする前に、自分から言ってきた。


 それに俺の正体についても何も追及してこなかった。多分なにか感じてはいるだろうが……。


 俺は森の少し奥に入ってから、風魔法で木をどんどん伐採、土魔法で土を軟かくして、切り株を掘り起こし、どんどんインベントリに回収していった。勿論、木材もね。


 それを見ていたサラは口に手を当てて、驚きで声を出さないように耐えていた。


 今回も土魔法で建物を建てる予定だから、今は森の入り口の木は伐採せず残して目隠しにしてある。


 屋敷の囲いは土魔法でやるとこの世界にはそぐわないので、今回も木材で囲う。


 そろそろ魔法による土木工事も広めていければ良いな。どちらにしても土魔法の使い手が進化しないとこれも無理なんだけど。


 普通科、冒険科と魔法を研究してるけど、まだまだなんだよな。レベルを上げるために冒険科も頑張ってはいるけど、所詮、魔境の入り口の魔物の討伐が限界だから、そこまでレベルが急激には上がらない。


 これってもしかして、来年も残るなんて言わないよね? 流石にそれは拙いよ。


 今年の普通科の生徒も、来年冒険科に行く人もいるだろうから、どんどん冒険科が増えて行ってしまう。


 これマジでやばいよ。対策を考えないと……。














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